第13話 悩み
ウルドとアレックスは考えていた。
2人は服を1着しか持ってきていなかったのだ。
しかも、それは学校の制服。
学校の制服と言っても格式ばったものではないので動く時に着ることは出来るのだが一着というのは心もとない。
「おい、始めるぞ。」
そんなことはお構いなしに修行は始まる。
「今日は2人で戦ってもらう。ルールは異能なしでやれ。あ、あと本気でやれよ。負けた方は一週間、修行はなしだからな。」
2人にとって修行はここ居る意味なのだ。
より一層2人の拳に力が入る。
ハアァ ハア
「ウルド強いな。」
結果は、アレックスが勝った
しかし、その差は限りなく小さかった。
では、異能が使えたら‥
「次は異能ありでやってみろ。」
「「コンバットッ」」
2人の異能が解放される。
その瞬間アレックスの姿が消える。
勝負は一瞬だった。
コツン
「ッ??」
「お前の負けだよ。ウルド。」
アレックスは何処に行った?
そう考えていたらウルドの額にアレックスの拳が突き付けられていた。
それほどまでに違ったのだ。
アレックスの速さが、戦いのレベルが。。
「先生?」
ジン先生に言われて初めて、ウルドは自分が負けたことを知った。
(違う。そんな筈ない。そんな遠いはずないんだ。だって1年だぞ。)
たった1年。
ウルドは進級テストも合格出来た。
自分では、上手くやっていると思っていた。
学年でも上位のアレックスに勝てると思っているほど現実が見えていない訳ではない。
しかし、ちょっとは期待もあった。
それだけ努力はしてきた。
でも、現実は全く足りていなかったのだ。
今のウルドにはそれを直視するだけの余裕はなかった。
(ああ、やっぱり駄目だった。何でこんなに‥)
ウルドは走り出した。
「ウルド!待て!」
先生に止められたが無視して走る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
行く宛もなく走り続ける。
今まで溜めてきた感情が次々に溢れ出てくる。
(やっぱり駄目なのか)
じゃあもう諦めてしまおうか。
逃げてしまおうかこのままモンスタースレイヤーズのことなど忘れて。
闇堕ちやこの先の未来、全てを忘れて今だけでも家族と普通の生活をしよう。
そう思った。
ウルドはただ走った。
○
「ウル。何処までいったんだ。」
「今は1人にさせてやれ。あいつは自分を冷静に見つめ直す時間が必要だ。それよりアレックス、何であの技を使ったんだ?軽くいなしてからカウンターの方が確実だったろ。」
「実は、昨日先生とウルの会話聞いちゃったんです。今までは狩人にみんなでなることが幸せなんだと何となく思っていました。でも、俺みたいにウルは狩人に縛られる理由はない。モンスターを食べてまで強くなったその先に幸せがあるとは思えなかったんです。だから、ウルが絶望するだけの力を見せて諦めさせようとしたんです。でも、やり方間違えちゃったのかもしれないですね。」
そう言ったアレックスの顔は悲しそうなものだった。
つまり、アレックスはあえて難しい技を使って実力の違いをウルドに見せ、諦めさせようとした。
「アレックス‥そんな思いつめるな。俺はそのつもりでお前らを戦わせたんだ。どっちにしろ1つ言えるのは、ウルドは壁にぶつかるということだ。お前は色々考えてよくやってくれたよ。ここからは教師である俺に任せておけ。」
そう言ったジン先生の背中はいつもよりずっと大きく見えた。
○
(ボクはまた逃げてしまった。逃げるのはやめようと誓ったはずなのに…)
ウルドは自己嫌悪に陥っていた。
何度も何度も逃げ続ける自分のことがどんどん嫌いになる。
「ウルド」
名前が呼ばれた気がして振り返る。
がそこには誰もいない。
「ウルド、飴」
ミリー?
何処にもいない。
飴ってああ、そういえばミリーに飴貰ったのに食べてなかった。
そう思ってウルドは制服のポケットからミリーに貰った飴を取り出す。
(あんまりおいしそうじゃないな)
貰っておいて失礼なことを思いながら飴を食べようと透明な包み紙から飴を取り出す。
そして飴を食べようとしたその時
「ウルド、こんなところにいたのか。」
ジン先生だった。
「先生すみません。勝手に逃げ出してしまって。」
「そんなことはどうでもいい。大事なのはお前の未来だ。では、問う。ウルドお前はこれからどうしたい。このまま、なれないであろう狩人を目指すか、それとも、狩人になることを諦めて普通に生活するか。どうするウルド。」
ボクは・・
「ボクは狩人になります。」
諦められなかった。
何より未来が心配だった。
ジン先生は知らないがウルドはこの先起こるかもしれない未来を知っている。
「今のまま狩人を目指すということか。」
「ボクは異能を使って狩人になります。」
先生は知らないが原作通りにいけばウルドは闇堕ちする。
もし原作通りに進まなかったとしても闇堕ちしないとは言い切れない。
(最初からボクが持てる選択肢はこれしかないんだ。)
モンスターを食べて強くなる。
強くなれば闇堕ちすることもなくなる。
モンスターの脅威から家族や友達を守れる。
ウルドはそう判断するしかなかった。
「その意味はわかっているな。」
「はい。」
食べた後あれだけ暴走してしまったんだ。
体にいいものではないだろう。
でも、ウルドが狩人になるにはこれしかなかった。
「…じゃあモンスターを食べても暴走しないように修行しないとな。」
「はい!」
こうしてウルドにとって本当の夏が始まった。
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