メモ2


「GPSはカタブキ町で消えたって……そんなのもう、追えっこねえだろが!」


 小柳慎弥こやなぎしんやはスマホに向かって毒づいた。電話の相手は警察学校の同期。ヒモのイラストレーターが寄生先の娘に殺されたとおぼしき、例の事件の所轄にいる男だ。

 家出した少女は重要参考人になっている。もちろん未成年なのだし、逮捕が目的ではなく保護対象としてだ。事件の状況をかんがみても成育環境を考慮しても、それが妥当だと思う。

 だがカタブキに沈まれたら、公権力でも手が出せないのが現実だった。あの街は魔境なのだ。


「警察はお手上げってお前、俺だってただの一般人だ、もっとどうしようもねえ。潜入捜査なら自分でやれ」


 くだらないあおり記事のためにチマチマと情報をくれたのは、そういう魂胆だったか。これ以上知りたければ調べに行けと。

 カタブキの中なら、小柳のような胡散くさい人間の方が動きやすいのは事実だ。だが、誰が好きこのんで捨て駒になりに行くと思う。


「俺に死ねってのか」


 文句をたれると、スマホから腹立たしい言葉が返ってきた。だが小柳は無言で電話を切った。


「こんな事件、続報書いたって売れねえよ。危なすぎて調査打ち切りってライターと編集に言やあ、それでしまいだ」


 カタブキに首を突っ込んでまで、少女を探す意味はない。とっくに死んでいる可能性も高かろう。


「……あんな、蝶が見える奴だらけの街」


 つぶやいて自嘲した。自分も同じなくせに、怖いのか。


 電話を切り際に言われたのは「死に場所、ほしくないか?」という言葉だった。

 見透かされている。消えた少女に対し、小柳が個人的に興味を抱いてしまったことが。クソいまいましい。

 どうしてとっくに辞めた身で、警察の思惑に乗ってやらなきゃならないんだ。行きたくない。


 ――だができれば。

 そうだな、その少女が幸せかどうか、確かめてみたい気はする。


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