第19話 歴史を学ぼう

「ここか」


憲兵の人に聞いて俺は今アイルミロクの図書館にいる。

たどたどしくもあったが看板は【アイルミロク国立図書館】と書かれている事が分かった。

やはり識字は必要だ。


「よし、入るか」


両扉を開け、中に入る。

するとすぐ横に受付の男性が新聞を読んで座っていた。


「ん?図書館の利用かい?なら金貨1枚預けてくれ」

「あ、入館料とか必要なんですか」

「…君、使うの初めて?金貨を預けるのは本を破いたり汚してしまった時に新しいのと買い換える代金さ。本を大事に扱って帰るのならその時に金貨は返すよ」


なるほど…と感心した。

というか本一冊で1万円…

どれだけ前の世界の本や紙が安く買える程の技術を持ってるのかを思い知らされる。

俺は金貨1枚を出し、入館した。


「まずはーっと…あ、これかな?」


本棚から歴史系の本を捜し歩き、それっぽいのを見付けて木版を出して文字と照らし合わせる。


【五カ国建国史】


…うん、間違いなくこれだ。

俺は本を抜き取って閲覧コーナーらしき所にあった椅子に座り、本を開いた。


【五カ国建国史】

この大陸にある五カ国の1つ、アイルミロクは数百年前に初代国王レガウス・アイルミロクによって建国された国だ。

そんな中、ある者はこの国の更なる繁栄の為に技術開発を国王に打診したが断られ、この国は進化は止まるだろうと国を出て行く。

その者と同じ志を持った者達はそれに着いて行った。

またある者は芸術に心を惹かれ始め、この者も技術開発の為に国を出て行った者と同様に更なる高みを望み、仲間と共に国を出た。

そんな者達に続くように古代遺物の探求、大自然との共生をそれぞれ望む者達も独立していった。

中でも大自然との共生を望む者と技術開発を進める者の中は悪く会う度に啀み合う等していた。

国王はその者達を止めることはしなかった。

自身が望む国の在り方、それを受け入れられない者は少なからずいる。

それを知っていたからこそ出て行くのも再びこの国に身を置くのも本人の意思の自由だったからだ。

そして年月は経ち、新たな国が建国された。


より高度な技術を求め、進化を続ける為に独立した

ラテゼ魔工皇国。


自身の表現を芸術で表し、まだ見ぬ表現方法を探し続ける

エルジヴィア大公国。


古代遺跡の発掘、発見し、先人達がどんな生活をしていたかの探求を続ける

ウステール共和国。


自然を愛し、自然と共に生きる

アスマニア自然公国。


この4つの国が建国された。


それと同時に戦争も起きた。

お互いが「我が国こそ優れた国である」そう主張していたからだ。

中でもやはりアスマニア自然公国とラテゼ魔工皇国の火花は他国にも引火してしまうのではないかと思える程の激しい火花を散らせていた。

そしてとうとう5カ国全てを巻き込んだ戦争が始まった。


自然を愛でていたアスマニア自然公国は真っ先に技術で他国より遥かに上を行くラテゼ魔工皇国に落とされる────そう思われていた。


アスマニア自然公国は大自然と共に生きる国だ。

故に───


モンスターとの共生にも成功している。


中でも他国が驚いたのは飛竜ですら使役していた事だ。

その為、他国から攻め込まれている時は竜の各属性のブレスと大きな袋に多くの岩石を入れて空からばら撒くといった方法で他国による侵攻を退けていた。

互いが互いに攻撃し合い、気付けば10年以上の月日が経っていた。

そんな長い期間戦争が続けば自ずと戦争に参加した国民も疲弊してくる。

そんな中、アイルミロクの3代目国王リーフェルト・アイルミロクが立ち上がり、自身の国を含めた5カ国にある条約を提案した。


それこそが【異文化不可侵和平条約】だ。


最近では言いやすく【不可侵条約】と言われるようになっているが正式名称は【異文化不可侵和平条約】となっている。

この条約は────


国同士、互いに互いの文化を尊重するのであれば国内なら如何なる成長を遂げて構わない。

が、自国から他国に移住し、自国の文化を取り入れた商品を移住先の国で販売してはならない。


という条約だ。

その代わりこの条約に違反する行動が見受けられた場合は違反した者は罰金とその物品の破棄を命じられるが、その製品を販売せずに自身で扱う装飾品として扱うのは問題無い。

そして、この条約はその国で永住を決めた者が守らなければならない条約である。

その為、移住を予定してない、住む所を転々としている者…言うなれば冒険者には適用されないようになっている。

つまり─────


我々の国に移住はいいけど元々いた国の文化は取り入れないでね。

けど住処を転々とする冒険者は該当しないよ。


という事だ。

だがここで1つの問題がある。

仮に他国文化を取り入れた製品だと知ってそれを使いたい者が現れた場合だ。

そのような者が製品を買いたくても売ってしまえば条約違反に繋がる。

そこで考えられたのが"腕章"と"契約書"だ。

各国がそれぞれの国の紋章を描いた腕章を永住する者に着けさせる事でその者がその国に永住を決めたサインとし、簡単に見分けが付くようにした。

そしてその腕章を着けた者が買い取りに来たら契約書の方を書く事で買う事が出来る仕様にした。

それこそが"異文化製品販売許可書"と"異文化製品購入承諾書"だ。

この2つの契約書は2つでワンセットとなっていてこの2つと腕章をしている事で永住者でも異文化製品を買う事が出来るようになる。


ちなみに古代遺跡の発掘が盛んに行われているウステール共和国は最初入っていたが4か国の提案によりこの【異文化不可侵和平条約】を途中で抜けている。

理由は一つ、ウステール共和国には古代遺跡が多数眠っている遺跡は大変重要であり、五カ国が建国される前の文化について知識を得られるのと、アイルミロク国やアスマニア共和国が遺跡発掘に金銭で応援され、その代わりとして他国の者が発掘した物は発掘した本人に所有権が与えられるからだ。

その為、まだ見ぬ古代遺産を巡って五カ国が協力し、ウステール共和国に支援をした上で母国から出稼ぎに行っている国民に発掘してもらう代わりにウステール共和国の経済は安定させて遺産を提供してもらっている。

このようにして五カ国は平穏を保つ事に成功した。


パタリ…と本を閉じ、椅子に全体重を預けて天井を見上げる。


(どの世界でも戦争はさすがにあるのか…)


変わらないんだな…と思った。


「さてと、今日はここまでだ。帰るとするか」


俺は立ち上がって本を戻した後、店員から金貨を返してもらって帰って行った。

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