第3話 居候先
騒動が終わると同時に少年が重そうなスーツケースを引き摺るようにして持ってきてくれた。
「お姉ちゃん、勝ったの?」と聞くと彼を見た母親がホッとした表情を浮かべながらその少年に抱きついて「うん、ショウが呼んでくれたお姉ちゃんのおかげでね」と泣きながらそう言った。
それから、大騒ぎをしてリーフェも皿運びなどをしながら運ばれてきた料理を摘まみながら食べながら動いてきた。
そして、程なくして客達はあらかた満足したのかお金を大量に払ってから宿泊してる者は部屋に戻り、明日も仕事がありそうな人はフラフラしながら帰っていった。
後は、宿屋の女店主とその息子ショウとリーフェだけが残った。
それで皆は後片付けをしてる最中に女亭主が話しかけてきた。
「今日は本当にありがとうね。お嬢さん。それにしても綺麗な顔ね。何処かの貴族の人かな」
そう言われたけどリーフェは何も隠すこともなくこう言った。
「一応貴族だけど何も問題ないわ。さっき家出した。」
そう答えると彼女は酷く驚いて、慌てて片付けを終わらせて自分の洋服のシワなどを気にせず慌てて跪こうとするけどリーフェはそれを許さず、同じように慌てて彼女を抱き締めた。
「そんなことしなくていいのよ。さっきも言ったように私家出したのよ。これで貴女と同じ庶民よ」
そう言うと、リーフェはスクっと立ち上がって自分のスーツケースに近寄り、ある物を取り出そうとしていた。
ガサゴソと中をまさぐっていると家から持ってきた自分のアクセサリーが入っている布を取り出した。
「少ないかもしれないけどこれを受け取って欲しいの」と言いながら布を取って煌びやかなアクセサリーが見えた。
「え?えええ!!そそそそそんなの、受け取るわけ行かないよ!!」と慌てように言うと彼女は「そりゃそうだ」と言うかのように肩を竦めてから机の上にそれを置き、そしてその中から一つの指輪を取り出した。
「見た目は高級だけどもう流行外れの物だから質屋に行けば高値で売れるよ。それかいっそ自分で付けてみない?」と言いながら、無理矢理にでも掴ませようと彼女の手にそれを握らせた。
リーフェの最後の言葉だけは聞き取れていたのか慌てて首を横に振ってそれから返そうと彼女に詰め寄ろうとしたけど手で制止された。
「本当はここに入ってるアクセサリーを全部あげてもいいんだけどさっきの様子を見るに可哀想だからその1個をあげようと思ったの。おまけにこれから世話になりそうだしね」と言うと周りを見渡しながら店の様子を改めて観察した。
昔からやってきたのか所々椅子と机がボロボロになってる場所があったけど何度も直したりその上で綺麗にしてる様子が伺えた。
そして天井には彼女の慎重じゃ届かなかったのかクモの巣が残っていた。
「こういうのは私のこれで」と言ってから右の人差し指をピッと出した後指先から小さい炎を出した。
そしてそれを天井に残っているクモの巣に向かって放った。
小さな火はクモの巣に付くとすぐに燃え広がりそれを灰にすることが出来た。
残りのクモの巣も火は移動し付いて同じように燃えていった。
そして、ターゲットを失った火は何事もなく消えた。
「一丁あがり!」と締めの言葉を言うと女店主が口をぽかんと開けていた。
そして息子は目をきらきらさせていた。
「生活魔法を一通り使えるからさ。それにさっきみたいに迷惑客を追い出すくらいは出来るよ」
「お母さん、家で雇うよ!僕ら二人じゃいっぱい客が着たら対応しきれない」
子供ながら良く観察してるみたいだ。
「ほら、息子さんもこう言ってるんだし!」
そう言われて女店主ははぁと一度ため息を吐いてからリーフェの右手を掴んでこう言った。
「仕方ないね。私は“
「これからよろしくリーフェお姉ちゃん」と言われて彼の方に向いてさらに頬に仄かに赤く染めてこう言った。
「“お姉ちゃん”はさすがにそういう年じゃないと思うけどね…私…」
「え?お姉ちゃん?綺麗なんだけどなぁ」
どうやら彼の目には本当に綺麗な女性として映っていると考え、これ以上は否定するのが面倒になりそれを受け入れることにした。
「仕方ないね。もうそれで呼んでも良いよ」
こうして、リーフェの働き口と住み込む場所が両方決まった。
二階が彼らの居住スペースになっていてリビングと寝室がある形で自分達のご飯を食べる際は下の酒場で食べる形のようだ。
そして風呂などは平民でもあるようで二人は魔法は一応使えるけれどリーフェのように強くはなく属性も一つしかなく魔法石を使ってお湯を出してるようだ。
しかも永続的ではないので何処かで魔法石を買わないといけないようだ。
「部屋は私の隣を使って」と言うとリガレットの寝室の隣と言う意味だ。
そして、彼女の部屋の前にその浴室があるのだ。
「リーフェの案内はショウに任せるわ。私はお風呂の準備をするから」と言ってそそくさと二階に上がっていった。
それから、ショウは「それじゃ部屋に案内するよ」と言いながら彼女のスーツケースを持とうとしたけど少年の腕力じゃ持ち上がらなかった。
「金目になるものを入れてるから」
そう言ってから彼の手から自分の荷物を取り部屋となる場所に着くまで階段を昇りきった。
「お姉ちゃん…見た目からして細いと思ったのに意外と力持ちなんだ」
しかし実は、リーフェは密かに“身体強化”という魔法を使っているからだ。
それからショウも慌てて追いかけて、ちゃんと彼女の部屋に案内してくれた。
「ここがお姉ちゃんの部屋だよ」
そう言いながら部屋の前まで走り、ドアノブを捻って開けた。
その先は貴族の部屋とは違って木やレンガで作られた部屋だけど自然と彼女の部屋としてはとても心地の良いものだった。
(思わず懐かしいって思っちゃった)と思いながら荷物を抱えながら入ってぐるっと見渡した。
自分が生きていた世界のことを脳裏に一瞬だけ甦ったけどすぐに霞のごとく消え去った。
「貴族様には狭いと思うけど…」と申し訳なさそうに言う彼にリーフェは自分の荷物をベッドの端に置いてからショウの方へ戻り、目線に合わせて屈んで右手で彼の頭を優しく撫でた。
「さっきも言ったけど私はもう貴族じゃないから…それに私にとってはこのくらいの部屋の方が一番心地が良いのよ」と本音のように話してあげたら彼は「えへへ」と笑顔に戻ってこう言った。
「ありがとう。じゃあ、ゆっくりしてね」
そう言ってから彼はその場から去り自分の部屋に戻っていった。
それから彼女もドアノブに手を掛けてから、ゆっくりと閉めるようにして部屋に戻っていった。
「ふぅ、長い夜だったな…」と言いながら思わずを腕を伸ばす運動していた。
どうやら、思った以上に疲れていることに驚いた。
でも、この疲れは屋敷にいたものより大分心地の良い疲れだった。
「あいつらに虐められなくてすむわ…これで…」
リーフェの魔法の有能さに格好つけて自分達の財産にしようとしたから、何度もタクシーのような扱いに晒され続けたのだ。
「さて、今頃何をしでかしてるのかな?」と変な期待を声に出していると不意にノックの音がした。
ドアの向こうから「お風呂、出来上がりましたよ」とリガレットの声がした。
「分かりました!」と返事してから鞄から下着と寝巻きを取りだし風呂に浸かりに行った。
その頃、リーフェの元家族達はある容疑にかかっていた。
続く
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