第4話 内定と預金と面倒事
後日、俺は久しぶりに服を整えてあるビルの前で立っていた。
「ごめん! ちょっと遅れた!」
声がする方を向くと、白崎さんが息を切らせながら歩いてくる。
「まったくだ、遅れるなら連絡しろ」
「そこは『全然、俺もちょうど来たとこ』くらい言わないと、それじゃあ彼女出来ないよ」
「余計なお世話だよ」
「それじゃあ入ろっか」
そう言われ、多少強引にビルに連れられる。中はかなりキレイで何より広い。
「ようこそ! ここが私の所属しているレイントラベラーだよ!」
レイントラベラー、この業界の中ではかなり大手の企業で、ダンジョン配信者の他にもゲーム配信者などもおり、多くの人が所属しているはず。よくそんなとこに内定貰ったな。
ビルの中は清掃が行き届いており、エントランスには観葉植物が置いてある。観葉植物植物もよく手入れされており、枯れている様子は一切ない。
「どーよ。結構キレイでしょ?」
なぜコイツがドヤ顔してくるんだ。面倒だから無視して受付の人に話を通そう。
「ああ、受付をしなくても大丈夫だよ。もう既に話は通ってるし、私がいるから湊君も入れるよ」
「……」
さて、気は進まないが白崎さんのおかげで受付もせず、俺は社長室まで通された。
「さて、君が月夜湊君だね。初めまして、私はこのレイントラベラーの社長をしている
「初めまして、今回面接に応募させて頂きましたつき「ああ、そういう堅苦しいのは結構」……月夜湊です。よろしくお願いします」
「ああ、とは言ってもほぼ採用は決まってるんだけどね」
「……は?」
いやいや、一応大手の企業だよな。こんな適当で大丈夫かよ。思えば受付を通らなくてもよかった時点でおかしいけど。
「勘違いしないで欲しいんだけど、普通のスタッフを雇う時はちゃんと面接するよ。ただ、うちは割と自由にさせていてね、うちの子たちが自分の専属のスタッフとして雇うならほとんど面接なしで通しているよ。もちろん問題のない人か調べているから安心して欲しい」
「待って下さい。俺ってカメラマンだけじゃないんですか?」
「基本はカメラマンだよ。ただ何かあった時に動いてもらえる様に、一応スタッフとして雇ってるんだ」
多少の雑用は覚悟しておこう。
「にしても白崎ちゃんがカメラマンを雇うって言い出した時はびっくりしたよ。今まで誰か付けるか聞いても要らないって返されててね。まあ、これで少し安心できるかな」
「どういうことですか?」
「これ以上のことは個人情報になっちゃうから私の口からは言えないよ。じゃあ採用ってことでこれからよろしくね」
そんな流れで俺の内定は決まってしまったのだった。
—————————————————
「面接どうだった?」
エントランスまで戻ると白崎さんがニコニコしながら待っていた。
「特に問題なく受かったよ」
「っちぇ、つまんないの」
「おいふざけんな」
何なんだコイツ
「まあ、一応よろしくね湊君」
「ああ、よろしく白崎さん」
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内定が決まってから数日後、また何度か仕事が入りながらも学校に登校した。さっさと本部が腕の立つ探索者を寄越してくれればいいのだが、最近はどこのダンジョンでもイレギュラーの発生が多く、戦力になる探索者が足りないらしい。
「いや、にしてもだろ」
思わず愚痴をこぼしてしまうが当然だろう。そもそも以前から仕事が多くて学校に行けてなかったのに、最近は学校に行ける頻度がさらに減っているのだ。かと言って、学校を優先にするとイレギュラーの対処が間に合わずに多くの低ランクの探索者が命を落とすことに繋がってしまう。
「いや〜、でもやっぱ休みは欲しいしな」
そんな悩みをこぼしながら自席にまで着いたので、スマホを取り出し、画面をつける。そこには自分の銀行口座の預金が移されていた。
(……これどんだけあんだよ、一、十、百……
桁が多すぎて数えてられん)
そこには急な依頼や仕事によってたまりにたまって数えるのがめんどくさい金額が顔を出していた。
(こんだけ金あっても仕方ないよな)
もちろん金があることに越したことはないのだが、最近は忙しすぎてろくに買い物もできてないし趣味も楽しめていないのだ。おまけに、税金の問題もある。低ランクの探索者のほとんどは本業があり、副業程度に抑えるので対して問題にならないのだが、俺みたいに探索者を本業にしている人間は収入が馬鹿にならないので、基本的には個人で税理士と契約して丸投げである。そのため、毎年確定申告の期間は税理士は生きる屍の様になっているらしい。俺にもずっと契約している税理士がいるのだが、去年、確定申告の時期に事務所に訪れた時は、モンスターと勘違いするくらいにはやばかった。
(大変恐縮なのですが、今年の確定申告は去年よりもやばそうです)
そんな謝罪を心の中でしていると、やけに周りの視線が集まっている気がする。主に俺に。
「おっはよう湊君!」
「……は?」
口座の画面を閉じたタイミングで突然声を掛けられ、振り向くと白崎さんがいた。
「ん? どうしたの?」
「……いや、何でもない」
まさかまた学校で声を掛けてくるとは思っていなかった。いや予想していなかった。前回わざわざ場所を変えて話をした理由を理解していないのだろうか。そう考えていると……
「んじゃ、改めてこれからよろしくね湊君」
と、満面の笑みで話しており、周りが騒がしくなってくる。白崎さん、絶対皆んなに勘違いされてます。岩なんちゃら君からは滅茶苦茶睨まれてます。絶対白崎さんのこと好きやん。
「改めて説明したいことがあるから、というか今日から働いてもらうつもりだから放課後空けといて、この前のカフェ集合ね」
「え? は?」
彼女は要件を伝えるとすぐに教室を出て行ってしまった。……いやこれ絶対に面倒くさい事が起きる気がする
「おいおい、いつも学校に来ないような陰キャが白崎さんと関係を持つなんて烏滸がましいんじゃねえか」
ほらみろ面倒くさいことになった。
岩なんちゃら君が確実にブチギレながら胸ぐらを掴んできたんだが。
「ごめんなさい。……岩なんちゃら君」
「岩本だよ! テメェふざけてんのか?」
と、謝ったはずなのに怒りのボルテージが上がってしまった。(どう考えても名前を覚えてなかったのが原因です)
「チッ 次白崎さんと関わったらぶちのめすぞ」
「ご、ごめんなさい」
多分こいつにぶちのめされても問題ないだろうが、その行為自体に問題があるため、仕方なく謝っておく。でもこの後また白崎さんと会うんだよね。
そんなこんなで面倒くさい事になり、俺は周囲をフル無視して過ごすのであった。
俺はもう一度、ダンジョンの先に進む 〜活動を復帰しようと思います〜 矢見山空御 @gekkou261
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