第163話 乱入者あり

権蔵が自身のゴーレムを爆発させ、その隙に超巨大ゴーレムを召喚したとき、剛志たちはいきなりの爆発に驚きを隠せなかった。


「なんだ⁉」


万葉と権蔵の会話は聞こえていないため、剛志からすると突然爆発が起きたようにしか見えず、何の前兆もなかったことでただ驚く剛志と臼杵の二人。それに対して人工知能のイチロイドは冷静に状況を分析していた。


「『おそらく自爆機能のようなものが備わっていたということでしょう。なるほど合理的ですね。それによってバーサーカーが完全に切れる前に移動式の爆弾としても活用し、ゴーレムの上限も空けられる。よく考えられています。そうなると、少々予定が変わりますね。作戦を再構築いたします。』」


冷静に分析を進めるイチロイドの声を聞き、落ち着きを取り戻した剛志たちだったが、その冷静さもすぐに崩れてしまう。地響きとともに、超巨大ゴーレムが姿を現したのだ。


「おいおい、勘弁してくれよ。自爆特攻ゴーレムの次はあんな化け物ゴーレムが相手ってか…」


若干の絶望感を覚える臼杵。その横で、同じゴーレム使いとして自分との実力差をより痛感した剛志は、黙ってその巨体を見上げていた。


そして、状況を飲み込んだのち、絞り出すように口を開く。


「…あれはおそらく【増加】の特殊ゴーレムコアとかを用いたゴーレムだと思うけど、正直レベルが違うね。あんなもの、とてもじゃないけど今の俺には作れないよ。でも一つ言えるのは、あれだけのゴーレムはそう何体も作れないってことだね。臼杵はあまり実感ないかもしれないけど、そもそも特殊ゴーレムコアの上限数は普通のゴーレムに比べて極端に少ない。だから本来は、俺みたいに何体も作れないもので、基本は数体の特別なゴーレムを作るだけのスキルなんだ。だからあれが自爆特攻することは考えにくいと思う。…たぶん」


「なるほどな。恐ろしいことを考えるもんだぜ。あれが爆発したときの被害なんて想像もつかないしな。全く、俺もそれなりに名の知れた探索者だったはずなのにな。万葉ちゃんクラスの連中はどれも化け物ぞろいで参っちゃうぜ…」


そう言っている剛志たちのもとに、今度は万葉がやってきた。


「剛志、健司。あのクソジジイ、とんでもないもの出してきたわ。なんでも“スペシャリティ”とかなんとか言ってたけど、要するに切り札ってことでしょ?さすがの私も、あれの相手は骨が折れるわ」


強気な様子は変わらないが、万葉は戦闘スタイル的に、ああいう巨大な相手はあまり得意ではない。そのため、先ほどまでとは打って変わって、彼女の発言には若干のカラ元気が混ざっていた。


しかし、その逆に、ああいった手合いにこそ実力を発揮する男がここに一人いた。雪魔法の使い手・臼杵健司だ。


「確かにな、万葉ちゃんの戦闘スタイルだと苦手だもんな。でも、ここには俺もいるってことを思い出してくれよな。さすがに俺一人だとどうにもならないけど、俺の真骨頂はデバフだぜ?ああいった大型の敵にはデバフは効果てきめんって相場は決まってるんだ。魔法職の意地、見せてやるぜ」


そう言って肩を鳴らし、意気揚々と超巨大ゴーレムに近づく臼杵。といっても数歩前に出ただけだったが、剛志たちの前に立ったことで狙いを定めやすくなった。


「さっきまでずっと温存してたからMPは満タンだぜ!そんだけの巨体だったら、自分の体を支えるだけでかなりの力を使うはずだ。弱体化した場合どうなるか、見ものだぜ!【雪魔法:大寒波】」


両手を前方に向け、巨大ゴーレムに向けて魔法を放つ臼杵。彼を起点に発動した雪魔法は、冷たい風に乗って雪の結晶を送り出す魔法だった。それ自体に攻撃力はないが、臼杵の雪魔法にはデバフ効果がある。


「俺の作り出す雪の結晶には、いくつかのデバフがかかっている。今お前さんにかけているデバフは【行動阻害】。体が硬くなり、動きづらくなる。それだけの巨体だ、もう満足に動けないんじゃないか?」


自信満々に言い放つ臼杵。やや威勢が良すぎるきらいはあるが、ようやく出番が回ってきて張り切っているのだろう。そしてその言葉どおり、権蔵の超巨大ゴーレムは、自身の体重に耐えるだけで精いっぱいとなり、まともに動けなくなってしまった。


切り札である“スペシャリティ”があっさりと対策され、権蔵の表情には初めて焦りが見えた。


「なに?どうした、“タイタン”! しっかりせい!」


神話に登場する巨人の名を冠した超巨大ゴーレム“タイタン”は、体を動かそうとするが、その動きは鈍く、これではまともに戦えない。


それを確認して、面倒くさそうに顔をしかめる権蔵。せっかく自慢げに出した切り札が封じられ、機嫌が悪そうだ。


「まったく、もう少し楽しませてくれてもよかろうに。もう対策完了ってか? そうはさせるものか!」


そう言って別のゴーレムを出そうと、ゴーレム異空庫を開く権蔵。しかしそこからゴーレムを出す前に、階段の方から炎の渦が放たれ、ゴーレムについた雪を燃やし尽くした。


50メートルの巨体を一瞬で包み込む炎の渦が突如現れ、そのまま権蔵とそのゴーレムを飲み込む。そして渦が過ぎ去った後には、わずかに表面が焦げた程度で無事な権蔵と、全身の雪がきれいさっぱり消え、万全の状態に戻った“タイタン”の姿が現れた。


「あっつ!!! なんじゃいきなり!」


怒鳴る権蔵。その声に応えるように、炎の出どころから女性の声が響いた。A.B.Y.S.S.の構成員、Julia Sterlingジュリア・スターリングである。


「あら、そのまま焼け死んでしまえばよかったのに。意外と元気ね」


「んぁ? おぬし、なぜここにいる?」


「あなたが馬鹿みたいに堂々と攻め込んだって報告を受けたから出動したのよ。はじめは潰し合ってもらってから、残った方を潰そうと思ってたんだけど、さすがにこの戦力差は厳しそうだから助けてあげるわ」


その手から炎を放ち、臼杵の雪魔法を強引に焼き払ったジュリア。その登場と会話から、剛志たちは彼女が敵、つまりA.B.Y.S.S.の構成員であることを即座に理解した。


権蔵という強敵も、剛志たち三人で得意不得意を補い合うことで優位に戦えていただけで、本来はかなりの脅威だ。そこに臼杵の雪魔法を一発で打ち消すほどの炎使いが加われば、戦況は一気に苦しくなる。


「ふん、おぬしの助けなどいらんわ! 馬鹿にするでない! わし一人でも、さきほどの魔法程度、解呪することは可能じゃ。属性攻撃ができないとでも思うてか!」


そう言うなり、見せつけるように火と風のエレメントのゴーレムを召喚し、さきほどの炎と同程度の火炎を臼杵に向けて放つ権蔵。それに対し、臼杵も黙ってはいない。


「せっかくの魔法を簡単に解除してくれちゃって。ちょっとはカッコつけさせろっての! 【雪魔法:雪壁】!」


権蔵が放った炎は、臼杵が作り出した雪の壁に阻まれる。さらに続く火炎も次々と放たれるが、臼杵の雪魔法は属性相性の差をものともせず、その強度で上回り、壁は崩れなかった。


雪の密度が高ければ、炎にも抗える。臼杵はそれを証明してみせた。


しかしその裏で、権蔵の攻撃に紛れて、剛志へ向けて別の攻撃が飛んでいた。


見えない死角から、黒く塗りつぶされ視認しにくい苦無が放たれたのだ。


だが、それは万葉によって防がれる。


「あんた、せっかく命からがら逃げたってのに、また懲りずに戻ってきたの? 今度は手加減しないわよ」


そう言って苦無の飛んできた方向を睨みつける万葉。すると虚空から、三雲の声が響いた。


「今度はあんたと正面切って戦うことはしないよ。俺がするのは、あんたの足止めさ。あとはチャンスさえあればってところかな。それくらいなら、俺にもできる」


そう言いながら、またしても死角から次々と苦無を放つ三雲。それを鬱陶しげに受け止める万葉。こうして、三雲対万葉の再戦の火蓋が切られたのだった。


一方、ジュリアに対抗するように炎を放った権蔵に呆れたような様子で、ジュリアは皮肉を込めて言う。


「なんでそういう無駄なことをするわけ? まあいいわ。ここは相性がいいから、私がこの男の相手をするわ。あなたはゴーレム使い同士、しっかりお願いね?」


そう言って、権蔵との会話を一方的に切り上げ、臼杵の方へと歩み寄っていく。


「おいおい、俺の相手はこの美人さんかよ。悪いが、基本女の子には手を出さない主義なんだが……仲間の方が大事でね。全力で倒しにいくぜ?」


「そういうのいいから、さっさと終わらせましょう」


クールに言い放つジュリア。臼杵の相手は、この女性となった。


そして、残されたのは剛志と権蔵。くしくもゴーレム使い同士のタイマンという構図に持ち込まれてしまったが、権蔵は自分が無視されたことに対し、明らかに苛立ちを見せていた。


「どいつもこいつも、わしのことを無視しおって! むしゃくしゃするのう! おい小僧、元々の狙いはおぬしだったが、正直ものたりん。もう面倒じゃ。スキルだけ教えて、さっさと死んでくれんかのう?」


そんな自分勝手で無茶苦茶な提案をしてくる権蔵。これには、さすがの剛志もムッとして言い返す。


「おじいさん。いい歳してそんな態度だから、周りから嫌われるんですよ。私としても、あなたを相手にするのは面倒なので、本気で倒します。そもそも、そっちの都合で襲ってくるあなたたちに、もううんざりなんですよね。こっちはただ、ダンジョンを楽しみたいだけなのに……。もう面倒なので、あなたたちを正式に敵とみなして、排除しようと思います。まずは、あなたがその第一号ですね」


こうして、一対三だった構図は、突如現れた乱入者によって三組の戦闘へと分かれた。


戦いは、第二ステージへと進む。


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