12 ヒバゴンからの手紙

 木曜日夜。

 しほりの父との話し合いを済ませて帰宅したシャモは、サンフルーツ優勝からのDMを受けた。


〔ヒバゴンからみのさん宛に手紙を預かった。土曜に横浜マーリンズ対サンフルーツ広島戦を見に行く予定なんだけど、その前に会える?〕


※※※


「無理言って金曜に来てもらってごめんね」

「今日は授業が二限終わりだったけえ大丈夫じゃ。それでこれが問題の『ブツ』。みのさん以外は絶対手紙を読んだらダメじゃって念を押されとる」

 恐る恐るカバンから白い袋を取り出した彼は、厄介払いが出来るとばかりに袋をシャモに押し付けた。


「何だコレ。イミフな文字と模様がびっしりと。これを解読しろと」

 シャモが渡された袋の中には、手裏剣のような折り紙に所狭しと文字と模様が掛かれていた。

「違う。それは封印じゃ。その手裏剣みたいな折り紙の中に内容が書かれとる。絶対周りに人がおらんところで開いてえや。じゃ、またの」

「えっ、もう行くの? って行っちゃった」

 逃げるように地下鉄方面へと歩き去った背中を見送ると、シャモは男子トイレの個室で手裏剣のような折り紙を開いた。

「これは……。二階ぞめき(高梨藤一郎吉成たかなしとういちろうよしなり)さんに車を出してもらって、三元さんげんに餌を呼ぶか」



 二階ぞめきこと高梨藤一郎吉成教授の名前を出して餌を釣り、長らく減量食と闘っている三元を外食でまんまとおびき寄せたシャモ。

 シャモは比婆ひばさんの指示通りに宿の予約を取ると、念のために家に連絡を入れた。


『『みのちゃんねる』ファンのお偉い教授さんが車で宿まで送ってくれるって? 急に子供三人で泊るなんて言い出して。感心しないね』

「子供だけじゃねえよ。三元の知り合いの郷土史家の先生が一緒に泊まる」

 そもそも俺と三元は成人しているのにと、シャモはむくれ気味だ。

『本当だろうね。後で証拠写真を出しな』

 鬼母の追及をかわすために口から出まかせを言ったはずが、三元は本当に滝沢さんを連れて新横浜駅にやってきた。


「滝沢さんが面白そうだって言うから連れて来たよ」

「そう言う事は早く言えって。三人一部屋で取っちまっただろ。滝沢さんの部屋もすぐに用意します」

 シャモが部屋の予約を追加していると、後ろから餌の大声が耳に飛び込んだ。


「シャモさーん! お待たせしました。高梨教授(二階ぞめき)と会えるとあらば、何を置いても来るしかない。あのお方こそまぎれもない変態クラスのド天才です」

「お母さんはOKだって」

「とりあえず仕事中なので事後承諾で。メッセージだけは送っておきました」

「おい餌大丈夫かそれ?」

 シャモの心配をよそに上機嫌な餌。減量食の甲斐も無く太ましい三元。それに好々爺のように微笑んでいる郷土史家の滝沢さん。

 シャモが三人を連れて指定された場所に移動すると、高梨教授はクラクションを鳴らして三人を出迎えた。


「みのさん(シャモ)。今から大山に行くなんて大丈夫。宿は取った」

「山自体は明日早朝に登る予定なので、この宿に連れて行ってもらえれば」

大山おおやま鶴巻中亭つるまきあたりてい? どこかで聞いた事があるな。あの辺は夜になるとなにもないから、弁当位は用意したら」

 高梨教授の提案で器用軒きようけんの弁当を買う事になった三元は、飛び上がらんばかりに喜びながら器用軒の売店へと急いだ。

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