第24話 八尺様に振り回される話(4)

 私たちは眠気で重たくなってくるまぶたを必死に上げながら朝までその場にいることにした。そして何時間か経ち、日が昇り、時刻は七時を迎えた。この頃涼介はというと、眠気に耐えられず寝てしまっていた。私たちがいなければとっくに八尺様に連れ去られていたのだろうか。



 「…ん?…はっ!?今何時!?」



 目を覚ました涼介が時計を確認すると、部屋の掛け時計の時刻は七時ちょうどを挿していた。



 「七時…俺…助かった、のか?」



 その時、部屋の戸を軽くノックする音が聞こえてきた。そして向こう側からは疲れ切った声が細々と涼介に話しかけてきた。



 「…涼介、生きてるか?」


 「…!おじいちゃん!?本当におじいちゃんなの!?」


 「ああ、わしだ。…その反応、どうやら昨晩奴にたぶらかされそうになったようだな」



 涼介は急いで戸を開いた。するとそこにいたのは紛れもなく、祖父の昭次郎であった。



 「おじいちゃん!俺、もうだめかと…あ、そうだ、俺昨日の夜うっかり窓を開けそうになっちゃって…でもその時、知らない男の人の声が聞こえてきて、開けるなって言ってくれたんだ」



 それを聞いた昭次郎は目を見開いて言った。



 「何だと!?…ああ、涼介、それはきっとわしの弟だ。お前に同じ思いをさせまいと助けてくれたのやもしれん」


 「…じゃあ、俺、親戚の人に助けてもらったの?ってことは俺、もう大丈夫なの?」


 「ああ、ひとまずな。寺の住職が言うには、昼間は八尺様の活動が鈍るらしい。あとは急いでこの村を離れるのみだ。お前の両親ももう帰ってきている。そして…寂しいが、もう二度とここには来るな」


 「!…そんな…これでこの場所とはお別れだなんて…」



 涼介は寂しげな表情を浮かべ昭次郎の方を見る。



 「ははは…そんな顔をするな。まだわしとは別れるわけじゃない。ここの様子が知りたければいつでもわしが教えてやる。今は昔と違って便利なものがあるじゃないか」



 そう言って昭次郎はスマホを取り出す。この間覚に教えてもらった「ラクラクホン」というものだ。私のようなタイプの存在にも良心的なスマホだと思う。



 「…そうだね、分かった。でも俺、絶対ここのこと忘れないから!」


 「…ああ、来年の夏はわしがそっちへ行こう」



 二人は互いに約束をかわし、涼介は涼介の両親と共に車で村を出ることにした。



 「…すまない父さん。涼介がこんなことになっているのに帰ってこられなくて…」



 涼介が乗る大きな車には涼介の父である俊太郎とその妻のさとみが乗っている。



 「ああ、いいんだ。結果的に今こうして何とかなっている。お前とさとみさんもこっちの友達との付き合いがあったのだろうし…それじゃあ、任せたぞ。涼介を村の外まで送り届けてこい。そこまで行けばあいつはもう追って来ないはずだ」


 「わかった。…じゃあ、また」



 こうして、涼介たち一家は屋敷を後にした。そしてそこにやつれた表情の私たちも合流した。



 「…終わった…か?」


 「ああ、おかげさまで。報酬はわしの方から渡しておきましょう」



 私と昭次郎は一件落着ムードであったが、覚だけは違った。どこかまだ緊張が抜けていない表情をしているのだ。



 「ゲンヨウさん、昭次郎さん、まだです…」


 「?なんでだ?確かに八尺様はまだどうにかなったわけじゃないが…村の外なら安全なんだろ?それに、俺たちの仕事は妖魔の解放であって妖魔を祓うことじゃない。俺たちの役目はここまでじゃないか」


 「違うんです!」


 「違うって…何が?」


 「あの八尺様は普通じゃありません。恐らく、将門の怨念に支配されています」


 「は!?八尺様が!?あり得ないだろ、だってあいつは元から悪霊のはずだ…暴走の仕様がないだろ!?」


 「いえ、…私は相手の感情を読むことが出来る妖怪です。なので八尺様が本当に思っていることだってわかります。今は強い怨念によって本当の気持ちが隠されていますが、そこにあったのは確かに、純愛そのものでした。…私、悟ったんです。八尺様はいわゆるメンヘラなんだって。その人に対する愛が強すぎるあまり、相手を束縛したりして自分だけのものにしようとしてしまうってやつです。なのでその感情が将門の怨念によって完全なる悪感情に変わってしまうこともあり得るわけですよ」


 「そっ、それじゃあ、涼介はどうなるんですか?」



 昭次郎が不安そうな表情で覚を見る。



 「恐らく昼間だろうが関係なしに追ってくるはずです。…でも心配しないでください。ここからは、私たちの専門ですから!」



 私たちは身体強化の妖術を使い、涼介たちが乗る車を追った。…そして覚はこの時すでに八尺様に対抗するための秘策を用意してあるのだった。

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