第9話 こっくりさんに振り回される話(2)
「ここか…確かに異様な空間だな…まるでこの神社だけ外の空間から隔離されているような…」
「とりあえず入ってみましょう」
依頼者である
「…ところで、白崎は本当に来てよかったのか?」
「はい、私の友達ですから。私が助けないと。」
白崎の目にはその決意が現れていた。
「でもここ、わらしあんま好きじゃない…目が回るくらい複雑な結界が張られてるよ?早菜ちゃんにはわからないだろうけど、ここはすごく危ないの。」
「うん。でも、みなちゃんは絶対に私が迎えに行ってあげないといけないの。」
「そうなの?…わかった。じゃあ、そろそろ怨念結界に入ろうか。方法は簡単だよ?本人に案内してもらえばいいだけだから。」
そう言うと座敷童は社の前に立ち、甲高い声で叫んだ。
「こっくりさんこっくりさん!あなたはだーれ!」
「え!?それって禁句なんじゃ…」
座敷童の発言に対して、白崎はぎょっとした表情を浮かべる。
「そうだよ?だから言ったんじゃない。ほら、みんなも早く言って!」
私たちは座敷童にせかされ、あなたは誰?という禁断の質問をする羽目になった。しばらく待っているとどこからか突然シャラン…という鈴の音が聞こえてきた。そしてそれに続いて女性のような声が聞こえてきた。
「いいでしょう・・・そんなに知りたければ、教えて差し上げますわ!」
その声に私たちは身構えた。次の瞬間、凄まじい轟音と共に社の扉が吹き飛び、中から悍ましい妖狐が姿を現した。黒い毛に巨大な体、巨大な尻尾、巨大な牙、青白く燃える目、どこからどう見ても化け物である。
「ひっ…!」
「なるほどな。物理的な干渉はもう当たり前なわけだ。…気をつけろ、怨念領域に入るぞ!」
次の瞬間、神社の周囲には黒い帳が降ろされ、無数の人魂と燃え滾る地面が現れた。恐らくもうすでにこっくりさんの怨念領域に入っているのだろう。
「…あっ!あれ、みなちゃん!」
白崎が目をやる方を見ると、そこには白いセーラー服を着た少女が倒れこんでいた。白崎はそれに吸い寄せられるかのようにして駆け寄る。
「みなちゃん…!みなちゃん…!…あっ!」
白崎が必死に呼びかけると、少女はゆっくりと目を開けた。
「…さな…?どうして…ここに?」
「友達だもん…助けに来るに決まってるでしょ?」
「えっ、でもあの狐の化け物は、みんな私のことを忘れてるって…」
「うん、確かに忘れてた。みんな忘れてるよ。でもさ、私がみなちゃんのこと忘れるわけないじゃん。『マブダチ』…そうでしょ?」
白崎は恥ずかしそうにそう言った。…マブダチ…また辞書を引かなくてはいけない言葉が増えた…
「そうだね…私が言ったんだった…私がそう呼ぶたび恥ずかしがってたあんたが、その言葉を口にするとはね…絶対、生きて帰るよ!」
「ふふふ…あなたたちがここから出ることはできない。あなたたちは全員ここで燃やされて骨になるのです。ほら、あんなふうに…」
こっくりさんが指さす方には、無数の人骨と思わしきものが積み重なって山になっているものが見えた。中にはまだ骨になって間もないであろう白くきれいなものもある。
「私たち、あんなふうになっちゃうのかな…」
「大丈夫だよ。ああならないように頼りになる人たち…いや人じゃないけど…を連れてきたの。きっと大丈夫。あの人たちはきっと強い」
「…覚、あの二人、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫でしょう。私、悟りました。あの二人にはとても強い絆が宿っているようです。考えていることもまるで同じ、まさに一心同体というものですね。怨念に打ち勝つには負の感情の反対、正の感情が必要です。彼女たちにはそれが十分備わっていますから、あとはそれを生かせるように術を施すだけです」
そういうと覚は彼女たちの周囲に結界を張った。
「これで大丈夫です。彼女たちの正の感情が続く限り、彼女たちに危害が及ぶことはありません」
「…よし、やるぞ」
私は妖力を体中にみなぎらせる。しかし精神的にはこっくりさんの異常な圧に耐えるので精いっぱいである。
「ゲンヨウさん、一応言っておきますが、今回は生身での戦闘になりますからね。…すみません。人体への影響を考慮すると、無防備な状態でこの間の学校以上に妖力が強い神社に放置するのはどうかと思いまして」
「問題ない。私を誰だと思っている。さっさと終わらせるぞ」
「愚かですね。高々あなたのような人間如きが、私を倒せるわけがないでしょう。…少し大人しくしてもらいましょうか。
こっくりさんは周囲に浮遊している人魂を自身の元へ集め、巨大で高温な青白い炎にして私たちを飲み込んできた。
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