第5話 大学受験浪人~大学入学

(こんなことでは、僕はダメになる)

 そう気付いた正臣は、伸ばしていた髪を切って丸坊主になり、小百合に会うこともやめた。

 そして正臣は、次の年の大学入試に向けて、受験勉強中心の毎日を送った。

 

 それは、不得意科目を克服するために毎朝六時に起きて、旺文社の「大学入試ラジオ講座」を聞いてから朝食をとり、それから予備校に行くというものであった。

 

 「継続は力なり」というが、その甲斐あって正臣は、その翌年には理系、文系を問わず、受験した五つの大学のすべてに合格した。


 具体的には、早稲田大学の法学部と慶應義塾大学の医学部、静岡の県立薬科大学の薬学部、そして、国立大学一期校の医学部と国立大学二期校の工学部に合格した。

 

 正臣はその中で最も有名ではない、自宅から通える国立大学二期校である九州工業大学(九工大)に入学した。

 

 正臣がそこを選んだ理由は、小百合が九工大の近くにある短大に通っていたからだった。

 

 正臣は、高校時代に小百合や小百合のお母さんから、

「志望大学はどこ?」

 と聞かれた時に、

「九工大です」

 と答えていた。

 その頃の正臣は小百合に、

「僕は、立派なエンジニアになるんだ」

 と言っていた。

 

 正臣が九工大に進んだのは、小百合との約束を果たすためでもあった。


 

 正臣が九工大に入学した年に、正臣の家は山の堂町から大谷町に変わった。

 それは正臣の父親が若松で一番大きな工場の工場長になったためであった。

 正臣の父親は国内に十工場を有する金属製品を製造している会社に勤務していた。


 各工場は事業部制をとっていたので、工場長になった正臣の父親は、その工場の経営者になったのである。

 

 社宅とはいえ正臣の家は若松で一番大きな、地上二階、地下一階の邸宅になった。

 


 昭和四十五年四月十五日に「大橋通り」のバス停で正臣と出会った小百合は、不思議そうな顔をした。


「河村君は早稲田大学に入学したと思っていたのに、違ったの?」

 そう言う小百合に正臣は、

「早稲田に入学金は払ったけど、僕にはやっぱり、九工大の方が合っていると思うからね」

「そう、良かった」


 一年以上会っていなかったが、二人の会話はごく自然であった。

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