第18話

18話

部屋の中に踏み込むと、内装が構築され始める。

床から水が出現し、部屋を沈めていく。


「なっ!」


「出口が消えた!?」


水の出現にびっくりした私たちは、入ってきたドアを見ると、そこには壁しかなく、完全に閉じ込められてしまったようだ。

そう足掻いているうちに、部屋は水の中に沈められてしまった。しかし、自然と息苦しさを覚えることはない。

なんだろう……これは……

水中なのに魚になったように、簡単に呼吸ができる。

最初は抵抗感のあった水中での呼吸も1回、2回としているうちに、それが当然のように思えて来てしまう。

天井の照明が眩しいくらいに光る。

手で目を覆い、慣れるのを待っていると、「ガタンッ」という、何かが開く音が響く。

私たちは音のする方を見ると、そこには、

その体の形は人形のようで、足、胴、腕は非常に太っており、所々に水かきのような物や鱗が見える。

頭は、黄色く光る提灯が特徴的な生物である『チョウチンアンコウ』のような顔をしており、大きな口を開け、白い目はこちらを捉えている。

見たことの無い茶色の魚人の化物が現れていた。

魚人は不快な機械音を鳴らしながら提灯を揺らし、こちらを威嚇する。


「くっ……」


私とユキは武器を構え、応戦の構えを取る。次の瞬間、「カチッ」という音とともに、照明が消え、私たちの前には暗黒が出現する。

暗闇の中に光る提灯のおかげで、敵の場所は把握できることに安心した私たちだったが、正面の魚人が消え代わりに、黄色い光が2つ現れる。


「これでも……」


私は杖を真ん中の光へ向け、魔力を発射した。

水の中で紫に怪しく光る魔力は猛スピードで水をかき分けて進み、光の少し先を直撃する……が、手応えがない。

魔力を外した瞬間、中心の光はこちらへ急激に接近し、1匹のチョウチンアンコウが姿を表す。

私は咄嗟に身を屈め、回避すると、チョウチンアンコウは旋回し、また中心へと戻っていく。


「2つのどれかが正解ってわけね……」


「ユキ、行ける?」


「勿論、残りの1つの光は任せるよ」


ユキは刀を鞘に納め、懐から小さな短剣を抜き出し、後方の壁を蹴ったかと思うと、中心の光と共に奥の暗闇へと消えていった。

ユキを見送った私は、前に残された光を見る。

キラキラと暗闇の中に浮かぶ光は、獲物を誘い込むようにユラユラと揺れている。


「そっちから来ないなら……」


床を蹴り、光へと進んでいく。

光は私と一定の距離を保ちながら移動し、こちらの射程範囲に入った瞬間、消える。


「!?」


目の前に赤いモヤがかかり、視界を塞ぐ。

それと同時に右腕に鈍い痛みを覚える。


「噛まれた!?」


右腕には噛まれた跡があり、血が水に溶け出していた。


「早い……」


周囲に結界を貼り、移動を再開する。

光は完全に消え失せ、あれの間合いに入ったことを再認識させられる……。

しかし、


「見つけたっ!」


あいつの歯では結界に穴を開けられても、噛み砕けはしない。思いっきり噛んだためか、歯が結界を貫通してしまい、抜くことができないアンコウを捉えることができた。


「この腕の借りは返させてもらう」


杖先に力を込め、思いっきり発射する。

結界を貫通したそれはアンコウを貫き、それと同時に、結界も粉砕され、ガラス片のようになった破片がアンコウの体を切り裂く。


「トドメだ!」


杖を振りかぶり、アンコウを殴る。

水中で動きが遅くなり、威力は低くなったものの、それでも弱ったアンコウの頭蓋骨を砕くには十分な威力であった。


「ユキの方はどうなっているかな……」


殺したアンコウの死体を踏み台にして、ユキの消えていった奥へと向かう。

暗闇の中を進むので、本当にこの道で合っているのか分からなかったが、目の前に血が漂い始めて、この道で正解であることが分かる。


「怪我してなければ良いけど」


心配を胸に先へ進むと、アンコウとユキの戦闘が見えてきた。

アンコウは得意のスピードで何度も位置を変え、ユキの攻撃を捌いているように見える。

しかしユキの方は息を切らすことなく薙刀を振るい、

アンコウへと向けるたび、

アンコウから鮮血が滲み出ている。

アンコウは遂にスピードを失い始め、

水中のアドバンテージを活かせず、優勢を奪われ、

最終的にはユキに切り殺されてしまう。


「お疲れ〜」


「見ていたなら加勢してくれても良かったのに……」


「そんなことをしなくてもユキなら殺せてただろうから、邪魔したくないしね」


「そう……」


そんな雑談をしていると、地面から轟音が響き、

水位が徐々に下がってくる。

全てのアンコウを殺したことで、部屋のギミックが解けたようだ。


「助かった……」


「水中で苦しいと思うことはなかったけれど、水の重さは体にかかるから、動きにくかったのよね」


「でもこれで動きやすくなる」


水が完全に抜けると、足を上げたり下ろしたりして、動きやすさを再確認する。


「っと、忘れてた」


「どうしたの?」


「いやぁ……油断しちゃってさぁ……噛まれたのよ」


「大変ねぇ……」


私は座り込み、服の中からガーゼと包帯を取り出し、

傷口に巻く。


「軟膏も消毒も無いからあれだけど、ガーゼと包帯を巻くだけでも少しは楽に思えるよ、きっと」


「そうねぇ〜」


「さあ、行こうか……」


私たちはリリー達を迎えに行くため、アンコウのいた部屋を抜け、大きな部屋へと戻る。

しかしリリー達が入っていた建物は既に無く、

代わりに……


「この女の仲間か!」


入口の方から乾いた声が響く。

視線を移すと、そこには電撃が走る鋼鉄の鞭を両手に持ち、金属のパワードスーツに身を包む男が立っており、

後ろには、警察ドロイドに捕らえられているマンタとシャーロットの姿があった……。

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魔界少女 M1エイブラムス @34222

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