緊急対応

 財前は制限区域内をゆっくりと歩きながら、困っているお客様がいないか、注意しながら巡回する。

(さっきまで泣きじゃくっていた子供が、あんなにも嬉しそうに玩具で遊ぶ姿を目にして、操縦士ではない自分を誇らしく思える瞬間だ。こういう笑顔を毎日見て過ごせるなら、少しずつ前を向いて進もうと思える)

 思わず財前の頬が緩んだ、その時。


「本部長、すみません!」

「ん、どうした?」

「先ほどバゲージ(手荷物受取場)横のトイレでご高齢の男性が体調を崩し、先ほどから医師が対応に当たってます」

「直ぐ行く」


 第三ターミナル内を巡回していた財前は、二階の到着ロビーへと急いだ。


***


「状況は?」

「転倒はされてはいないようで、軽い眩暈がしたから蹲ったそうです。近くにいた別のご利用者様が声をかけて下さり、今に至ります」


 白髪のご高齢の男性が、トイレ内の化粧鏡前の床に敷かれた毛布の上で横になっている。

 血圧を測っている環医師に、財前は声をかけた。


「恩田さん」

「はい」

「九十二/五十一、脈拍八十」


 看護師の恩田おんだ 由香ゆかは環の言葉をメモし、環と顔を見合わせる。


「聞こえますか~?ご家族の方、近くにいらっしゃいますか~?」


 ご高齢だから、少し大きめの声で声掛けする環。看護師の恩田は、近くにいるスタッフにご家族がいるなら呼んで欲しいと声を掛けた。


「環医師」

「……財前さん」

「どんな感じだ?クリニックにお連れする?もしくは……」


 ご本人を前にして、『救急車を呼ぶか?』とは中々言いづらい。近くにご家族の方がいれば、相談した上、医師の判断で対処も決まるのだが。


「長時間機内で座りっぱなしだったせいで、起立性低血圧状態に陥ってます。脈が速く、少し動悸もあるようなので、出来れば搬送するのがベストなんですけど、ご本人かご家族の方が昇圧剤をお持ちであればそれを服用するか、またはクリニック内で点滴することも可能ですけど」


 環医師とアイコンタクトを取った財前は、男性の名前と年齢などを確認し、すぐさま踵を返し、到着ロビー内にご家族がいないか、スタッフ総出で探すことにした。

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