第326話 貰うべきアルカナ称号が解釈違いじゃね?
オリエンスの城に戻って来た久遠達は、
(アマイモンを探した時と同じ方角か。アマイモンとの連戦にならないと良いんだが)
そう思っても災難は畳みかけるのが世の常だから、久遠は茨木童子との戦いは本気で羅刹に任せることにした。
「ドラクール、
「かしこまりました」
ドラクールが【
アマイモンの拠点は台地の上にあるのだが、その台地は山と言っても過言ではなく、高度からすればオリエンスの城がある火山よりも高い位置にあった。
台地が近づくにあたり、
今回の目的はあくまで茨木童子の討伐だから、久遠はドラクールに台地の麓に着陸させた。
着陸した先にあったのは、平安時代の再現図で見るようなデザインの立派な門だった。
「んあ? こいつは羅生門じゃねえか」
「知ってるのか羅刹?」
「残酷にして残虐で残忍な鬼の前に現れるオブジェクト型アイテムだって話。俺様がガキの頃に聞いた昔話通りの見た目だぜ」
昔話には教訓が込められている者も少なくない。
鬼ヶ島特有の昔話というものに興味が湧いたのか、守護悪魔の中で最も好奇心の強いオリエンスが質問する。
「羅刹、その昔話ってどんな話かしら?」
「残酷にして残虐で残忍な振る舞いばかりしてた黒鬼がいて、そいつは周りの鬼に袋叩きにされて追い詰められた。その時、羅生門が現れて黒鬼は一か八かその中に駆け込んだ。羅生門の中には黒鬼と同等あるいはそれ以上に害悪な存在ばかり集まり、四六時中何でもありの殺し合いが行われてた。その殺し合いも唯一の生存者を楽園に転移させられるという条件があって行われてたんだが、黒鬼がどうにかこうにか最後まで生き残った時、黒鬼の首が刎ねられて死こそ安寧の地、つまりは楽園だって種明かしされて終わりだ。他者を思いやらねえ鬼の前には羅生門が現れるぞってガキを脅すのに使われてたんだが、マジで実在してたとはな」
「ふーん、同じ地獄にいるくせに教訓が語り継がれるなんて、鬼ヶ島は面白いわね」
「語らせといて興味はそっちにあるのかよ。まったくよぉ」
羅生門に対して興味があるのかと思えば、オリエンスの興味は鬼ヶ島で教訓が語り継がれること自体に興味を示していた。
意図した方向に話が進まなかったから、羅刹は若干不服そうである。
そうだとしても、羅刹の話を聞いて羅生門に入りたいとは思えないから、久遠は羅刹に質問する。
「羅刹、羅生門って壊せたりしない?」
「さあな。だが、面白い。鬼ヶ島の連中が恐れる羅生門をぶっ壊してみるってアイディアは気に入った」
久遠の質問を受け、羅刹は好戦的な笑みを浮かべた。
鬼ヶ島の鬼達に恐れられる羅刹としては、同じく恐れられる存在である羅生門を壊してみたくなったようだ。
「じゃあ、タナトスを呼びに」
「待てよ久遠。それじゃあ意味がない。俺様が壊すから意味があるんだ。水を差すんじゃねえよ」
「やれやれ」
羅生門を壊せるのなら、タナトスに壊してもらうのも羅刹に壊してもらうのも過程が違うだけで、結果が変わる訳でもない。
食い気味に待ったをかけられれば、久遠は肩を竦めて羅刹に任せることにした。
「茨木童子に挑む前の肩慣らしだ」
羅刹は軽く準備運動を行って体をほぐした後、右手右脚を引いて攻撃の体勢に移る。
(そういえば、タナトスからさっき羅刹の新しいアビリティについて聞いたんだった)
今から派手に仕掛ける気満々の羅刹を見て、久遠は昼食のタイミングでタナトスから教えてもらったことを思い出した。
デーモンズソフトの顧問になってから、羅刹はリアルだけでなくUDSでも戦う相手を用意してもらっていた。
その過程でUDSで条件を満たし、羅刹は<
鬼の中でも神がかった強さを保持し、純粋に力と強者との戦いを求め続けたことで獲得条件を満たしたらしく、アルカナ称号を獲得するのと同時に【
三面六臂で知られる阿修羅の名前から取った【
衝撃を二重にするだけでも十分な破壊力なのに、六重にすればどんなことになってしまうのか想像するだけでも恐ろしい。
「四重でやってみるか。フンッ!」
いきなり六重までは使わないようで、羅刹は四重の【
1つ目の衝撃で羅生門が揺れる。
2つ目の衝撃で羅生門に極小サイズの罅が入る。
3つ目の衝撃で羅生門全体に罅が入る。
4つ目の衝撃で羅生門が砕け散る。
(貰うべきアルカナ称号が解釈違いじゃね?)
羅生門を壊した【
砕け散った羅生門だが、ただ粉砕されて終わりという訳ではなかった。
羅生門の奥にあった穴の中から、牛の頭部をした巨大な土蜘蛛が現れた。
「ここを何処だと心得る!? 残酷にして残虐で残忍な茨木童子様の住まいであるぞ!」
「それで良い。つーか、それがわかってて来てんだよ。そこをどけ混ざりもんが」
「貴様ァ!
「下僕が偉そうにすんじゃねえよ。反吐が出る」
目障りなものを見るような目を向けつつ、羅刹は一瞬で牛鬼と距離を詰めてその顎を蹴り上げる。
顎に衝撃が加われば脳が揺れる。
その攻撃が体を鍛え続けて通常攻撃すら二重の衝撃を与える羅刹によるものなら、牛鬼がどんなにイキろうとも無駄だ。
体に力が入らなくなり、ドサリという音を立てて背中から地面に落ちた。
土蜘蛛の体でひっくり返されたのなら、起き上がるためにジタバタするのが自然な反応だろうが、脳を揺らされた牛鬼はピクリとも動かなかった。
「おいおい、羅生門の方がずっと強いじゃねえか。舐めてんのか?」
ワンパンならぬワンキックで動かなくなった牛鬼に対し、羅刹は苛立ちを通り越して哀れみさえ感じさせる目を向けた。
これで終わりだろうと思ったその時、牛鬼の体が灰色に染まって額から真っ二つになるような罅が入る。
そして、灰色の殻を破って中からワンサイズ小さく粘液塗れの牛鬼が全快した様子で立ち上がった。
「キュッキュッキュ。私を倒せたと思ったか? そんな訳ねえだろバーぐぼぁっ!?」
復活して羅刹を煽る牛鬼だったが、全身が地獄の業火に包み込まれた。
炎ならばオリエンスの仕業だろうと思って久遠と羅刹がオリエンスの方を向けば、オリエンスは悪びれもなく口を開く。
「今まで我慢してたけど生理的に無理だったから燃やした。文句あるかしら?」
「それなら仕方ない」
「…仕方ねえな」
久遠が守護悪魔に対して寛容なのはいつものことだが、羅刹がオリエンスに対して寛容な態度を見せたのは理由が理由だったからだ。
羅刹は好戦的で自分の興味を優先しがちだが、他者を思いやれないタイプではない。
味方が本気で嫌がることはしないのだ。
そういうことをするのは情けないと思っているからであり、自分が強くありたいと思う姿の反対側にあるからそうしないのである。
燃やされた牛鬼は土蜘蛛要素が強いからか、火に弱くて炭化したら復活したりしなかった。
てっきりリベザルと同じ展開になるのかと思っていたから、久遠は牛鬼が炭化したまま復活せずに倒れてくれてホッとした。
久遠達がいる場所に強い勢いで風が吹けば、炭化した牛鬼は粉になって風に乗って運ばれていってしまった。
邪魔者が消えたから今度こそ先に進める訳だが、台地に空いた横穴の中に罠が仕掛けられていないとは限らないので、念のためドラクールに指示を出す。
「ドラクール、ソナーで横穴の様子を探ってくれ」
「承知しました」
久遠の指示でドラクールが【
ソナーに反応して横穴の中でいくつか音がしたことから、罠が仕掛けられていると見て良いだろう。
「チッ、さっさと戦わせろよな。久遠、行くぞ」
「行くけど罠は踏まないでくれ。踏まれると茨木童子と戦えるまでの時間が延びる」
「わかった。罠の解除は専門外だから、久遠達の指示に従おう」
自分にできないことで見栄を張らず、アウトソーシングできるのは羅刹の良いところだ。
いくつもの罠が仕掛けられていたが、羅刹が勝手な行動をせずに指示に従ってくれたおかげで久遠達はスムーズに横穴の中を進めた。
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