透明になれる様になったので欲望のまま行動しようと思います

巫山戯

ふたりは変態

夢の変態行為!

朝。

いつもと変わらないはずの朝だった――はずなのに。


目を覚ました瞬間、違和感が全身を走る。

なぜなら、俺――水瀬透みなせ とおるの体が、透明になっていた。



「俺、どこいった?」


 布団の下に俺がいない。いや、正確には俺の姿が見えない


 手を上げてみたけど、見えない。布団をめくってみたけど、そこにも俺らしき影はなく、代わりに布団が俺の形に沈んでいるだけだ。


  ……ちょっと待て、何だこれ。まさか俺、死んだのか?心臓に手を当ててみる。ドクンドクンと、確かに脈打ってる。うん生きてるね。一旦落ち着こう。

 

 布団の中から出て部屋の中にある鏡の前まで移動する。


鏡には……何も映ってない。やっぱり透明だ。これって俺だけじゃなくて服も一緒に透明になってるよな?俺は寝る時に裸族にはならないからな。取り敢えず元に戻れるか試そう。


戻れ〜と頭の中で念じると鏡に絶世の美少年が映る……訳はなく黒髪黒目の特に特徴の無い自分の顔がそこに映った。そこで次に透明になれと、頭で念じるとまた姿が映らなくなった。


その後いくつか実験してみたところ、どうやら自分に触れている物は一緒に透明になるし、透明化・解除は意識するだけでOK。回数制限も今のところなし。便利すぎる。


だが本当に他人から見えなくなっているのかどうか、そこだけはまだ分からない。


実際に他人の前に出てみて、反応を確かめる必要があるな。


そう思い、直ぐに行動に移す。階段をそろりそろりと降りる。


一階、リビングと繋がった台所。

そこにはエプロン姿の母さんがいた。朝の恒例、弁当詰め作業中らしい。俺の弁当と父さんそして妹の分だ。いつもありがとう、母さん。


でも今日は感謝よりも検証だ。


母さんの前に立ち、顔の前で手をぶんぶん振ってみる。

反応、なし。目の前に何かあるとも思ってない様子で、卵焼きを詰め続けている。次に声の検証だ。


「母さーん、聞こえるー?」


声を出してみるが、やはり返事はない。

無視してるとかじゃない。聞こえてないみたいだな。


「なるほどね……」


どうやら俺の声も届かなくなってるらしい。

つまり――視認も聴覚も完全にシャットアウト。俺の存在は、今この瞬間、世界から完全に"見えない"様にになっている。



「これ……無敵じゃね?」


興奮した感情を落ち着かせる為に2階にある自分の部屋に戻る。


何をしてもバレない。誰にも気づかれない。

その事実に気づいた瞬間、心の奥底で何かがはじけた。


この力を使って、俺は――俺は……!


「こんな能力が手に入ったらやることは、ひとつしかないよな……!」


部屋の隅にあった観葉植物が、風もないのに揺れた気がする。いや、それはきっと、俺の煩悩のせいだ。


そう! この能力を使って、カップルに近づき、恋人同士のイチャイチャを覗くのだ!!


誰にもバレずに、合法的に! ノーリスクでおこなえる変態行為!

これをやらずに何をするってんだ!


___________________________________

小話


透にある欲望が宿った。時は――彼がまだ4歳の時だった。そう、幼稚園児のときだ。


母親がつけていた朝の連続テレビドラマを観ていた彼は、ふと目を輝かせた。


画面の中で、男女が微笑み合っている。


「君の笑顔を見ると、世界がピンク色になるんだ」


「バカ……もう♡」


面白みのないベタでねちっこいシーンだった。しかし透は――


なんかしらんけど、めっちゃニヤける!!!


それが“発症”の始まりだった。



さらに追い打ちをかけたのは、おままごと。幼稚園でパパ役とママ役で遊んでいる2人の園児を見かけた。


「パパ、お仕事がんばってね♡」

「うん、行ってきます」


「お"お"お"〜」


気づけば透は、おままごとをしている人を見ると物陰から双眼鏡(※おもちゃのやつ)でみる様になった。


そしてつぶやく。


「もっとやれ……(キラキラ)」



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