赤き竜の咆哮(2)

 既にこの世にはいない、生け捕りにした3人の盗賊から聞き出した情報は次の通りだ。


 まず、盗賊団は全部で49人である事。


 残りは今もアジトに残っている事。


 今回アーシェル子爵令嬢を襲った盗賊は、騎士と事を構える事を恐れ、逃げ出した一味だった事。


 盗賊がアーシェル子爵令嬢を襲った理由は、今後放たれるかも知れない追っ手を切り抜ける際の人質にする為。それと――その逃走中に慰み者にする為だったと言う事。

 

 アーシェル子爵は、盗賊達を使って商売を成功に導いたという事。

 (どこにどの物資が必要になるかのコントロールをしていた)


 盗賊を使っていた事がとある大貴族にバレ、内密にする代わりに、ヌゼという騎士を殺す事を依頼された事。


 その際に、魔法剣と魔剣を配られた事。


 大貴族の正体は知らないという事。


 以上である。


「……49か。ワザと報告に幅を持たせたな。こちらが25人程度の敵を想定する事を見越したのだろう」


「それで、もし生還されて、後から人数が多かったとクレームを入れても、想定の範囲内だと言い逃れるつもりだった、と――狡い物ですね」


 ヌゼの横で、腕を斬り落とされた男性騎士の介抱をしていた女騎士が顔を顰める。


「……傷の具合は?」


「……ダンジョンドロップの傷薬を使いましたが――流石に切断された腕までは治りません。回復魔法でも無理でしょう……命に別状はありませんが、もう騎士としては――」


 意識を失っている本人に代わり、女性騎士が答える。


「そうか――よし、2人は先に王都に戻ってくれ」


「え? わ、私は何処も怪我をしていません。そうでなくても戦力差が多きのです。負傷した者は街で安静にして貰っていた方が――」


「アーシェル子爵領自体が信頼ならんのだぞ? そんなところに負傷した仲間を預けるつもりか?」


「……そ、そうですね。分かりました……ご武運を――」


「……お待ち下さい」


 待ったを掛けたのはニーナだった。


「まさか、戦うおつもりですか? 相手は残り38人――しかも人数分の魔法剣、ないし魔剣を持っているのですよ? それをたったの9人で? 無謀だと思いますが――」


「ほう、人数分の魔法剣、それは随分と豪勢だな。安心して欲しい、我々に下された命令はあくまで盗賊団の壊滅であり、アーシェル子爵に直接乗り込むような真似はしない。よって、我々がキミの御父上に危害を加える事もない。盗賊と一緒になって襲い掛かって来たりでもしない限りは、な」


「……その様な心配はしておりません。むしろ、あの男の首で済むなら差し出したいぐらいです」


「おいおい、随分な言い草だな。実の父親だろうに」


「あの男は血に塗れています。裁きは受けねばなりません。もちろん、その恩恵を受けて育った私も――」


「貴族らしからない考えだ。良い事を教えて差し上げよう。キミが裁きを受けても、何にもならない。キミが目指すべき道は、血に塗れても進む事だ。勿論御父上とは違う道を、ね――」


「その様な事、女の身である私には――」


「出来るさ。先ほど放った火球、助かったよ。その道を進む時、騎士団の助けが必要になるのならば、私の名を出すと良い。それが正しい道ならば、騎士団はキミの助けになるだろう。では――我々はもう行くよ。何、我々の身の心配も必要ない。偶々だが、我々も11本の魔剣を持っているのでね」


 そう言って、ヌゼは盗賊から取り上げた魔剣の一振りを翳して見せた。


「偶々、ですか――ふふ、そうですね。どうせ表向きには存在しない物ですから、偶々、ですね」


「ふ、貴女は笑っている方が美しいな」


「………光栄です」


「それでは我々はもう行く、貴女は我々の使ってきた馬車に乗って王都に行くと良い。暫くは身を潜めろ。その代わりと言っては何だが、貴女の馬車を引いていた馬2頭を貸してくれないか? 幸い怪我もしていないようだし、この状況下でも逃げ出してもいない。訓練された軍馬よりお利巧なようだ」


「……畏まりました。しかし、その前に、従者たちの遺体を埋葬したいのですが――」


 ヌゼは、時間が惜しいとは思いつつも、それを認め、そして手伝った。


「感謝致します――」


「……最後まで主の為に戦った勇敢なる戦士達の想いに報いたまでです」


 冷徹さを持つヌゼではあるが、それは本音でもあった。


 嘗て、子供の頃の自分が夢見た騎士は、誰かの為に命を掛けて戦う事が出来る者であった事を思い出しつつ、今の自分には縁もないそんな騎士像に近いその者達を見て、少し羨ましくさえ思えてしまえた。

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