消費

 全てのものは大抵消耗品である、と書き出すと随分と大きな主語だなあと思うのだけれど、ふとした瞬間「消費される」と感じたあの嫌さはどうにも忘れられず耐えがたい。あるいはそう思いたいのかもしれない、丁重に扱われぬ悔しさやままならぬ物に対して悔しさと怒り紛れに中指を立てたくなるような、そういう衝動の現れ。

 先日、自分で作った物語を終わらせてみた。エンドマークをばっつりと打ってみるのは案外爽快で、少し寂しくもあった。二ヶ月ほどかけてゆっくりと書いた物語は思ったよりも多くの人に手に取ってもらえた。そうすると、私の手を離れ誰かの脳内に私の物語の記憶が宿る。私は増殖する、そうしてあなたの脳漿にこびりついている。そんな気持ちになった。

 物語というのも、ある意味では消耗品だ。時代が変われば通用しなくなる価値観や、ストーリーテリング、古臭く黴が生えていく表現にいつも怯えている。走り続けてしまわないとある日突然ふっつりと糸が切れたように動けなくなってしまいそうな気がする。私が私である限り絶え間なく酸化していく。

 古くなっていくほど、後ろへ追いやられていくような気がする。立ち止まった時、私はどうなってしまうんだろう。考えないために走り続けている、常に脳みそを回し続けることで感覚を麻痺させて、全てを塗りつぶしている。

 読み捨てられる物語に、いつか自分もなっていく。けれどもっと恐ろしいのは読まれもしないこと。開かれることのない本は意味のないもの。いつ来るともわからないあなたを待ち続けるのは寂しい。文字列は連なってあなたに襲いかかるのを待っている。私も、また。

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