第11話
宿の扉を開けた瞬間、タカシは違和感を覚えた。
「……え?」
自分の借りた部屋の中――ベッドの上には、すっかりくつろぎモードのロメルが脚を組み、宿の備え付けの果物を勝手につまみながら待っていた。
「おお、戻ったか。早かったな。コレ食うか?」
ロメルは口元に皮肉めいた笑みを浮かべながら、手に持った果物を差し出してタカシに声をかける。
「いえ……まあ、なんとか……。ご報告をと思いまして」
(鍵は掛けたはずだけどな.....)
タカシが丁寧に答えると、ロメルはふふっと鼻で笑った。
「まさか生きて帰ってくるとはな。……いや、冗談だ。冗談」
冗談、と言いつつその目は全然笑っていない。むしろ、内心では「どうせスライムに食われて終わりだろう」と思っていたのがありありと伝わってくる。
「はは……ありがとうございます」
タカシは苦笑いを浮かべながらも、口調は丁寧なまま。相手の底意地の悪さには気づきつつも、正面から反抗しては厄介なことになるとわかっている。
ロメルはじっとタカシを見つめたあと、再びニヤリと笑った。
「ほんと、君って……面白い奴だよな。次、何させようか……ふふ」
その目は、もはやタカシを「異邦から来た謎の人物」ではなく、「暇つぶしの珍獣」のように見ていた。
タカシは静かに息を吐きながら、心の中で小さく呟いた。
(この人……やっぱり苦手だな……)
ロメルは果物の皮を小さく剥きながら、ふとタカシに目を向けた。
「……まあ、今日は疲れただろう?しばらくは安静にしておけ。体が資本だからな」
「……ありがとうございます」
タカシは一礼しつつも、どこか警戒心が抜けないまま返答した。ロメルの言葉の裏に何かあるのではと、無意識に身構えてしまう。
するとロメルは、くつろいだ姿勢のまま、ついでのようにこう言い足した。
「それと……この宿代、しばらくの間は俺が持ってやる。真面目に働いたご褒美だと思え」
「え……それは……本当に?」
「冗談に聞こえるか? まぁ、金を払ってでも面白いものは見たいってだけさ」
ロメルはそう言ってニヤリと笑った。やはりどこかでタカシを“観察対象”として楽しんでいるような、そんな含みのある笑みだった。
「……お気遣い、痛み入ります」
タカシは軽く頭を下げながらも、心の中では複雑な思いが渦巻いていた。
(面白がられてる……でも、今は反抗できる立場じゃない。とりあえず、安静にしよう)
こうしてタカシは、束の間の静かな休息を得ることとなった。
数刻後──。
タカシがようやく宿のベッドに体を預け、浅い眠気の余韻に浸っていた頃だった。
「……おい、入るぞ」
その言葉を皮切りにノックも無しに扉を開け放った。
突然の出来事にびっくりして起き上がったが、素裸だったらどうしてくれようか。
扉を開けて現れたのは、かつて森でタカシを斬ろうとしたあの騎士だった。銀の鎧に身を包んだまま、顔にはいつもの鋭い目つきが浮かんでいる。だが、どこか気まずそうな様子も見えた。
「すみません、騎士さん……今、休養中という話では……」
「聞いている。しかし状況が変わった。王都からの緊急依頼だ」
騎士は一歩中に入り、腰の剣をカチャリと鳴らして言った。
「下町近くの山脈で、王都が管轄する古代遺跡の調査が進んでいるのだが、最近、その周辺で通り掛かる馬車が盗賊に襲われる事件が続いている。しかも……少し、様子がおかしい」
「様子、ですか?」
「ああ。襲撃の後、馬車にあったはずの“金品以外”も根こそぎ消えている。布や食料、時には乗っていた者ごと。証拠隠滅を図ってか、街道より離れた場所で火を放たれて消し炭になっていた。それに、どうやら“ただの盗賊”ではない可能性が高い」
タカシは無意識に眉をひそめた。単なる山賊ではない、別の何か……その響きに、またぞろ異世界の理不尽さを感じずにはいられなかった。
「……それで、なぜ私が?」
「お前の“変わった力”が役立つかもしれん。いや、正確には、何が起きているのか分からないからこそ、通常の戦力とは異なる観点が必要なんだ」
そう言って騎士は視線を外し、わずかに口元を引き締める。
「……それに、私は俄然お前のと言う身元不明な異邦人である力を見てしまった以上、黙ってその異物を無視するわけにはいかない。同行してくれ」
騎士の真剣な言葉に、タカシはしばし黙った。そして、静かに頷く。
「……分かりました。荷物をまとめます」
「助かる。出発はすぐだ。準備は手短にな」
騎士の指示で、出発はすぐに決まった。
「馬を用意してある。歩くより早い、ついて来い」
宿の前に停められた二頭の馬のうち、一頭の後ろにタカシは乗ることになった。前を陣取るのはもちろん、あの騎士だった。
(え、二人乗り……?)
内心で戸惑いつつも、タカシは焦る。何せ馬なんて代物に乗った事がないのでどうすれば良いかわからない。
騎士が手を差し伸べてくれる。その手を取ると、思った以上にスムーズに馬上へと引き上げられた。
「しっかり掴まっていろ。落ちたら置いていく」
「あ、はい……失礼して……」
タカシは前方の騎士の腰に、恐る恐る手を回す。その瞬間、ふわりと鼻先をかすめたのは、どこか花のような──それでいて清潔感のある、柔らかな香りだった。
(ん……? なんか、いい香り……?……?)
いや、あの剣さばきと威圧感は間違いなく一流の騎士だった。それにあの体格も……だが、それでも香りだけは、どうにも女性のような繊細さを感じさせた。
「……何をじろじろ見ている?」
「い、いえ、なんでもありませんっ」
タカシは慌てて視線を外す。騎士は一瞥をくれたものの、それ以上は何も言わず、馬に拍車をかけた。
乾いた道を蹴って進む馬の背中で、タカシはほんの少しだけ、緊張とは違う別の感情に気付いた気がした。
そうして、タカシは安息の時も束の間、新たな任務へと向かうのだった──。
馬での移動は順調だった。時折、舗装の甘い道で揺れはしたものの、騎士の腕前は確かで、無理な速度も出さず安定した騎乗だった。
数刻後、山裾に近い林の外れに到着する。
「ここから先は馬を置いて徒歩になる」
タカシは軽く頷き、馬を木陰に繋いでから騎士の後を追った。
「このあたりで、商隊を狙う盗賊が潜伏しているとの情報が入った。だが、それだけではない」
「……それだけでは?」
「この付近、妙な魔力の揺らぎがあると、王都の魔術師団が報告してきた。念のため、変わった力を持つお前を連れてきたのは、それが理由だ」
「そ、そうだったんですね……」
(また……面倒そうな話に巻き込まれてるなぁ……)
道中、何気なく足元の土を踏みしめる。まだ陽は高いが、林の奥は薄暗く、昼間とは思えないほど静まり返っていた。どこか空気が重い。
「警戒しろ。奴らが潜んでいるなら、この辺りだ」
騎士の目は鋭く周囲を見渡していた。タカシも、息を呑んでその背中を追いかける。
やがて、林を抜けた先の開けた岩場に、小さな痕跡が点々と残されていた。足跡。食い散らかされた干し肉。落ちた縄。
「……間違いない。奴らはこの辺に潜伏している」
騎士は剣の柄に手をかけ、タカシも息を呑む。緊張が漂うその瞬間──
道なき道を抜けた先、鬱蒼とした樹々が急に途切れ、小さな岩場の開けた空間が現れた。
「……ここが、例の場所か」
騎士が呟くように言う。タカシも後に続きながら、目の前の風景に小さく眉をひそめた。
どこか、妙だ。
空気が淀んでいるような、張りつめているような、説明しがたい違和感が周囲に漂っていた。風は止み、鳥の声もない。
「……なんか、静かすぎませんか?」
「気づいたか。さすがに、勘は鋭いな」
騎士は手を止めず、そっと腰の剣に手を添えた。
「本来なら、小動物と魔物の気配くらいは感じるはずだ……だが、ここは“無”だ。何もいない。いるとすれば――潜んでいるのだろうな」
タカシは小さく唾を飲み込んだ。だが、それでも一歩、また一歩と前に進む。
騎士の背中は、どこまでも堂々としていた。そして、すぐ近くを歩くその騎士からは、ほのかに花のような香りが漂ってくる。
(なんか……いい匂いするな……女性っぽいような……?)
ちらりと視線を送るが、当然鎧に身を包んだ騎士の性別など分かるはずもない。
そんな中、視界の端にふと、何かが映った。
岩の陰に――微かな動き。
そして、遠くで木の枝が「パキッ」と小さな音を立てる。
「……来るぞ」
騎士が低く告げる。
タカシも背筋を正す。今度の相手は、ただ事ではない予感がした。
森の岩場で、突如飛び出した二つの影。
それは、草陰に潜んでいた斥候――盗賊たちだった。
「ちっ、やっぱり来やがったな……!」
騎士が即座に剣を引き抜き、片方の盗賊へ向かって鋭く踏み込む。鎧の軋む音が戦場の空気を引き裂く。
そして、もう一人の盗賊は、タカシの方へと駆け寄ってきた。
「おいおい、こっちはただの小汚ねえ旅人かよ……」
盗賊の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
手にしたダガーを、舐めるように見せつけながら振りかざす。
「まあ、いい。軽くあしらってやるぜ」
腰の後ろから、そっと取り出した様に召喚したのは“電マ”。
かすかに空気を震わせながら、淡い光と共にそれが召喚される。
「なんだそりゃ? オモチャか? ひひっ……!」
盗賊はタカシを完全に舐めきっていた。
だが――次の瞬間、ダガーが鋭く振り下ろされる。
「くっ……!」
タカシはとっさに手にしていた電マを突き出し、それで刃を受け止めた。
ガキィッ!
乾いた音が鳴り響く。
電マの本体が、わずかにしなった。盗賊の振り翳したダガーの力は電マの絶妙な柔らかさで衝撃を吸収して、ダガーの刃が柔らかな外装を抉る。
刃は半分ほど、電マの中に食い込んでいた。
「――っ、やわっ……!」
電マは武器にしては明らかに心許ない。
それでも、刃を止めたという事実に、タカシの目に一瞬の驚きが走る。
「へっ何だコイツもうぼろぼろじゃねえか」
タカシは、電マを握る手に力を込めた。表情には焦りもあるが、怯みはない。
すぐ様食い込んだ電マに電撃攻撃を促す
ヴィイイイイイーーー!
命を吹き込むが如く暖かい炎の様な揺らぎの瞬きと共に電マの躍動感溢れる高鳴りの咆哮を上げる。次の瞬間、火花が散るような“ビリッ”という音とともに、電撃が刃を伝って盗賊の腕に走った。
「ぎゃっ――がああああああああっ!!」
「……えっ、えぇ……?」
盗賊の身体が震える。余りの衝撃でビクンビクンと壊れたロボットの如く荒ぶってらっしゃる。放った俺もびっくり。咄嗟に電マ大先生に弱めるよう叫ぶ。
「ち、ちょちょ、強すぎ!!ステイ!ステイ!電マ!ステイ!」
電撃が弱まったのか途端ダガーを落とし、白目を剥いたその男は、両手をボクサーの様に構えてその場に倒れ伏した。
身体はけいれんし、口から黒い煙を吹き、髪の毛はチリチリに焼け、服も一部焦げていた。
コレは流石に生き絶えてしまったのでは無いだろうか。
何て事だろう、意図せず殺めてしまったぞ
命の単価が安い異世界だかまだ良いものを、前世でこんな事起きるととんでもない事態だ。恐ろしい。何て危ないんだ、電マ。
世の電マで遊んでいる方々は良くこんな危ない物でハッピーに楽しめる物だとタカシは尚のこと電マに対して危機感を抱く。
タカシ自身も、あまりの威力に言葉を失う。
彼の手の中の電マは、なおもかすかに唸りをあげていた。
まるでもっとだ、もっと生を寄越せと言わんばかりの雰囲気。魔剣か何かなと思わんばかりだ。
「……これ、本当に……凶器じゃないか……」
手を震わせながらそう呟いたタカシの姿に、すぐ傍で一部始終を見ていた騎士が息をのむ音が、静寂の中にやけに響く。
(以前味わった時よりも遥かに強力になっている......もしアレが私の身に再度向けられたら私は.........)
タカシが騎士の方へと視線を向けるとそこには既に騎士が相対していたもう一人の盗賊もすでに地に伏していた。鋭い剣撃の一閃で戦闘不能となっていたらしい。
騎士は剣を軽く振って血を払うと、盗賊の遺体を調べ始めた。
「……何か、手がかりになるものがあればいいが……。この辺りを拠点にしていたのか、それとももっと上か……」
タカシは肩で息をしながら、それでも自分の電マを見下ろした。
(――これ、使い方次第で……本当に、戦えるのかもしれないな……)
だがそれと同時に、あまりの威力と、あの男の焼け焦げた姿が頭から離れず、タカシの表情は微妙に引きつっていた。
戦闘の余韻がまだ微かに残る森の中。斃れた盗賊たちの遺体をざっと確認した後、騎士は静かにタカシの方を向いた。
「……少し周囲を探ってみよう。もしかしたら、奴らの拠点や隠れ場所が近くにあるかもしれない。」
「……え、ええ。わかりました。お気をつけてくださいね」
タカシは頷き、まだ電マを警戒しながら腰に下げ、慎重に足を進めた。焦げた臭いが鼻に残り、落ち葉を踏む音がやけに大きく響く。
森を抜けると、そこには岩場の影に半ば隠れるようにして、小さな木の小屋があった。目立たない造りだったが、近づけば生活感のある痕跡が点々と残っている。
「……ここ、怪しいな……」
騎士もその場に追いつき、タカシの視線の先を確認した。
「ここに潜伏していた可能性は高いな。中を確認してみよう」
騎士は躊躇なく小屋の扉を蹴り開ける。
ぎぃ……という軋む音のあと、中には粗末な寝具、空になった食料の袋、そして地図のような紙切れが散らばっていた。
「……これは街道沿いの地図だな。……次の襲撃予定か、あるいは逃走経路……。ふむ、これは王都に提出すべきだ」
騎士がそれを拾い、丁寧に折りたたんで腰の袋に入れる。
一方でタカシは部屋の隅にあった木箱の裏から、見慣れない液体の入った小瓶を見つけた。
「……また、こういうのか……ええと、騎士さんコレ……」
タカシが騎士に、先程見つけた液体の入った小瓶を手に差し出すと、騎士は訝しんだ目をして小瓶手に取った。
「コレは巷で最近流行っている薬物の類なのかもしれない。コレも王都に提出だな」
騎士は小瓶をそっと懐にしまった。
再びタカシに向き直る。
「お前は中々目端が聞くな。」
そう言って、騎士はタカシの肩を軽く叩こうとした――が、
「ひっ……!」
タカシは反射的に肩を引いた。
直後、自分の反応に気付き、気まずそうに俯く。
「す、すみません……ちょっと……昔のことで、驚いてしまって」
「……ああ、そうか。気にするな。無理に触れたりはしないさ」
騎士は静かに頷くと、視線を遠くに向けた。
「……とりあえず、今日はこのあたりまでにしておこう。街に戻って報告だな」
タカシも、小さく「はい」と答え、電マを握り直した。
森の中、二人は落ち葉を踏みしめながら、再び街へと歩みを進める。
山道を下り、街の方角へと戻る途中――
「……ん? 騎士さん、あれ……!」
タカシが指差した先。森の開けた丘陵地帯で、数台の馬車が停車している。だが、どうにも様子がおかしい。馬たちは怯え、騎士や冒険者たちが剣を構えて走り回っているのが見えた。
「襲撃だ……!」
騎士が馬を蹴ると、タカシも後を追った。距離が縮まるにつれ、事態が明らかになる。
「グレンさん!? ガルドさん、ミレーヌさんまで!」
馬車を守るようにして戦っているのは、かつて森で共に過ごした冒険者パーティ。彼らは、貴族と思われる豪奢な衣装の人物たちと馬車を守っていたが、盗賊たちの数が多く、すでに防戦一方だった。
「クソッ、あと数人多ければ……!」
「ミレーヌ、後ろに回れ! あの弓兵を抑えるぞ!」
「了解っ!」
だが敵は数にものを言わせるように左右から包囲を仕掛けてくる。
「……これはまずいな」
騎士が剣を抜き、前に躍り出ようとしたその時、タカシが前に出る。
「俺もやります……このままじゃ、みんながやられてしまう」
タカシは腰の電マを握りしめた。その意思は明確だった。
「電マ、召喚ッ!」
手を掲げると、ふたつの飛行電マが“ぽんっ”という小さな音とともに宙に浮かび上がる。
「行けい、電マァ!」
タカシの叫びと共に、電マは盗賊の群れの中に突撃していった。奇妙な振動音を立てながら、左右に舞い、盗賊たちの顔や手元にぶつかっては小さな電撃を浴びせていく。
突如として現れた未確認飛行物体にその場も一同唖然としてしまうが盗賊達を重点的に襲っている事からコレは味方の仕業だと気づく。
「ひい、な、なんだこいつ!?」
「ぴりっ……ぎゃあああッ!」
「うわっ!? なんか変なの飛んでるッ!」
動揺した盗賊たちの動きが明らかに乱れ、そこへ騎士が突撃する。鋭く振るわれた剣が、一人、また一人と盗賊を地に伏せさせていく。
一方で、グレンたちも好機とばかりに動いた。
「今だ! 一気に押し返せッ!」
「ガルド、前衛を崩せ!」
「了解ッ! 喰らいやがれぇッ!」
がしゃあんっ、とガルドの大斧が地面ごと敵を吹き飛ばし、ミレーヌの放った矢が正確に敵の急所を撃ち抜く。
タカシの電マはその中を飛び交い、奇跡的な連携を見せていた。
「……あいつ、何でこんな所に......本当にただの旅人なのか……?」
グレンが喧騒の最中に偶然たかしの姿を見つけ汗を流しながら呟く。誰よりも真っ直ぐに、そして必死に皆を助けようとするタカシの姿に、冒険者たちも心動かされる。
やがて、電撃と剣、そして冒険者たちの力が盗賊たちの士気を削り、勝機がないと悟ったのか目敏い盗賊達は武器を放り出して逃げ出した。
「……勝った……!」
「ふう……。怪我人は!? 急いで確認を!」
騒動が収まり、息をつく一同。彼の周囲で、仲間たちの歓声と安堵の声が広がっていった――。
戦いの余韻がまだ空気に残る中、タカシは駆け寄ってきたグレンたちと再会を果たした。
「タカシじゃねぇか!何でこんな所に。まぁ助かったよありがとうな」
「まさかあの時の野郎がここで助けに来るはな。相変わらず珍妙な奴だ」
ガルドが豪快に笑いながら肩を叩き、ミレーヌも微笑んで手を振る。タカシは少し照れくさそうに笑い返した。
「ええ、まあ……何とか、生き延びてます……」
「助かった。お前がいなきゃ、あのまま全滅してたかもしれん。ありがとうしかし先程の飛んでいたアレは....」
「そこのお前。まだ終わりじゃないぞ」
ぴしゃりと響いた声に、タカシが振り向くと、すぐに動ける体制で騎士が険しい顔でこちらを見ていた。
「……え?」
「数人、逃げた盗賊がいる。あの山道を通れば追いつける可能性がある。お前も来い。使える奴は多いに越したことはない」
「ま、もう行くんですか……!?」
「問答無用だ。――行くぞ」
タカシが言葉を発する間もなく、騎士は彼の腕をぐっと掴んだ。驚くグレンたちが一歩踏み出す。
「おい、ちょっと! こっちはまだ被害確認も終わってねぇってのに――!」
「命令だ。王都直属の騎士の。異論があるなら正式な抗議を上げるといい。……ではな、冒険者たちよ」
淡々とした口調ながらも有無を言わせぬ威圧感に、グレンも口を噤むしかなかった。
「……無茶すんなよ、タカシ」
「次に会った時、無事だったら飯でもおごりなさいよね!」
ガルドとミレーヌがそれぞれ声をかける中、タカシは少し振り返って手を振った。
騎士に引きずられるように、タカシは再び戦いの場へと向かっていくのだった。
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