第12話
依頼当日。
僕と江頭さんはユニフォーム姿で河川敷グラウンド近くの、駐車場で龍聖が来るのを待っていた。
「おーい、真一!」
龍聖が元気いっぱいで現れた。
「朝から元気だな。お前は」
龍聖は呆れてしまうほど明るい。
「褒めんなよ。照れるだろ」
そして、やっぱり馬鹿だ。
「褒めてねぇよ。ポジティブ馬鹿」
「うるせぇ。あ、どうも、川上龍聖です」
龍聖は江頭さんに頭を下げて、挨拶をした。
「こんにちは。江頭剛です」
「うわぁ、本物だ。俺、あの試合見て感動しました。一試合全ポジション出場」
龍聖は目を光らせながら言った。
「おい、龍聖」
「あ、すいません」
「大丈夫。気にしないでくれ」
「……はい。あ、そうだ。俺、何をしたらいいんだ?」
「メッセージ送っただろ」
「うん?見てない」
「……おい、見ろよ」
溜息が出た。
昔から変わらない龍聖の直してほしい部分だ。
「それで、何したらいいんだよ」
「子供達のコーチをしてくれ」
「おう。ドンとバンとカキーンって感じで教えればいいんだな」
「……まぁ、分かりやすくな」
「りょ」
「言葉を略すな」
「はいはい」
龍聖は顎を掻きながら、適当に返事をした。
「はいは一回」
「お前はオカンか」
「うるせぇよ」
僕は強い口調で龍聖に言った。
「江頭さんは本名だとまずいので偽名をつけさせていただきます」
「わかった。それで名前は?」
納得してくれた。年上の人との会話は楽でいい。それに比べて、同級生の龍聖は「俺は偽名じゃなくていいの?」みたいな顔をして、無言でアピールしてくる。
「斉藤剛でお願いします」
僕は龍聖を無視して話を進めた。
「斉藤剛だね。分かった」
依然として、龍聖は無言のアピールを僕に向けて来る。恥ずかしい。初めて、距離を取りたいと思った。
「一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「息子さんの名前を教えてほしいんです。どの子が息子さんか把握できないので」
「雄平。佐伯雄平」
「佐伯雄平君ですね。ありがとうございます。それじゃ行きましょうか」
「あぁ」
僕と江頭さんはグラウンドに向かい始めた。
「お、おい」
龍聖が後ろから追いかけて来る。
「おい、無視すんなよな」
僕は立ち止まり、振り返る。
「絶対恥ずかしい事、子供達の前でするなよ」
「恥ずかしい事ってなんだよ」
龍聖は呆気に取られた顔をしている。
僕は龍聖に恥ずかしい事を説明するのにどれほどの時間が必要かを過去の経験から考える。
半日かかる。
瞬時に導いた答えがそれだった。説明するだけ無駄だ。もし、何か恥ずかしい事をしたら、その場で注意すればいいのだ。簡単なことだ。
それに龍聖を連れてきたのは僕だ。僕が責任を負えばいい。
「いや、何でもない」
「なんだよ?言えよ」
「大丈夫だから」
僕はそう言って、優しく頷いた。
「……本当か?」
納得していない表情だ。
「あぁ、お前はドンとバンとカキーンって感じで子供達に指導してくれたらそれだけでいい」
投げやりな対応で返す。
「そうか。りょ」
納得したようだ。
また、言葉を省略している。けれど、僕はその事を指摘しない。指摘すると負の連鎖に再び陥るから。
「それじゃ頼むぞ。日本代表」
「おう、任せとけ」
龍聖は笑いながら、サムズアップをして答えた。
「すいません」
龍聖に聞こえないように小声で江頭さんに言った。
「大丈夫だよ」
江頭さんは僕の肩を2度軽く叩いた。
河川敷グラウンドでは、子供達が元気にはしゃいでいる。子供達の親は二手に分かれて作業をしている。片方は簡易のテントを立てて、そこに折りたたみの椅子を人数分広げて並べている。もう片方は監督から必要な物を聞いてメモをして、買出しに向かう準備をしている。
懐かしい光景だ。
小学生の頃にタイムスリップしたような感覚がする。
「タイムスリップしたみたいだな」
龍聖が嬉しそうに話しかけてくる。
「そうだな」
僕と龍聖は同じ事を考えていたみたいだ。
普段なら嫌だなと思うが、今に限っては気持ちを共有出来て嬉しかった。
「それじゃ挨拶するか」
「お前が仕切るなよ」
「いいですよね。江頭さん」
「馬鹿。斉藤さんって言えよ」
「あ、忘れてた」
「いいよ。挨拶頼む」
江頭さんは少し笑って言った。
「じゃあ、現役の凄さを教えてやるよ」
「ただの挨拶だろ」
「おい、挨拶を舐めるなよ。野球の、いや、人としての基本だぞ」
「……悪い」
人生で初めて、龍聖に注意された。そして、龍聖史上一番まともな言葉だった。
僕は龍聖の成長に少し感動した。
「じゃあ、いくぞ。おねがいちぃやす」
龍聖は盛大に噛んだ。
グラウンドに居る子供達は、顔を隠しながら笑っている。
「しんいちー」
顔を紅潮させ、僕に助けを求めてくる。
「何でそこでミスるんだよ」
「悪りぃ」
「仕方ないな」
僕は龍聖より前に行き、深呼吸をして、息を整える。
「お願いしますー」
グラウンド中に響く大声で挨拶をした。
喉が少し痛い。やはり、いきなり大声を出すものではない。
監督は僕に向かって拍手をしている。
「それじゃ行きましょうか」
僕は傷心している龍聖と江頭さんに言った。
「すまねぇ」
龍聖は涙目になっている。
「いいよ」
僕ら三人はグラウンドに入り、監督のもとに向かう。
子供達は「誰だコイツ」と言う感じの視線を僕らに送りながも、被っている帽子を脱いで「ちわっす」と軽く頭を下げて挨拶をしてくる。
僕らも軽く頭を下げて「ちわ」と挨拶を返す。
「おはようございます」
監督に挨拶をする。
「おはよう。声出てたな」
「ちょっと喉痛いですけどね」
「そうか。久しぶりだから仕方ないな」
「お、おはようございます」
龍聖が軽く頭を下げながら、監督に挨拶をする。
「お前、盛大に噛んだな。現役なのに」
監督は笑いながら龍聖の肩を叩く。
「それを言わないでくださいよ」
「でも、来てくれてありがとうな」
「まぁ、こいつの頼みなら断れませんからね」
「かっこつけるなよ」
龍聖の脇を軽くつねる。
「痛ぇ。何するんだよ」
「うるさい」
「……やっとグラウンドに来てくれたんですね。江頭さん」
監督は江頭さんの両手を握り、話しかける。
「え、どう言うことですか?」
江頭さんは監督の言葉に驚いている。
「高松から話を聞く前から貴方の存在には気づいていました。グラウンドの外から息子さんを見ている姿を」
「……そうですか」
「少しお話をさせてもらっていいですか」
監督は握っていた手を離し、真剣な表情で江頭さんに訊ねた。
「……はい」
江頭さんは頷いた。
「貴方が起こした事件の事は、私、そして、子供達の親御さん方は全員知っています」
江頭さんは無言で監督の言葉を聞いている。
「それを踏まえた上で、私達は貴方に子供達のコーチをお願いしたくて、今日来てもらいました。決して、私達は貴方の願いを叶える為ではないと言う事を分かってください」
「……はい」
「子供達の夢、プロ野球選手だった貴方だからこそ教えられる技術、そして、野球はプレー以外も大切だと言う事を教えてあげてほしいんです。たった一度の過ちで、自分の人生を、周りの人の人生を変えてしまった貴方だからこそ教えられる事を……失礼な事を言っていると思いますが、これが私達の総意です」
「……はい」
「やっぱり、野球選手ですね。グラウンドが良く似合う。私は貴方が現役の頃のプレー大好きでしたよ、今日はよろしくお願いしますね」
監督は笑顔で江頭さんに手を握った。
「……ありがとうございます……ありがとうございます」
江頭さんは何度も何度も監督に頭を下げた。
僕はこの光景を見て、監督のもとで野球を学んだ事を誇りに思った。
この依頼を監督に頼んだ当初は、親御さん達から苦情があった。けれど、監督が必死に親御さん達に頭を下げ、説得してくれたのだ。
そして、そんな苦労を何も見せずに江頭さんに笑顔でフォローまでしている。
こう言う男になりたい。僕はそう思った。
「それじゃ、荷物をベンチの方に」
「はい。行きましょう。斉藤さん」
僕は江頭さんの肩を軽く叩いた。
「あぁ」
ベンチに行き、鞄を置き、鞄を開けて中から、グローブとキャッチャーミットと打撃用革手と守備用革手を取り出し、グローブとキャッチャーミットに付けている型付けのバンドを外し、挟んであるボールを両方取り出し、ボールを鞄に戻して、グローブとキャッチャーミットと打撃用革手と守備用革手をベンチに置く。
「スパイクどうするよ?」
龍聖が話しかけてくる。
「トレーニングシューズでいいだろ。危ないし」
「そうだな」
少年野球と中学野球以降ではスパイクの靴底に付いてある歯の種類が違う。少年野球の歯はゴムで出来ている。中学野球以降のスパイクの歯は金属で出来ているのだ。
僕は鞄を閉めて、ベンチに置いた打撃用革手と守備用革手をズボンのポケットに入れ、グローブとキャッチャーミットを手に取った。
「行きましょうか」
「あぁ」
僕ら三人は監督のもとへ小走りで向かう。
「準備出来ました」
「そうか。おい、堂本」
「はい」
しっかりしてそうな男の子が走って来る。きっと、キャプテンなんだろう。
「何ですか?」
堂本君は帽子を脱いで、監督に訊ねた。
「全員集合させろ」
「はい。集合ー」
堂本君は大声を出し、号令をかける。
グラウンド中に散らばっていた子供達は、堂本君の声に気づき、こちらに向かって走って来る。
「全員居るか?」
堂本君は集まった子達を手で数える。
「はい。全員います」
「よし。それじゃ、挨拶からするぞ」
「はい」
子供達は大声で返事をした。
「おはようございます」
監督が子供達に向かって言う。
「おはようございます」
子供達も大声で返す。
「今日もいい挨拶だな。よろしい」
監督は笑顔で子供達を褒める。これは僕らの時と変わらない光景だ。挨拶や礼儀などの社会に出て必要な事を野球よりも優先して指導するのが監督だ。もし、一人でも出来ていない場合は一日中挨拶や言葉遣いの練習で終わる日もある。だから、一度で挨拶が出来れば今のように笑顔で褒める。
「今日は臨時コーチの方々に来てもらっている。失礼のないようにな」
「はい!」
子供達は監督の言葉に大声で返答する。
「では自己紹介を」
龍聖が肘でわき腹をつついてくる。
「何だよ」
「お前からいけよ」
龍聖が小声で言ってきた。
「はぁ?」
「俺、さっき噛んだからさ。頼むわ」
「ったく、分かったよ」
僕は一歩前に出て、子供達を見渡す。
「江戸川ライオンズ、18期卒の高松真一です。高校で怪我をするまではキャッチャーでした。今日は怪我なく頑張りましょう」
「拍手」
監督の一言で、子供達は拍手をする。拍手をしてくれるのは嬉しいがとても恥ずかしく感じる。
「では次」
僕は一歩後ろに下がり、龍聖が一歩前に出る。
「同じく18期卒の川上龍聖です。今は、大学日本代表の4番を任されています。ポジションは外野全般です。今日は一日楽しみましょう」
「大学日本代表だって」
「やばくねぇ」
「俺、あの人知ってる。雑誌に載ってた」
子供達がざわつく。仕方ない。目の前に居るのが大学日本代表なら。きっと、僕もこの子達と同じぐらいの頃なら同じ反応をしていただろう。
「静かに」
監督が子供達を注意する。
「すいません」
子供達は監督の言葉どおりに静かになった。
挨拶を終えた龍聖が一歩後ろに下がり、江頭さんが一歩前に出る。
「え……いや、斉藤剛也です。高校時代は甲子園に三度出場しました。ポジションは全て守れます。よろしくお願いします」
「凄げぇ。甲子園三回も」
「どこでも守れるって神かよ」
再び、子供達がざわつく。
「甲子園」このワードは日本で野球をしている人なら絶対に反応する。そして、一度は夢見る舞台だ。その夢舞台に三回も出ているなら、子供達からすれば憧れの存在に見えるだろう。
「言葉遣いをちゃんとしなさい。失礼のないようにと言っただろう」
監督が子供達を叱る。
「……すいません」
子供達は江藤さんに謝る。
「それじゃ、自己紹介も終わったから練習始めるか」
「はい!」
子供達は返事をして、駆け足でグラウンドに引かれた白線の前に向かい、グローブを置き、横一列に並ぶ。
僕ら三人も白線の前にグローブを置き、子供達と同じように横に並ぶ。
堂本君が被っている帽子を脱ぎ、「お願いします」とグラウンドに一礼する。その後、他の子供達もグラウンドに「お願いします」と一礼する。
そして、僕ら三人も同じように「お願いします」とグラウンドに向かって一礼する。
「ランニング!」
堂本君が大声で言う。
「おう!」
他の子供達が大声で返事をして、三列に並び始める。
僕ら三人は子供達の後ろに並ぶ。
「おい、走って大丈夫か」
龍聖は心配そうに話しかけてくる。
「ランニングぐらい大丈夫だよ。全力で走らないかぎりな。それにお前の練習に付き合ってるだろ」
「あ、たしかに」
龍聖は納得した。
「よし、行くぞ」
「おう!」
子供達が走り出す。僕らはその後ろを走る。
「いち、に、いちに」
堂本君が掛け声をかける。
「そりゃ」
他の子供達が答える。
「に、に、にに」
「そりゃ」
後ろから子供達を見ていると足が揃っているのが良く見える。普段から監督に指導され
ているのだろう。
足が揃っているチームは統率が取れていて、強いチームが多い。このチームもきっと強いはずだろう。監督はこの前あまり強くないと言っていたが、僕はそう思う。
グラウンドを二周走り、その後、歩いて息を整える。
「柔軟!」
「おう!」
子供達は地べたに座り、柔軟を始める。僕らも地べたに座り、同じように柔軟を始める。
久しぶりに地べたに座って、柔軟をする。
現役の頃に比べて、かなり身体が硬くなっていて、可動域が狭くなったのが顕著に分かる。これほどだとは想像していなかった。
柔軟のメニューを一通りを終えると、堂本君が立ち上がる。
「アップ!」
「おう!」
他の子供達も立ち上がり、三列に並び始める。僕ら三人は子供達の後ろに並ぶ。
「いくぞ」
「おう!」
アップが始まる。
肩を回しながらサイドステップをしたり、もも上げなどをして、野球に必要な筋肉を鍛える。
「よし、水分補給してからキャッチボール」
アップのメニューを全て終え、堂本君が他の子供達に指示を送る。
「おう!」
子供達はベンチに置いている水筒やウォーターサーバーで水分補給をしている。。
僕ら三人はベンチに置いているコンビニで買った水とスポーツドリンクで水分補給をする。
「どうだ。疲れたか」
龍聖が笑顔で訊ねてくる。
「疲れてるわけだろ」
「嘘つけ。息切れてるじゃねぇか」
「うるさい」
事実を言えば疲れている。運動と言う運動はこの前の山登りぐらいしかしていない。はっきり言って運動不足だ。現役時代の身体のキレがない。
その点、龍聖はさすが現役だと思った。息一つ切れていない。涼しい顔をしている。
「どうですか?身体の調子は?」
僕は江頭さんに話しかける。
「まぁまぁかな」
「そうですか」
野球を辞めてかなりのブランクがあるはずなのに息一つ切れていない。さすが元プロと
言うしかない。
「水分補給出来たな。キャッチボール始めろ」
「はい!」
子供達は二人一組になり向かい合う。
僕ら三人は三人一組になり、僕と龍聖が江頭さんに向かい合う位置に立つ。
「お願いします」
堂本君が被っている帽子を脱ぎ、一礼して、キャッチボール相手に大声で言う。そして、他の子供達も堂本君と同じようにキャッチボール相手に「お願いします」と一礼する。
「お願いします」
僕らも子供達と同じように一礼をして、キャッチボールを始める。
最初は軽く肩慣らし程度にボールを投げ、肩を少しずつ温めていく。これは怪我を防止する為に必要なことだ。
ボールを一球投げるごとに江頭さんが後ろに下がっていく。
「なんか懐かしいな」
「そうだな」
僕は龍聖の言葉に感慨深い気持ちになった。
「いくよ」
江頭さんはそう言って、僕に向かって、ボールを投げる。
「ナイスボール」
僕はボールを捕球して、ボールを掲げ、「いきます」と言って、ボールを江頭さんに投げる。
「ナイスボール」
江頭さんはボールを補球後、塁間の距離になるように後ろに下がる。
「力入れていくよ」
「はい」「はい」
僕と龍聖は返事をする。
「いくよ」
江藤さんがボールを投げる。ボールは風を切る音させ、あっという間に龍聖のグローブに届いた。
「速ぇ」
龍聖が呟いた。
「もう少し力入れても大丈夫かい?」
「はい。大丈夫っすよ」
「僕も大丈夫です」
「分かった」
「それじゃ、いきますよ」
龍聖が江頭さんに向かって投げる。
「やべぇー」
龍聖が投げたボールは江頭さんの頭上を超えていく。
「すいません」
龍聖は謝り、ボールを取りに行こうとする。
「いいよ」
江頭さんは手で龍聖を制止させ、ボールを取りに行く。
「やっちまった」
「いきなり力入れ過ぎなんだよ。硬式じゃないんだから」
硬式野球を普段している人が久しぶりに軟式ボールを投げるとこう言う事がよく起こる。
なぜなら、硬式と軟式ではボールの重さや内部構造が違い、力の入れ方が異なるからだ。同じ野球に見えるが違う競技なのだ。
江頭さんがボールを取り終え、戻って来る。
「すいませんー」
龍聖は深々と頭を下げる。
「仕方ない。普段硬式やってるんだもんな」
「はい。次から気をつけます」
「了解」
江頭さんはボールを掲げて、「いくよ」と言い、僕に向かってボールを投げる。
「ナイスボール」
僕は江藤さんが投げたボールを捕球した。
僕はボールを掲げて、「いきます」と言い、力を入れてボールを投げる。
「ナイスボール」
「さすが元キャッチャー。いいボール投げるねー」
龍聖が茶化してくる。
「うるせぇよ」
「川上君いくよ」
「はい。どんと来い」
江頭さんが龍聖に向かってボールを投げる。
「ナイスボールです。さすが元プロ」
龍聖が大声で言った。
子供達は龍聖の言葉に反応して、こちらに視線を送って来る。
「馬鹿。何言ってんだよ」
「あ!さすが元プロみたいなボールですね。ハハハ」
龍聖は無理やり誤魔化した。
子供達は「なんだ、そう言う事か」と言う顔をして、キャッチボールを再開する。
「危なかった」
龍聖は胸をなでおろした。
「気をつけろよ」
「お、おう。すまん。気をつける」
その後もキャッチボールを繰り返す。
「ダウン」
堂本君が大声で他の子供達に指示をする。
子供達は堂本君の指示通りにダウンを始める。ボールを軽く投げ、互いの距離を縮めていき、最後はキャッチボールを始めた位置に戻り、片方がボールを捕球して終わる。
僕らも同じようにダウンをした。
「集合ー」
「はい!」
子供達は監督の指示通り、監督のもとへ駆け寄る。
僕らも監督のもとへ駆け足で向かう。
「10分休憩後、コーチ達に指導してもらう。分かったな」
「はい」
「よし、休憩」
子供達はベンチに行き、休憩を始める。
僕らもベンチで休憩を始めた。すると、監督が僕らのもとへ向かって来た。
「どうだ。疲れたか」
監督が話しかけてくる。
「まぁまぁですかね」
「いや、かなり疲れてますよ。コイツ」
龍聖は僕の肩を叩きながら言う。
「疲れてないです」
「わかった、わかった。昔から変わらんなぁ。お前らは」
「そんな事ないですよ」
僕は強い口調で答える。
「ハハハ、無理だけはするなよ。コーチが倒れたら元も子もないからな」
監督は笑いながら言う。
「分かってますよ。絶対倒れません」
「それは頼もしいな。頼んだぞ」
「はい」
「江頭さん。いや、斉藤さんも無理なさらずに」
「はい」
江頭さんは頷いた。
「えっーと、お前は……」
「何ですか」
「まぁ、いいや」
「まぁ、いいやって何ですか。監督」
「子供達に馬鹿が気づかれないようにな」
「へ?」
「ハハハ、そうですね」
「おい、真一。何笑ってんだよ」
「いや、別に」
「それじゃ、子供達をよろしくな」
「はい」
「それじゃ、テントに戻るわ」
監督はテントに戻って行った。
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