3.秋になずなは咲かない

 秋の風。虫の合唱。

 淡い空の色は、僕たちの嘗ての日々を思わせる。


 ──僕、明日先輩の年齢越えますよ。




 朝。

 小鳥の歌に耳を傾けながら郵便受けを見る。

 新聞一つと、広告が数枚。

 ガサと掴むと、1枚、ヒラと零れ落ちる。


「……なんだこれ」


 拾い上げ、寝ぼけ眼を擦りながら目を凝らす。


「は」


 それは、嘗ての恋人からの手紙だった。


 視界がぼやける。

 何も見えない。

 なんで。

 なんでなんで。

 どうして。


 涙を堪えつつ、1枚目を読む。

 先輩のお母さんからだ。


「棚の奥に遺言書……その中にこの手紙が……」


 泣きそうだ。

 でも、溢れ出る涙を必死に拭いて、食い入るように、大事に読む。

 一枚、また一枚と捲る毎にまた涙が溢れる。


 ──大人のくせに、泣いてしまったじゃないか。


 頬を流れる涙を必死に拭く。

 朝からこんなに泣くとは思わなかった。


「ふぅ」


 今日は、震える心に勇気を溜めて。

 押し入れの遠く奥から、思い出の便箋あかしを取り出してみようと思った。

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