5.別れはあの河川敷で

 私とこうきくんは、とある春の日に出会った。


「僕と……つきあってください」

「えっっえっえ?わたし?!」


 忘れもしない、河川敷での出来事。


 わたしはよく、学校帰りに川を見つめていた。

 いつも変わらず流れているから、心が洗われる気がしたのだ。

 ……このままひとりでしんじゃうんだな、とか、よく思ってた。

 押し寄せる現実の波に、間違いなくわたしは流されていた。


 そんなとき、王子様はあらわれた。

 川の音色。あたたかな風。桜吹雪。

 すべてが彼のために存在しているかのようだった。

 名前は、撫養こうきくん。歳は一つ年下で、15歳。


 びっくりしたなぁ。

 運命ってあるんだって、本気で思った。

 一目見たその時から気になってたから。

 でも私は、目が合うほどに、その夢物語を頭から掻き消していた。


 なのに。

 彼は頬を真っ赤に染めて、わたしに魔法の言葉を囁いた。

 わるい王子様。それでいて、愛おしい魔法使い。

 ひとりであるはずのわたしに、ならんで歩いてくれると笑いかけてくれた。

 うれしくて、うれしくてたまらなかった。


 だからわたしは、魔法にかかった。

 いつか解けるとわかってる魔法に。


 仮初かりそめの、恋の魔法に。


「……はい。よろしくおねがいします」


 それがどんな意味を持つかわかっていても──。

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なずなの花弁 大場景 @obakedazou

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