第5話 妹系ギャルに罵られたいわけじゃない
高校生の平均的なお小遣いは月7014円という(高校生白書web版2021年8月調査より引用)。
蘭生学園はお金持ちの子どもしかいないので、お小遣いの桁は一つ多い子が殆ど...というより額が決まっていない学生も少なくない。
元々燧家も小遣いが10万円貰っていた。月ではない。1日10万円貰っていた。
流石にこれだけ貰うのは申し訳なく、俺はマリアさんに月1万円でいいと言った。
「いちまんえん〜そんなのじゃジュースも買えないじゃなぁい」
マリアさんの金銭感覚は一般人とかけ離れていた。大企業の総帥として莫大な額の決裁をしているのだから仕方ないのかもしれないが。
「でも、そうねぇ..最近は物騒だから伸琉ちゃんを狙う悪い人たちも出そうだしぃ....3万円でいぃ?」
1日3万円でも十分多い気がするが、それが折衷案だったので俺はマリアさんから毎朝3万円を貰っている。
ちなみに親父の小遣いは月15000円である。
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毎日3万円など普通の高校生では使いきれないほどの大金なのだが、ここ最近の俺は金欠だ。
「はぁ、今日も買えそうにないなぁ」
「俺が出すから、伸琉何か買えよ。折角俺たちのアカウントを作ったんだしさ」
「そんな訳にはいかねぇよ。この"搾取"がいつまで続くか分からないし...」
金欠なのは音声作品を買いまくっていた訳ではない。
「おい、クズこっちこいよ」
教室の窓際にいる岩田夜詩乃に声をかけられる。俺は岩田様の近くに向かう。
岩田様の周りには取り巻きの女子たちがゴミを見るような目で俺を見る。その視線でゾクゾクしてしまいそうだが、耐える。
岩田様は俺の肩に手を回す。
「なぁ、クズ今日も金ないんだわ。だから、財布の中身交換しろや」
岩田様の財布には千円札一枚と小銭が少々、俺の財布には一万円札が2枚入っていた。
明らかに不等価交換であるが、俺に拒否権はない。岩田様に二万円を差し出して、千円と小銭を受け取る。
俺は白瀬の元に戻ろうとすると、
「ちょっと待てや」
と岩田様に声をかけられた。
俺は振り向かずに立ち止まる。
「クズ、靴脱いでみろ」
「え?靴ですか?」
「いいから脱げ」
俺は言われる通りに靴を脱ぐ。岩田様は俺の靴を拾い、靴の中を漁る。すると、そこには二つに折られた福沢諭吉の書かれた紙片が入っていた。
岩田様は作り笑いでこちらに近づく。
「これはなーに?」
「え?一万円札ですかね?あははなんでこんなところにあるんだろうなぁ(棒読み)」
俺はとぼけたが、岩田様は俺の耳元で「次舐めたことしたらボコるからな」と脅迫を受け、一万円を奪われた。
そして、俺の所持金は1061円になった。
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放課後
「じゃあ、俺は塾があるから帰るな。しばらくは俺の買った作品とか聞いとけよ」
「ありがとな。塾頑張れよ」
白瀬は右手を挙げて教室を出る。
白瀬がマゾ向けの音声作品を買ってくれると言う話もあったのだが、ここ最近はアリサと一緒に帰ることが多く、家でも一人きりの時間が取れなくなっていた。仮に岩田さんによるカツアゲがなくても聞く余裕がない。
可愛い妹の話を聞きながら、綺麗な金色の髪を撫でながら眠りにつくのも悪くはないのだが、マゾとしては罵倒を聞き、蔑みの目で見下されたい日もあるのだ。
俺は溜息をつく。
「ひうっちー、どうしたん?溜息なんてついてさぁ」
顔を上げると、そこには金髪に染めたツインテール、ゆったりと結ばれたリボンに短く折られたスカートと校則違反の着こなし、砕けた口調...
「
「また、よしのんにいじめられたの?」
「まぁ、いじめられたのはいじめられたけどな...」
奥入瀬は俺の話を聞いて「あ、そうだ」と何かを思いつく
「じゃあさ!私がプロデュースしてるカフェ行こうよ!きっと気分が晴れるよ」
奥入瀬の親は有名なメイド喫茶チェーンの社長だ。お母さんも大人気のメイドだったらしく、琥珀も池袋にカフェを出しているらしい。
「でも、俺今千円しか金ないし..」
「いいよいいよ〜私がひうっちーに奢ってあげる♩だから早く行こうよ!」
「いや、でも掃除が」
今日は当番ではないが、アリサを待つ間暇なのでいつも掃除を手伝っている。
今日もアリサは委員会があり、掃除を手伝う予定だったのだが当番の男子が「燧、行ってこいよ」と言ってきた。
「いつも手伝ってくれてるんだしさ。今日くらいは一人でやるよ。アリサちゃんには俺から伝えとくからさ」
「そうか...でも」
「ほらほら、ひうっちー早く行こうよ〜」「奥入瀬、アリサに連絡..」「男の子が伝えてくれるっていったじゃん〜」
俺は奥入瀬に手を引かれて無理やり連れて行かれる。
暫くたった後、教室に金髪の赤ぶちのメガネをした女の子と付き添いの女の子がやってきた。
「伸琉さんはいらっしゃいますか?」
「燧なら奥入瀬さんと一緒にカフェに行ったけど...」
「そう.....ですか。穹月、アリサは用事ができたので今日は帰らせてもらいます。続きはまた後日でもいいですか?」
「は、はい。アリサ、じゃあ一旦生徒会室に戻りましょう」
アリサ達は教室を後にした。
男子生徒はその時、付き添いの子の首もとに巻かれた赤いヒモがアリサの手まで繋がっていたように見えたが、目にも止めず掃除に戻った。
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池袋 オトメロード
池袋のサブカルの中心地。ここに奥入瀬がプロデュースしてるというカフェがあるらしい。
「やっぱり奥入瀬がやってるってことはメイドカフェなのか?」
「ひうっちー、言い方が古いよ〜今はコンセプトカフェ、コンカフェって言うんだよっ
勿論うちがやってるのもコンカフェ、それも妹カフェ!」
「妹カフェ!?」
「ほら着いたよ〜ここ」
雑居ビルの階段を登ると、目の前に「カフェ
「いや、ここって妹とかに憧れる人とかが来るとこだろ?俺アリサがいるし..」
「平気平気〜実際のお兄ちゃんにも喜んでもらえるカフェだからさー、ほら入ろ入ろ♩」
俺は奥入瀬に押されて無理やり妹カフェに入店させられた。入るなり、
「「「おかえりなさい♩お兄ちゃん❤︎」」」
そこには3人の店員さんが待っていた。みんな学校の制服を来ていてセーラーやブラザーなどバラバラだった。
「お兄ちゃん、ここは初めてですか?」
「あ、はい」と俺は答えた。
「ここはいつも頑張ってるお兄ちゃん達を妹の私たちが癒してあげるカフェなんだよぉ〜。私はりえっていうんだ〜お兄ちゃんはなんて言うの?」
「伸琉、です」
「伸琉お兄ちゃんだ〜あ、そうだ!お兄ちゃんはどう呼ばれたいとか希望はあるかな?お兄とかにいに、とか色々あるけど」
妹に呼ばれたい呼称....実の妹(血は通ってないけど)であるアリサは会った頃から「お兄様」と呼んでくれている。小さい頃のアリサはまだ舌足らずで「お兄しゃま」と言ってた頃が懐かしい。お兄ちゃんよりもお兄様のがしっくりくる。
「じゃあ、お兄さ..「お兄ちゃんのままでいいよね〜?ひうっちー?」
背後からいつの間にか着替えていた奥入瀬が戻ってきた。
普段のギャルだが、制服が蘭生学園のものではなかった。
「あ?これ?ゲームに出てくる子のコスプレなんだ〜結構人気でさぁ、似合ってるっしょ」
「いつもと別に変わらないけど..」
「もう、ひうっちーは冷たいなぁ。あ、ここではお兄ちゃんだね。お兄ちゃん❤︎」
同級生からお兄ちゃんと呼ばれるのはむず痒い気分だ。俺は奥入瀬から目を逸らしてメニューを見る。
「好きなの選んでいいからね?お兄ちゃん。うちの奢りだからさ」
俺は適当にドリンクを頼もうとページをめくっていると、ふと思いつく。
もしかして、妹に罵ってもらえるチャンスなのではないか?と。
「伸琉お兄ちゃん、どうする?」
「りえ....さん、例えばさ、お兄ちゃんがドMだったらどう思う」
「ええ〜!?お兄ちゃんドMなの!?」
りえはわざとらしく驚く。
「そうなんだ。お兄ちゃん、ドMなんだ」
へぇ〜そうなんだぁと相槌をあった後
「へぇ...お兄ちゃんドMなんだ。気持ち悪いね」
低い声で蔑むような目でこちらを見た。
俺は背筋がゾクゾクゾクっと震えた。
「伸琉お兄ちゃん、どう?こういうのが好きなの〜?」
「うん、お兄ちゃんこういうの好きだな....もっと虐めてほしい」
そういうと、えりさんは口角を上げて「そうなんだぁ」と怪しげな笑みを浮かべた。
アリサには絶対に頼むことなどできないお願いを妹カフェのビジネス妹にお願いする。
こんな兄で本当にごめんと思いながら、嗜虐心たっぷりのりえさんが何を言うのか興奮を抑えきれない。
「はい。ストップ〜ここからは追加料金でーす」
「え?」
奥入瀬がりえさんと俺の間に割って入る。りえさんもまた素の妹モードに戻ってしまった。
「罵倒はオプションだから流石にひうっちーの自腹ね?」
「....ちなみにいくら?」
「一回につき5000円」
俺は財布を覗く。覗いてお金が増えるわけもなく、俺の財布には1061円しか入っていなかった。
「じゃあ、オレンジジュースで」
「オレンジジュースだねっ!りえ、頑張って淹れてくるねっ!」
その後、妹に囲まれてオレンジジュースを飲んで帰宅した。
************
閉店後、キッチンに2人が立っていた。
「ねぇ、店長?」
「なに〜?りえさん」
「罵倒って別にオプションじゃなくても無料でやりますよね?なんであの子には5000円なんて言ったんですか?」
琥珀は笑いながら答えた
「アリサちゃんを敵に回したらこんなカフェ一瞬で潰れちゃうよ〜」
**********
その頃、燧邸では亜華羽がアリサに耳打ちをしていた。
「そうですか...やっと帰ってくるんですね」
普段はアリサに話し相手をする専属メイド亜華羽だが、今日のアリサは冷たいオーラを放っていて、ただ伸琉の動向を逐一報告するにとどめていた。
「伸琉さん.....アリサは絶対許しませんからね...」
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