第28話

翌日の朝。

 俺とシュトラはアンティークショップ・クレイに向かっていた。

「オルロさんにお礼を言いに行くんですよね」

「あぁ、そうだよ」

 噓をついた。本当はあの髪飾りを買って、シュトラにあげる為だ。まぁ、おっちゃんにお礼をする事自体はあってるけど。

 アンティークショップ・クレイの前に着いた。

 シュトラは寂しそうに何も展示されていないショーウインドを見つめている。

「入るぞ」

「はい」

 俺はドアを開けた。そして、二人で中に入る。

「いらっしゃい」

 レジカウンター前の椅子に腰掛けているおっちゃんが言った。

「どうも」

「おはようございます」

「おう。テルロとシュトラちゃんか」

「この前はありがとう。おっちゃんのおかげで色々と上手くいったよ」

「本当にありがとうございます」

「わしはわしが出来る事をしたまでだよ」

 おっちゃんはかっこいい事を言った。しかし、顔がにやついているせいで台無しだ。感情が顔に出過ぎだぞ。

「本当に助かったよ。あ、今日は買い物に来たんだ」

「ようやくか。ちょっと待てよ」

 おっちゃんはレジカウンターの下から、デイジーの花の髪飾りを出した。そして、レジカウンターの上に置いた。

「……これって」

 シュトラは驚いている。

「そうだよ。シュトラが欲しそうに見てたやつ」

「売れたんじゃ」

「取り置きしてもらってたんだよ。金が貯まるまでな」

「テ、テルロ」

 シュトラは号泣し始めた。ここで泣くのか。俺はどうすればいいんだ。

「お、おい。泣かないでくれよ」

「泣いちゃいます。嬉しくて泣いちゃいますよ」

「お、おう。それじゃ、おっちゃん」

 俺はズボンから財布を取り出して、デイジーの花の髪飾り分のお金をレジカウンターの上に置かれているトレイに置いた。

 おっちゃんはトレイの置かれているお金を数える。

「たしかにちょうどいただきます」

「ほら、これ付けてみ」

「は、はい」

 シュトラは泣きながら、髪飾りを頭に付けた。

「どうです。似合ってます?」

「あぁ、似合ってるよ」

 買ったかいがあった。本当によく似合っている。それに本当に嬉しそうな表情をしている。その表情を見ているとこっちまで嬉しくなる。

「もう嬉しすぎます。感謝のハグをします」

「え、ハグ?」

 ちょい、ちょい待ち。それはちょっと止めて。俺が死んじゃう。

「はい。ハグです」

 シュトラは俺を抱き締めてきた。

 あーこれで俺はまた生死の境を彷徨うのか。でも、このハグは喜んでくれている証だからいいか。でも、頼むから、死なない程度の優しいハグで頼むぞ。シュトラ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゼーレフィーロ~モノに宿った魂が具現化する世界~ APURO @roki0102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ