第26話

ラルカさんの家の前。空は茜色に染まりつつある。

 俺は深呼吸をした。ラルカさんはコクラ達が一緒に住む事を知ったら、どんなリアクションをしてくれるのだろう。楽しみで仕方が無い。

 コクラとミロナにはラルカさんに驚いてもらう為に家の前にある柵に隠れてもらっている。二人とも俺の提案にすんなりと応じてくれた。

「シュトラ、インターホンを鳴らしてくれ」

「分かりました」

 シュトラはインターホンを鳴らした。

 家の中から車椅子の車輪の音が聞こえる。その音はどんどん近づいてくる。

 ドアの施錠が解除された音がした。そして、ドアが開く。

「はい。どなた様」

 家の中からラルカさんが出て来た。

「どうも。テルロです」

「三日ぶりかしら。もう身体は大丈夫なの?」

「はい。もう元気いっぱいで」

 俺はラルカさんの前で元気に見えるポーズを数種類見せた。

「それだけ動けるなら大丈夫みたいね」

「はい。ばっちりです」

「それで今日はどうしたの?」

 ラルカさんは訊ねて来た。

「報告に来たんです」

「どんな報告?」

「本日付けでコクラとミロナが我が社の社員になりました」

「……本当に?それは嬉しいわ」

 ラルカさんは嬉しそうに言った。もっと嬉しくなる事がまだありますよと言いそうになる。でも、それを言えばサプライズ失敗だ。耐えろ、俺。頑張れ、俺。

「はい。本当です。そして、仕事先も決まりました」

「どこなの?」

「ここです」

「……ここって。私の家?」

「はい。その通りです」

「……神様って居たのね。こんな最高のプレゼントをくれるなんて」

 ラルカさんの瞳から涙がこぼれている。その涙はきっと悔しくて泣いているわけではない。嬉しくて泣いているに違いない。人間の涙って笑顔と同様に様々な種類がある。

 柵の方からも二人の泣き声が聞こえてくる。おい、サプライズが失敗するだろ。でも、いっか。そんな事は。三人の感情の方が大切だ。

「そこに誰か居るの?」

 ラルカさんは二人の泣き声に気づいた。あーサプライズ失敗だ。まぁ、いいけどね。

「二人とも出て来ていいよ」

 隠れて居たコクラとミロナは出て来て、ラルカさんの前に行く。

「……コクラにミロナ」

「一緒に住んでいいですか?」

「私もラルカちゃんとコクラと一緒に住んでいいですか?」

 コクラとミロナは涙を流しながら訊ねた。

「えぇ、良いに決まってるじゃない。いつから来てくれるの?」

「いつでも」

「今からでも」

「それじゃ、今からでお願いするわ」

 コクラとミロナは頷いた。……素敵だな。この仕事をして今まで一番嬉しい瞬間かもしれない。こんなに温かい光景はそんなに簡単に見ることができないから。

「これで俺達は帰ります。三人とも幸せに暮らしてください」

「ありがとう。テルロ。もし、手を貸してほしい事があったら言ってくれ」

「私も。社員だからこき使ってくれてもいいよ」

「そんな事はできないよ。でも、何かあったら頼む」

「あぁ、任せてくれ」

「私も頑張るから」

「……ありがとう」

 この二人が味方って、とても心強い。もうこの街にどんな悪い奴が来ても大丈夫な気がする。

「……また今度顔を見せて。美味しいミートパイ作るから」

 ラルカさんは涙を拭いて、言った。

「はい。是非」

 俺は笑顔で答えた。これでこの数日間の努力が報われたと思える。そして、コクラとミロナの物語は最高のハッピーエンディングのようだ。二人、いや、三人の物語はまだ続くけど。

「行くぞ。シュトラ」

「はい。失礼しました」

 シュトラはラルカさん達に頭を下げた。

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