12:10 A.M.

 僕以外の3人は各々商品を買って、僕は結局何も買わずにみんなでコンビニを出た。


「ひぇ~さむっ」

栗原が身震いしながら言った。


「寒いわね」

妖風が手に息を吐きながら同意した。


「ところで、佐々木君。いいマフラーをしているね?」

栗原が僕の首元を見ながら言った。


「……それは寒いから貸せってことかな?」

「おや、そう聞こえたかい? 参ったなぁ。ははは。いい勘してるねぇ」


「別にいいよ。今はあんま寒くないし」

僕はマフラーを外して栗原に差し出した。


栗原は大袈裟にお礼を言ってきた。

「ありがと~。ほら、緋彗。一緒に入ろ」

「え、あ、ちょっと」

栗原は自分と妖風にマフラーを巻き付けた。


「……なんか、小野寺と同じ匂いがする」

妖風の呟きにぎくりとした。


「へぇ~小野寺君ってこんな感じの匂いなんだ。……そういえば、佐々木君と小野寺君と同じ日に転入して来たっていう2年の美人先輩と廊下ですれ違った時もこんな香りがした気がする」


ギクッ。

やばい。

なんか鋭いぞ。


僕たちは一緒に住んでいるため、シャンプーも柔軟剤も同じだ。


そして僕たちが一緒に住んでいるということは周囲には秘密にしている。

いい具合に話が逸れてくれればありがたいのだが。


「美人先輩?」

妖風が首を傾げた。


「ほら、なんだっけ。確か、白石先輩?」

「あぁ。白石天音先輩だろ? 佐々木と小野寺の幼馴染らしいぜ」

狐酔酒が得意げに答えた。


「僕とけいが小さい頃から姉のように慕ってる人だよ。親しみを込めて天姉って呼んでる。そのマフラーも天姉に貰ったものだよ」

僕がそう言うと、栗原は

「へぇー。仲いいんだね」

と相槌を打った。


ちなみにマフラーは去年のクリスマスプレゼントで貰った。

けいも同じくマフラーを貰ってた。


もっとちなむと、僕から天姉には羊の目覚まし時計を、けいから天姉にはメイクボックスとかいうのを渡した。


「ってか今更なんだけどさ」

妖風がそう前置きして質問してきた。


「小野寺のゴザル口調は一体なんなわけ?」

「「それな!」」

狐酔酒と栗原が同時に叫んだ。


「マジでみんな気になってんだよ。佐々木なら多分知ってるだろ? この機会に教えてくれよ」

狐酔酒が両手を合わせて頼んできた。


「えー。別に深い意味なんてないと思うけどな。気になるなら本人に直接訊いてみれば?」

「答えてくんねぇじゃん」


「今なら深夜テンションで答えてくれるかもよ。電話してみよっか」

「え、寝てるんじゃない?」

妖風が渋るように言った。


「いや、けいは結構夜型人間だから多分起きてる。まぁ今日は疲れたって言ってたから普通に寝てる可能性もあるけど。ってか妖風ってけいのことなんでも知ってるってわけじゃないんだ」


「なにその偏見。小野寺のことなんてなんも知らないわよ」


「でも仲いいじゃん。けいは妖風のことmy favorite girlとか言ってたよ?」


僕がそう言うと、妖風は露骨に顔をしかめた。

「アタシのなにがあいつのツボに刺さってんのよ……」

「さあね。からかいがいがあるとこじゃない?」

「バカにしてるだけでしょ。ムカつく」


「まあまあ」

栗原が苦笑いしながら妖風を宥めた。


電話していいか連絡すると、30秒後に

「いいでゴザルよ」

と返事が来た。

僕はけいに電話を掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る