第41話 スローライフ配信者。家に友人を呼ぶ
俺は夜中、空いた時間で修二君と電話をしていた。
「狩谷さん。最近調子の方はどうですか?」
「まあまあかな。仕事も細々と暮らしていける程度には稼げているし、貯金を切り崩さなくてもできるようになってきているかな」
「おお、良いですね。好きなことをして生きていくってやつですか」
スローライフの配信で地道に稼げてはいるものの、やっぱりダンジョン配信ほどの爆発力みたいなものはない。
派手さはないけれど、堅実に稼げているのは嬉しい。けど、やっぱりドリームを掴みたいって気持ちもないわけではない。
「まあ、本当にやりたかったダンジョン配信はずっこけたんだけどね」
「あー。それは仕方ないですね。でも、スローライフの配信に切り替えたのは正解じゃないですか? 転んでもタダでは起きない精神はすごいと思います」
「うーん……まあ、ダンジョン配信の時のノウハウも活きているし、今の生活に不満があるってわけでもないんだよね」
スローライフの配信で大きく当てることは今のところできていないけど、動画配信で稼げているのはそれだけで幸せなことである。
今までダンジョン配信で稼げなかった時は、結構辛い期間だったし。
「ところで、クロベーは元気ですか?」
「ああ、今もふてぶてしく寝ているよ」
もうすっかりクロベーも我が家になじんでいる。まだ出会ってから1ヶ月も経過していないのに、今ではすっかり家族の一員である。
クロベーがいない生活の方が逆に考えられないレベルで、いるのが当たり前になってきている。
「おお、良いですね。今度クロベーの写真とか送ってくださいよ」
「クロベーの写真か。そういえば撮ってなかったな」
「絶対撮った方が良いですよ。ペットを飼ったら写真を撮るのは飼い主の義務ですから」
飼い主の義務とまで来たか。まあ、確かにペットの写真を撮らないのはなんかもったいない気がする。
「ペットと過ごした時間も大切ですけど、過ごしてきた時間を振り返るのも大切っすからね」
「修二君もペット飼ってたっけ?」
「あー。実家にいた時に犬と猫を飼ってましたね。もう2匹とも死んじゃいましたけど」
「そうなんだ」
犬と猫の寿命は10年前後。長い場合だと20年くらい生きるのもいるけど、大体それくらいで別れを覚悟しなければならない。
いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだよな。
クロベーの寿命はどれくらいだろう。犬のモンスターだけど、寿命はそのまんま犬に準拠するのだろうか。
下手したらモンスターだから人間より長生きなんてこともありえるな。そうなったら……俺が死んだ後に誰がクロベーの世話をするんだって話にもなってくる。
これは寿命が数十年と長いオウムとかの動物にも関わってくる問題だよな。
最後まで責任もって飼うのが飼い主の義務だけど、飼い主の時間だって限られている。先立ってしまう場合はどうしようもない。
その時にペットを任せられる信頼できる人物をきちんと探しておかないとな。
まだまだ先の話にはなるだろうけど、もしクロベーの寿命がかなり長かった場合、終活の時にそれも考える必要はあるか。
「今度、狩谷さんの家に行っていいっすか? 直接クロベーに会ってもふもふしたいっす」
「まあ家に来るのは全然構わないけど、クロベーがもふらせてくれるかどうかは当人次第だよ」
「まあ、そこは……自力で交渉してみせます。クロベーって確か野菜しか食べないんでしたっけ?」
初めて会った時に菜食主義者とか言ってたよな。犬は肉食動物なのに変な話である。
「そうだね。本人が野菜を食べたいって言っているから、そればかり与えている。肉は与えたことないから食べるかわからない」
「じゃあ、ちょっと野菜を買って餌付けの準備をしておきます」
「ネギ類はやめといてね。一応、犬だから警戒しなきゃ」
モンスターだからもしかしたら平気かもしれないけれど、用心に越したことはない。
犬にネギを与えるのは厳禁だからな。
「はーい。わかりました。それじゃあ今度空いている時間に……」
こうして、俺は修二君と約束を取り付けて家に招くことにした。
◇
「お邪魔します」
修二君が家へとやってきた。クロベーが修二君を出迎えてくれた。
「むっ……お前はあの時ダンジョンで会った人間。レンの仲間だな」
「おー! クロベー。元気だったか?」
修二君がクロベーに近づいて手を伸ばす。クロベーは警戒したように後ずさりした。
「むっ……我を触ろうと言うのか?」
修二君は手をグーにしてクロベーの前に持っていく。クロベーは修二君の手を興味深そうに嗅ぐ。
「すんすん……なにも持ってないな」
「持っているのはこっちの手だ」
修二君が反対の手からキュウリを丸々1本取り出した。
「お、なんだ。それはキュウリではないか」
クロベーが尻尾を振りだした。目の前にエサをチラつかされたら反応がまるで犬である。
「ほら、このキュウリが欲しければ俺にもふもふさせるんだ」
「むう、致し方ないな。交換条件だ。我の体に触れることを許そう」
「よっし!」
修二君はキュウリを半分に折ってからクロベーに与えた。クロベーはキュウリをぐちゃぐちゃと食べ始める。
「うま、うま……!」
あっという間にキュウリを半分食べるクロベー。犬は食べるのが早い。ちゃんと噛んでいるのだろうか。
クロベーはじーっと修二君を見ている。もう半分のキュウリを目で要求している。
「ほら」
修二君がキュウリを渡すとクロベーは目を輝かせながらキュウリを噛みつき、そして咀嚼を始める。
「ふむ、うまいではないか!」
「ここに来る前に新村さんのところに寄ってきたんだ。うちの養鶏所で取れた卵と野菜を交換してもらってね」
新村さんのところの野菜か。俺もわけてもらったことあるけど、あれ、滅茶苦茶美味いんだよな。
夏の時期にトマトやキュウリを丸かじりした時の記憶が蘇ってくる。
それにしても物々交換か。いいなー。なんか修二君もスローライフを楽しんでいるんだよな。
「ほら、クロベー。修二君にお礼を言って」
「ふむ。修二よ。キュウリうまかったぞ。ありがとう」
「いえいえ。それじゃあ、約束通りもふもふの時間だ」
修二君はクロベーのあごの下をこちょこちょとくすぐり始める。
「むむっ……」
クロベーはグーグーと喉を鳴らして耳を後ろに下げている。なんだか普通に気持ち良さそうである。
「よーしよしよし」
修二君は昔犬を飼っていたと言っていただけあって触り方に一切の迷いがない。
過度に触りすぎないようにしながらも、犬が喜ぶポイントを押さえている。
「おお、良い毛並みだー」
「まあ、最近体を洗ったばかりだったし。ちょっと前までは毛がごわごわだったよ」
「へー。そうなんすねえ。良かったな。クロベー。狩谷さんに体を洗ってもらえて」
修二君はクロベーの耳の裏もこちょこちょと弄っている。そして、慣れてきたところに体に触って毛をもふもふとさせている。
クロベーはすっかり修二君に対する警戒心がなくなり、もふもふされているのを受け入れていた。
「ふう。そろそろいいかな。ありがとう。クロベー。良いもふもふだった」
「ふむ。人間はこのようなもので喜ぶなど変わっておるな」
そう言いながらもクロベーは尻尾を振っていた。お前もなんだかんだ言いつつ喜んでいるじゃねえか。
「クロベー。今日は修二君と遊ぶから、庭の番を頼んだぞ」
「うむ。任されたレンよ。この家に賊1匹とて近づけんぞ。ぐるるるる」
さっきまでもふもふされてほだされていたとは思えないくらいに低い唸り声をあげて、来るのかわからない賊に備えているクロベー。
恐らく賊は来ない。ここら一帯は治安が良くて平和だし。
仮に変な奴が来ても、この大きさの犬だし戦えば普通の人間じゃ勝ち目はないくらいには強いだろう。
小型犬でも人間より遥かに強いと聞くし。
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