第39話 スローライフ配信者。秋植えの野菜を植える

 赤いマナナッツについてあれこれと研究するのはしばらくの間はやめておこう。


 こういう研究は俺がやるよりかは、専門の機関に任せた方が良い。俺はいくつかのマナナッツを植野教授に渡して研究してもらうことにした。


 それにしてもマナナッツは睡眠と密接に関わる可能性か。


 クロベーが食べた時にはアイツはすぐには眠らなかった。人間と犬……のモンスターでは睡眠の周期が違うからなのだろうか。


 クロベーは基本的に日中も眠っていて人間と比べて睡眠時間が多いように思える。


 植野教授の仮説が正しいと仮定した場合、赤いマナナッツは生物が覚醒し続けることによって減衰した能力を呼び起こすとするならば……


 普段から睡眠時間が多い生物とかはその効果も少ないのではないか。


 だから、クロベーはあの時に睡眠の効果が及ばずに減衰した能力だけが呼び覚まされた。


 一方で、俺の場合はオールをしていたこともあって、相当に能力が減衰していた。


 その減衰分を埋め合わせするために睡眠が必要だった。


 赤いマナナッツは0をプラスにするんじゃなくて、マイナスを0に戻すようなそんな感じだと言われるとなんか妙に納得する。


 この仮説だけを頭に入れておけば、間違いはなさそうだ。


 まあ、いつまでも赤いマナナッツに構っているわけにはいかない。俺には俺の生活というものがある。


 動画編集代行や動画配信の報酬でなんとか細々と生活できる程度には稼げている。


 でも、日中は暇なことが多い。というわけで、今回も裏庭にて野菜を成育させるという趣味の時間に当てようと思う。


 家庭菜園は良い。趣味として成立するし、食費が浮くという実益もある。


 趣味のことをやっていて、家計に貢献できるなんてコスパ最強すぎる。


 俺はこの前の配信でオススメしてもらった春菊を植えようと思っている。


 春菊を植える上で色々と調べてみたけれど、キク科の春菊にもジャガイモ同様に共生植物(コンパニオンプランツ)が存在している。


 アブラナ科やシソ科の植物が該当していて、それらと一緒に植えることで病害虫を防ぐことができるらしい。


 今の時期に植えるとなるとアブラナ科のキャベツが良さげだと思う。よって、俺はキャベツと春菊の種を買いにホームセンターまで出向くことにする。


「クロベー。ちょっと出かけてくる。留守番は頼んだ」


「わかった」


「知らない人が家に来てもしゃべって対応するんじゃないぞ。お前のことをしゃべれる犬だと知っているのは、あの時ダンジョンにいたメンバーだけなんだから」


「承知した。不審者が来たら吠えて追い返せばよいのだな? 任せてくれ」


 クロベーくらいにでかい犬に吠えられたら流石の不審者も逃げ出すであろう。


 番犬としては最強である。人語が理解できて、愛嬌もあって、もふもふしている。これこそが自宅警備員が目指すべき到達点なのかもしれない。


 俺は自転車を走らせてホームセンターへと向かう。10月半ばだというのに気温はそれなりに高い。しかし、俺は一応長袖を着ていく。


 長袖を着ていて暑すぎるということはないし、帰りの時間帯を考えると冷え込むことが予想される。


 俺の家からホームセンターは自転車でもそれなりの距離があるし、夕方帰宅予定なことを考えると半袖で夕方の寒さには耐えられないかもしれないとの判断だった。


 ホームセンターにたどり着く。相変わらず入口の構えからしてワクワクとする造りである。


 「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」と言われると首を赤べこのように縦に振らざるを得ないくらいに楽しい空間にやってきた。


 俺は真っ先に種苗コーナーへと行き、目当ての種を探す。秋植えの種のコーナーを見ていると色々な種があって楽しい。


 ブロッコリーや白菜なんかもキャベツ同様アブラナ科であり、春菊との相性は悪くはない。


 これらも秋植えに適しているので、キャベツの代わりに植えるのも悪くなさそうである。


 しかし、うーん……一気に色々な種類の野菜を育てるのも負担になるからな。


 やはり、ここは最初に決めた通りキャベツ一択にしてみるか。


 俺は春菊とキャベツの種を購入して、自転車に乗り家へと戻った。


 帰るころには夕方になっていて、秋風が俺の頬を撫でて10月の中旬を感じさせてくれる。


 昼間はそれなりに気温があったけれど、やはり朝晩は冷え込むのがこの季節だ。体調を崩さないように気を付けなければ。


 まだ18時代なのにすっかりと暗くなった頃、俺は家についた。クロベーは俺の帰宅に気づくと耳をピクっと反応させてから、起き上がった。


「レン。おかえり」


「クロベー。ただいま」


「レン。何を買ってきたのだ?」


「春菊とキャベツの種だ。これを明日植えようと思っている」


 今日はもう遅い。庭での作業をするなら明るい内が良いだろう。


「また配信とやらをするのか?」


「ん? まあ、そのつもりだけど」


「そうか……では、我はレンが種を植えるところを見れないのか」


 クロベーは少し寂しそうに肩を落とした。配信でクロベーを映すわけにはいかない。


 しゃべらなかったとしても、クロベーは普通の犬にしてはでかすぎる。配信で映れば騒ぎになってしまう。


「まあ、どうしてもって言うなら配信の予定はキャンセルしても良いけどな」


「本当か?」


「まあ、そうだな。別に録画して動画としてあげるのでもいいし、それならクロベーが映ったり、会話しているシーンをカットすればいいだけだし」


 生配信にしたかったけれど、クロベーのためなら予定変更しても別に良いか。


 動画投稿だと編集の手間があるけど……まあ、普段から編集代行していて慣れているから別に良いか。


「助かる。レン。では、明日を楽しみにしているぞ」


 クロベーはそのまま犬小屋で寝転んだ。布団にくるまり暖を取りながら目を瞑る。


 恐らくは昼間も寝ていただろうに、また眠るつもりなのか。


 まあ、いいか。犬だし。



 翌日、少し冷え込み始めた朝。朝食に即席のコーンスープを添えて暖をとりつつ朝のゆったりとした時間を過ごす。


 その後に思い出したかのように、俺は昨日購入した種を持って庭へと進む。


「クロベー。おはよう」


「うむ。レンか。今日は種を撒く日だったな」


「ああ。行こうか」


 俺はクロベーを連れて裏庭まで進んでいく。つい最近までジャガイモとマリーゴールドが植えられていた場所。


 今は何も植えられていない状況である。


「よし、それじゃあここの部分を耕していくぞ」


 俺は物置から持ってきたクワを使って畑を耕そうとする。その様子をきちんと撮影をする。


「我も手伝うぞ」


 カメラの画角に入らない角度でクロベーは前脚を使って土を掘り起こそうとしている。


「オラ! オラ!」


 なんか楽しそうに土を掘っている。手伝ってくれるのはありがたいけど、クロベー自身も楽しそうなんだよな。


 やはり、土を掘り起こすのは犬の行動の1つ。本能に刻まれた行為なのだろう。


 土を掘り起こしたら肥料を混ぜて土壌を作っていく。これもクロベーが前脚でこねこねと混ぜている。


 クロベーが手伝ってくれたこともあってかすぐに耕す作業は終わった。


 その後、俺はキャベツの種を間隔広めで植えていく。


「そんなに間隔を開けるのか?」


「ああ。春菊用のスペースも開けておかないとな。春菊とキャベツは栄養を取り合わないらしいけど、それでもある程度離さないといけないらしい」


「ふむ。その辺は人間関係と似たようなものではあるのか?」


「深いことを言うなあ。確かに人間関係も近すぎてもいけないし、遠すぎても共生の役割を果たせない」


 植物も生物だし、人間と本質的なことはそう変わらないのかもしれない。


 何事も適切な距離を保つことが人間も植物も成長するのに必要なことだ。


 放任しすぎず、過干渉になりすぎずに……俺も将来子供ができたら気を付けないとな。


 まあ、子供を作る相手がいないんだけどな!


「キャベツを植え終わったから、春菊の種を植えていく」


 この作業は犬のクロベーにはできない。いくらしゃべることができても前脚じゃ行動に限界がある。


 クロベーはヒマそうにあくびしながら俺の作業を見ていた。


「ふう。これで終わりっと」


 後は少し土を被せて成長するのを待つだけだ。

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