第36話 スローライフ配信者。赤いマナナッツを食べる
カーテンから朝陽が差し込んでくる。俺は時計に目をやる。もう時刻は朝の6時手前。
もうこんな時間かと俺はパソコンのディスプレイの前で腕を伸ばした。
「ふあーあ……」
あくびが出る。渇いていた俺の目があくびの涙に包まれてなんだか妙にすっきりと気持ちいい感じがした。
いかん。つい、オールで海外ドラマを見てしまった。そろそろ朝だし、朝食食わないとな……
俺はキッチンへと向かい、先日収穫したジャガイモを使って料理を作ることにした。
ジャガイモを一口サイズに切って水をさらして数分待つ。その後、ジャガイモにバターと塩で味付け。それをフライパンで炒める。
いい匂いがしてきた。これだけで飯が食えるレベルだ。炭水化物に炭水化物。うん、なにもおかしいことはないな。
別口のコンロでクロベーの用のジャガイモもふかしていく。
フライパンの中のジャガイモを一口味見。よく火が通っていてうめえ。
クロベー用のご飯も良い調子だ。
俺は火を止めて、クロベーにふかし芋を持っていく。クロベーは俺の足音に気づいたのか、既に起き上がりこちらに期待の眼差しを送ってくる。
「クロベー。おはよう」
「レン。おはよう」
俺はクロベーのエサ皿にふかし芋を乗せる。クロベーはそれをじーっと見つめている。
「レン。これ食べていいのか?」
「ああ。良いぞ」
「うむ。ありがとう。では、いただくとする」
クロベーはエサ皿に頭を突っ込んでふかし芋を食べ始める。犬用に味付けをしてないけれど、クロベーはとてもうまそうに食っている。
俺も味付けしてないふかし芋を味見で食べたけれど、なんとも言えなかった。うまいことにはうまいけど、やっぱり物足りない。
犬は味がなくてもうまそうに食べるのに、人間とは味付けがなければ物足りなく感じる贅沢な生き物だ。
素材の味を感じ取るのは犬の方が上ではないのだろうか。そう考えると人間の舌は実に愚かなことか。
食事中のクロベーを放っておいて、俺は自分の朝食を食べに行く。
バターと塩で炒めたジャガイモ。それを口に含む。
バターの香りが口の中に広がり、丁度良い塩気がジャガイモの素材の旨みを引き立てている。
出来立てのアツアツのジャガイモが口の中でトロけていき、俺の口の中がうまさで満たされていく。
俺はジャガイモを食べて腹を満たした。十分すぎるほどの量を炒めたのでこれだけで腹がいっぱいになるレベルだった。
やはりジャガイモというものは腹持ちが良い。これだけで十分主食を張れるレベルである。
「ふあーあ……」
やばい。なんだか眠くなってきた。その前にデザートでも食べるか。この赤い実……食べてみよう。
俺は目の前の赤い実に手を伸ばした。そして、それを食べてみる。
歯を立てるとカリっとした音が鳴る。そのままボリボリと咀嚼しているとなんだか眠くなってくる。
オール明けにしても異常なまでの眠さだ。どうしたんだ? 20代も半ばになってきてからオールに耐えられなくなったか?
このまま、2階の自室へと戻る気力がない。1階のたたみの部屋でちょっと休憩するか。
俺はそのままたたみの部屋に布団も敷かずに眠ってしまった。
◇
「…………」
俺はガバっと目を覚ました。部屋にある掛け時計を見る。時刻は9時である。俺が眠ったのが大体6時くらいだとすると3時間ほど眠ってしまっていたのだろうか。
俺はなんだか全身に力がみなぎってくる気がした。試しにちょっとジャンプをしてみる。
「うおっ!」
天井に頭をぶつけた。そりゃ、俺の身長は180センチあるから……いや、それにしてもちょっとジャンプをしただけで天井に頭をぶつけるほどか?
学生時代にバスケやっていた時でもこれだけジャンプ力なかったぞ。バスケからある程度離れて多少は衰えているはずなのに、どうしてこんな力が出るんだ?
いかん、寝ぼけているのかもしれない。寝覚めは妙にスッキリしているけれど、なんか感覚が変だ。ちょっと顔洗って来よう。
俺は洗面所の鏡を見た。すると妙に肌がツヤツヤしている。オール明けで3時間睡眠しかとってないとは思えないくらいに。
肌質も心なしかキレイになっている気がする。そっと肌に触れてみるとなんだかいつもよりツヤがあるような……?
なんだ……? 俺はダイニングへと向かう。そこで俺はあることに気づいた。
マナナッツが1個減っている。
……あ! そういえば、寝る前になんか赤い果実を食べた気がする。それがマナナッツだったか? ちょっと寝ぼけていて行動が曖昧だけど、多分俺がマナナッツを食べちゃったんだ。
赤いマナナッツを人間が食べた時になにが起きるのか。それはまだわかっていない。でも、俺の体に起きていることを考えると大体わかった気がする。
マナナッツは人間が食べると力が沸いてくる不思議な食べ物だ。
だから、赤いマナナッツもその力を強めているんだと思う。そして、力を引きだそうとする結果、眠気を呼び起こしてその間体に力が蓄積される。
起きた後に眠っている間に蓄積された力が爆発して、体に色々な変化をもたらしたってところだろうか。
いつもよりもコンディションがすこぶる良い。まるで神が降りたかのような調子だ。
俺がバスケをやっていた時もコンディションが絶好調の時があった。あの時は複数の先輩相手に1on1で勝てるくらいに調子が良くて、俺がバスケ部最強だと当時は思ったものだ。
しかも、その時期、女子に告白されたり、テストで良い点を取ったりと人生の最盛期と言っても過言じゃない状態があった。と言ってもその絶好調は長くは続かなかったけれど。
その時と同じような感覚が今俺の中で降りている。人間が最も調子が良い瞬間を引き出すようなそんな力がマナナッツにあるのか?
人生の最盛期並の力を引き出せる。そう考えるとこのマナナッツはかなりやばいものじゃないのか?
ただ、このマナナッツを食べると恐らくは強烈な眠気に襲われてしまう。
眠っている間に力を蓄積させるから、その影響だと思うけれど……もしダンジョン内で食べるとすると睡眠という人間が最も無防備になる瞬間が数時間続いてしまう。
ダンジョンでこれを食べるのはモンスターに殺してくれって言っているようなものだな。
ダンジョンに挑む前に食べるのはありかもしれないけど、ダンジョン内に持ち込むようなものではない。
でも、日常生活ならこれほど心強いものはないな。寝る前にマナナッツを食べれば快眠することができる。
実際、俺も相当深い眠りについていたのか、夢も見なかった。頭もすっきりとしているし、まるで天才学者並の知能があるように感じられる。
ん? 待てよ。俺がここまで冷静に状況分析できるのも知能が上がっているっていうことなのか?
確かに頭がスッキリしているし、色々な考えが出てきてはそれを整理整頓できて思考がクリアになっている。
この実を食べると、快眠のちに、知能・身体能力が向上して美容にも効果がある。
そんな夢のような力を秘めているのか?
俺はゴクリと生唾を飲みこんだ。
この赤いマナナッツはかなりやばい。なぜならば、この実を使えば人類の更なる可能性を引き出せるかもしれない。
だって、平凡な俺でもこれだけの力を発揮できるんだ。もし、ノーベル賞ものの天才やメジャーリーガーとかがこの実を食べたとする。
ただでさえ超人の彼らが更なる力を解放するってことだろ? 恐ろしいな。
でも……これはそれと同時に危険なものでもある。
食べたら急速に眠くなるのは対象を眠らせるのに有効である。犯罪に使われる可能性だってある。
それに、まだこの実の副作用はわかっていない。その人間以上の実力を体に与えられたら人はどうなるんだろうか。
火事場の馬鹿力という言葉がある。人間は普段の力をセーブしていて、緊急時にはそのリミッターが外れる。
そのリミッターが常に解除されたら、人間の体は壊れてしまうのではないか?
うまく活用できれば、人類の希望にもなりえるけれど……不用意にこの力を他人に受け渡すのは危険な気がする。
俺もこの実を常食するのはやめよう。きっとロクなことにはならない。俺の上がっている知能がそう言っている。
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