第34話 スローライフ配信者。結実報告配信をする

「あー……最近配信してないなー……」


 俺はクロベーの前でそうつぶやく。最近はクロベーに構ってばかりで他のことがあまりできていない。


「配信? なんだそれ?」


「ん? クロベーは知らないのか? 俺は動画配信者をしている。動画配信って言うのはこうやってカメラで撮影したものを全世界に届けるものだ」


「言っていることの意味がほとんどわからない」


 クロベーには少し難しい話だったかもしれない。


「クロベー。配信でお前の姿を出すわけにはいかない。しゃべる犬なんて普通はいないからな」


「むむ、よくわからんが我は黙っていればいいのか?」


「ああ、そうだ。というわけで、しばらくしたら配信をするから、クロベーは犬小屋で大人しくしていてくれ」


「仕方ないな。居候の身としては家主に従う他あるまい」


 俺は配信予告をしてから、マナナッツの鉢を持って庭の裏側まで移動した。庭の裏側にはもうすぐ収穫できそうなジャガイモがある。


「それではそろそろ配信を始めるか……」


 俺は配信のスイッチを入れた。


「はい、こんにちは。レンです。みなさんお久しぶりですね。最近ちょっとバタバタしていて配信ができなかったんですけど、大切なお知らせがあります」


:なになに?

:大切なお知らせって?

:まさか引退……?


「いや、そんな引退なんて大それたものじゃないんですけどね。嬉しいお知らせですよ。なんとマナナッツが結実しました」


 俺は配信画面にマナナッツを映しだした。赤い実を大きく実らせたマナナッツがみんなにも見える。


:あ、赤い!?

:これ本当にマナナッツなの?

:熟してない?

:ダンジョン産のやつとは違うの?


「どうしてこのマナナッツが赤く実ったのかは俺にもわかりませんが、とにかく無事に実ってくれたことはありがたいですね」


 そういえば、これクロベーが食べたら色々な効果が出たけれど人間が食べたらどうなるんだろう。


 元の効果と同じように力が沸いてくる効果があるのだろうか。赤いから3倍の力を……なんてことにはならないかな。


 クロベーの反応を見ているになんか食べるのが怖くなってくるな。普通のマナナッツとは違うわけだし。


:もいだ後があるけど、レンさんはこの実を食べてみた?


「ああ、これですね。この実はデリケートでして、少し触れただけですぐにポロって落ちちゃうんですよね」


:そうなんだ

;知らなかった

:誰もマナナッツが木になっているところを見たことないわけし

:これは貴重な映像だ。アーカイブに残しておいて


 考えてみればたしかにダンジョンに落ちているマナナッツの実は見たことあるけれど、木になっている姿は誰も見たことがないんだよな。


 改めて考えてみると俺はかなりすごいところまで到達してしまった感がする。


:赤いマナナッツには特別な追加効果があったりして


 うわ、なんだこのコメント。かなり鋭いぞ。恐らく願望込みの予想だろうけど、当たってやがる。


「あはは。そうですね。特別な追加効果が生まれたら夢がありますね」


 否定も肯定もしない。この場は適当に流しておく。


:ところで後ろのジャガイモもそろそろ収穫できそうだね


「はい。ジャガイモの方も順当に育ってますね。収穫の際にはこれも配信しましょうかね」


:とれたてのジャガイモでジャガバター作る配信とか見てみたい

:ベイクドポテトだろ

:俺はマッシュポテトが好きです


「お。いいですね。ついでに収穫したてのジャガイモでなにか作る配信でもしますか」


 こうしてリスナーが配信のネタを提供してくれるのはありがたい。ジャガイモも料理のレパートリーとしてはかなり多い方だからな。色々な料理を作るだけで配信時間は伸びるだろう。


 配信者は常にネタ切れとの戦いである。特に俺は日常を適当に配信しているだけだからな。


 そんな面白いことが日常にあるわけでもない。もしあったとしたら、それは非日常である。


 まあ、ダンジョン配信者は非日常を提供しているから人気なわけだけど……その人気コンテンツで芽が出なかった俺は一体。


「ジャガイモを収穫したら次はなにを植えましょうかね。今からの時期に植えた方が良いものってなにかありますか?」


:シュンギクオススメ。鍋物が食べたくなる時期に収穫できるよ

:あー。再来月当たりからは鍋物が恋しくなる季節かー

:他にはカブとかいいかも?

:先月買った株が暴落しましたチクショー!


 なんか悲惨な目に遭っている人がいるけれど、株に手を出すということはそういうリスクも受け入れないといけなからな。


 世の中、リスクなく得する話なんて滅多に転がっているものじゃない。そのことを頭に入れておかないとな。


「シュンギク良いですね。鍋物にも合うし」


 まあ、俺は一人暮らしだし、1人寂しく1人用の鍋で鍋料理をするわけだけど。


 鍋かー。まだ日によっては暑い日もあるこの時期だとあまり食べたいとは思わないけど、冷え込んでくる来月、再来月辺りには食べたくなるよなあ。


「冬になったら、なんの鍋を食べましょうかね。前に住んでいたところの近所にはうまいもつ鍋屋があってですね。元カノとよくそこに行ったんですよね」


:もつ鍋いいなー

:もつはうまいやつとそうでないやつの差が激しい

:安いもつを買ったら臭みがすごくてとても食えたものじゃなかったな


「キムチ鍋とかも家ではよく作ってましたね。豆乳鍋も元カノと食べてましたし……あー、今は1人だからなんかさみしくなってきた」


:悲しい

:彼女がいたことある時点で俺より格上だからセーフ

:私はからいもの苦手だけど、キムチ鍋はなぜか大丈夫なんだよね


 鍋の話をしていたら、まだ本格的に冷え込む季節いじゃないのに鍋が食べたくなってきた。


 季節を少し先取りして鍋料理を作ってみるかな。もちろん1人で……


「みんなはどんな鍋が好きなんですかね?」


:しゃぶしゃぶ派

:すき焼きしか勝たん

:魚介類系が好きかな。フグ鍋食べたことあるけど、ビビるくらいうまかった


「フグ鍋いいなー。食べたことないんですよね。アレうまいんですかね?」


:フグがまずいわけないんだよなあ。食べたら死ぬと可能性があるのに食うやつがいる時点で


 たしかに。フグの毒はかなり強いものだし、フグがまずかったらいくら食に困っていたとしても食べないだろう。


 飽食の時代の現代日本でも食べられているということは、やはりそれだけうまいんだろう。


「フグ鍋いいなー。家庭じゃ基本的に食べられないですからね」


 この近くにフグ鍋の店があるだろうか。都会ならそういう店は探せばすぐにアクセスできるところに見つかるけど、田舎だと遠くにいかないとないとかあるからな。


:マナナッツを鍋に入れて食べてみるとか?


「それはもうマナナッツ鍋というより闇鍋の領域なんだよ」


 ナッツ類を鍋に入れるなんてそういう発想はどこから出てくるんだよ。


 せっかく育てたマナナッツを無駄にはしたくない。そんな鍋に入れるなんて無駄の極みもいいところだろう。


:え? 闇鍋配信をやってくれるんですか?

:リスナーから募集した食材をランダムにピックアップして闇鍋する配信楽しそう


「闇鍋配信はやる予定ないですね。よっぽど配信のネタが尽きてきたらやるかもしれませんが」


:えー。俺はレンが闇鍋で面白おかしくリアクションするところを見たいんだよ

:ニンニク

:ニラ

:カキ

:アボカド

:サバ


「なんかもうコメントで食材送っている人がいますけどやりませんからね!」


 しかも、やたらと精が付くような食材ばかりだ。リスナーは俺に力を付けさせて何をさせる気なんだ……


 特にアボカドってお前……俺のリスナーの中にもやばいやつが紛れ込んできたな。それだけ俺も有名になってきたってことだろうか。

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