とある国コロシアム(1/5)
「師匠、これは一体?」
「うん、陸、俺にもよくわからないよ」
そこは、薄暗く冷たい空間だった。
壁や床は石材でできていて、光の差し込んでいる唯一の窓には鉄棒がはめてあった。
「なんで、なんでこんな事になったかなぁ..........」
「師匠、ここから出られるんですか?」
二人のホルスターや背嚢も手元にある。
しかし前は鉄格子周りは石で、どうこうして出られるものではない。
「しょうがない、陸、何があるか調べよう」
二人は、お互いの背嚢を開けて地面に広げる。
いつもの保存食に、雨具、筆記用具、ノート、本、懐中電灯、銃剣、予備弾薬、救急箱。
そこにはいつも使っている物があった。
何一つ欠けてないし、何一つ無くなっていない。
「師匠、なんで銃剣や弾薬もあるんでしょうか」
「陸、いいところに気が付いたね、僕にも分からないよ」
「師匠、しかし拳銃は取られてますね」
「そうだね陸、あれ結構気に入っていたんだけどな」
その時複数の足音が近づいてきた。
二人は銃剣を背嚢の影に隠し、素知らぬ顔をした。
「旅人さんたち、我が国にようこそ」
男が切り出した。
「今から君達には殺し合ってもらいます」
「ふむ」
「おや?そちらのお方はあまり動揺していないみたいですね?皆様は泣いたりするのですが?」
「伊達に旅をしているわけではないからね」
「ま〜ぁ、いいでしょう、ご安心をそちらの武器は全部無傷で返却いたしますので」
「本当だな?」
「ええ、それとそちらの背嚢にある銃剣を隠さなくても結構ですがね」
「ふむ........」
そうして男たちは去っていた。
「師匠、なんであいつら銃剣のことを?」
「きっとどこかで見ているんだよ」
そんなことを言いつつも、やることがないので、しばらく雑談をしていると、さっきの足音がやってきた。
「さあ、銃は返却したしましょう、それと射撃場の案内です」
そうして男達は鉄格子の鍵を開ける。
「では案内します」
そうして前後ろを暑苦しい男で挟まれて石で囲まれた廊下を歩く。
しばらく歩いて、何回かの角を曲がると、乾いた発砲音が聞こえてきた。
「ここです」
そこには横一列に机と仕切りが置かれて、遠くには的が何個かあった。
「ここでは人さえ殺さなければなにしても良いです」
「弾はいくらでも提供しますし、武器も貸し出します」
そうして指を指した先にはカウンターがあった。
「ではご自由に」
そう言い残して男達は出ていった。
「陸、ちょうどいいし、ここで訓練でもしようか」
「わかりました師匠」
二人はお互いのマガジンから実弾を抜いて、ゴム弾に変えた。
「さて、陸のタイミングでいいから自由に来ていいよ」
二人は、少し離れてお互いの遮蔽物に入る。
「そういえばこれが初めて?かもしれないな」
師匠が呟いた。
師匠がスライドを引いて初弾を薬室に送り込むのと、陸がゴム弾を撃ったのが両方だった。
パスパスパスパス
サプレッションされた音が響く。
ダンダンダン!!
一方師匠は、銃口にはサプレッサーは付けずに、ストライクプレートとフラッシュライトが付いていた。
重厚な発砲音がさっきの音を掻き消すように響いた。
「陸、惜しいね」
お互いの弾は空を切って明日と昨日に消えていった。
「師匠、そんな逃げ腰でいいんですかぁ!?」
陸は師匠を煽るも師匠は涼しい顔で全弾避ける。
「ふっ」
今度は師匠が、姿勢を低く、低くして陸の数メートル手前まで接近した。
「陸、これでチェックメイトだ」
陸の腹部にストライクプレートを押し当てて一発。
「ゔぁ.......」
陸は腹を押さえて倒れる。
「陸、だから油断禁物だって言ったのに」
陸は少しお腹を押さえながらも立ち上がり、拳銃を握る。
「陸、次は一発当てられるといいね、ほら早く弾を補充して次やるよ」
二人はまた拳銃を持って遮蔽物に隠れた。
「陸、今日で一回でも勝てたら次の国で欲しい物を一つ買ってあげるよ、もちろん俺の奢りで」
「師匠!!言いましたね!?」
俄然やる気が出た陸が拳銃の薬室を確認した。
「よし、行こう」
「陸〜?そろそろ良い〜?」
「..........」
師匠の足音が近づいてきた。
「陸〜?」
陸が銃口を師匠の腹に目掛けて押し出した。
「ふっは!!!」
パスパス
2連射。
師匠は左に飛んで弾を躱わした。
陸はそのことも予想してか、ブレない動きで左に銃口を傾ける。
「とっと」
師匠は壁を蹴って右斜め上に飛び上がり更に躱わす。
「はぁ?」
陸が顔をしかめるのも束の間、師匠が上から、陸の肩に向かって撃った。
「ぐっ!」
陸はまたもや負け。
「陸、焦りすぎだよ?もっと力抜いてさ」
「ぐううう」
陸は師匠を睨むも直ぐに飛び上がってホルスターに拳銃を戻す。
「陸、今日のところはこれで良いや、早くいろんな銃を試してみたい!」
「そうかよ....」
「陸、何か言った?」
師匠は歪な笑みを浮かべて陸を見る。
「いえ?何も?それよりも早くいきましょうよ!」
「うん、そうだね楽しみだ」
二人は手始めに、拳銃を見た。
「さて、初めにこれだ」
そこには、一丁のリボルバーがあった。
「これはリボルバーだけど、何か隙間が多いね」
「師匠、この説明に書いてありましたが、わざと隙間を大きくしているみたいです」
「精度は?」
「そこそこ、らしいです」
師匠はそれを片手に持ち、もう片手で弾倉をスイングアウトした。
「44口径か」
弾丸を一発取り出して眺める。
「フルメタルジャケットなのか、陸、ホローポイントがあるか見てきて」
「了解ですよっと」
陸がさっきの場所まで弾を取りに行く間に師匠はリボルバーの分解をする。
「今までのよりも分解がしやすいね」
師匠は、全てを念入りに見てまた元に戻す。
「師匠、取ってきましたよ」
陸が戻ってきた。
師匠はその弾の弾頭を外して切れ込みをナイフで少し大きくして、そこに火薬と雷管と撃針を入れて、先を少し曲げて平たくしつつ元に戻す。
「さて、使えるかなっと」
師匠はそれを弾倉に入れる。
すると師匠はいきなり引き金を引いた。
轟音とともに弾が飛んで着弾。
紙の的を破ってその先にある壁に当たった。
「師.......」
その時、その時壁が盛り上がって爆ぜた。
壁大きく抉り取って轟音と破片が室内に満ちた。
「師匠!!何やっているんですか!?」
「痛てて....火薬を少し足したから反動も強いねぇ」
師匠は痛そうなそぶりを見せるがあまり効いているようには感じない。
「師匠、今のは?」
「いやね、あれ昔に何かの本で読んだんだけど、ああすると破壊力が上がるとか書いてあってね」
「だからって!こんな室内でぶっ放すほうがおかしいでしょ!!」
師匠は苦笑いを浮かべた。
「まあ、陸、これでほとんどの準備は整ったんだよ」
「ほとんど?というと後は?」
「この弾を沢山作る」
「ですよねぇ〜」
「陸、作れる?」
「はぁ?なんで俺が?」
「作れる?」
リボルバーにさっきの弾を装填して師匠は言った。
「はい!直ぐにでも取り掛かりますよ!」
陸はさっさかと作業台に腰を据えて作業に取り掛かった。
「それじゃあ俺はいろいろな銃を試してみるよ」
師匠はありとあらゆる種類の銃器を抱えてきた。
「師匠、いくらなんでも多すぎでは?」
「陸?早く作業やろっか」
「はい」
陸は作業を、師匠はバカでかい銃にスリングを取り付けた。
「陸、いくよ」
「何を......」
そんな質問を掻き消すような大音量で、連なった発砲音が響いた。
師匠はトリガーをガッチリと引いたまま1500発あった弾を1分程で撃ち尽くした。
「ふむ、いいね、欲しくなるよ」
師匠が呟く。
「師匠!少しは手加減てものをですね.....」
「陸?なにか言った?」
「いえ?何も?きっと火薬が勝手に喋ったんでしょうね」
そして陸はまた作業を再開する。
「陸、いくよ」
「師匠!いい加減に.......」
さっきよりも連射速度は遅いが装薬が増えた様な重厚な音が鼓膜を揺らす。
「師匠、それは?」
「セミオートの対物ライフルだって、一度試してみたかったんだよね」
師匠は下の弾倉を引き抜いて手のひらほどある弾を押し込んでまた戻した。
「立って撃てるのかな」
師匠はこれにもスリングを取り付け肩に掛ける。
「辞めた方が良いのでは?」
陸の制止も虚しく轟音にかき消された。
師匠は脇でストックを挟んでスリングを持ち連射。
セミオートからフルオートになったように撃つ。
「陸、流石に疲れた」
「でしょうね」
「なんかご飯食べる」
建前上、陸は忙しいので師匠が携帯食を取りに牢屋に戻った。
師匠は廊下を歩いているとどこからか音が聞こえた。
「うん?」
師匠はこのわずかな音を聞き漏らさずキャッチした。
「この喧騒はなんだろう」
音に釣られるようにそっちに歩く。
「んん?こっちかなと思うんだけどなぁ」
また少し進むと今度ははっきりと音が聞こえた。
よし、見えた。
少しの隙間から奥にあるであろう空間を除く。
「あれが例のコロシアムか」
そこでは多種多様な人間が自分の得物を持って戦っていた。
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