師匠の話(2/2)

「そろそろだぞ」


漣が後ろに声をかける。


「..................」


返事はない。


「おい!聞いてるのか!?」


今度は声を荒げて叫ぶ。


ゴン、鈍く節々を打つ音がして返事が帰ってくる。


「聞いてるぞ??」


「嘘だろ!あと少しで着くからそろそろ準備しておけ」


漣は追加されたミサイルの点検を始める。


左手の近くにあるボタンを押すと、前の計器類に混ざって4つの青い光が点灯した。


安全装置を外せばいつでもぶっ飛ばせる状態だ。


「よし、いつでもいけるな」


すると前に山々が見えてきた。


「よし、高度を下げるぞ!」


高度を下げて、なるべく敵に見つからないように進む。


ぐんぐんと山肌に近づき、谷に沿って飛ぶ。


「うひゃひゃひゃ!!海、まったくお前はクレイジーだ!!」


「そんな喋ってると舌噛むぞ!!」


調子に乗って、機体を右にローリング、左にローリング。


「海!もっとやってくれ!」


そのあとしばらく谷のクレイジーな場所で飛行機を回して遊ぶ。


「うっぷ、海、少し酔った.........」


少し機体を安定させ酔いを覚ます。


「そろそろだぞ」


酔いが覚めた頃、少し開けた場所に、横に細く長く伸びる窪地が見えた。


「塹壕だ目標が見えたぞ!」


後ろから着いてきた僚機に無線を飛ばす。


「撃ちまくるぞ!!」


攻撃目標を照準のレティクルに合わせて、ロケット弾を撃つ。


2発撃つも、どちらも目標を外れた。


見ると、近くの壕からバラバラと動く影がある。


「友軍を支援しろ!!なんとしても敵を叩き潰せ!」


残りのロケット弾を全弾発射。


「外れた!!」


ものの見事に、全弾外れた。


「敵機発見!5時の方向!」


後方の銃座から報告が入る。


「飛ばすぞ!」


迫撃砲を攻撃した時にスピードを落としていたのを一気に最大まで上げる。


「付いてきている!!」


敵もぐんぐんとスピードを上げて追ってきている。


「これでもダメか!」


すると横を熱い空気が通り過ぎた。


「撃たれてるぞ!!」


風を切って横を弾が通る。


後方銃座でも応戦はしているが、なかなか当たらない。


「うひ!!海!撃たれてる!撃たれてる!」


翼や胴体、燃料タンクに当たる。


「こなくそ!当たれ」


祈る思いでトリガーを引く。


「当たった!!」


数発敵の翼とエンジンに当たる。


しかし敵の横を弾が通る。


また翼や燃料タンクに当たり、胴体から白い煙が出る。


「後ろ!何やってる!!」


「うるせえよ!!こっちだって必死にやってるわ!!」


醜い言い争いをする。


その間にも弾は絶えず飛んでくる。


胴体に敵の弾が当たった、その時、噴き出ていた白煙が燃えた。


「海!燃えてる燃えてるよ!」


「うるさいぞ!!」


炎と煙が後ろにたなびく。


「不時着するぞ!!」


空の上にいた機体が高度を下げて下がる。


流石にこれだけやれば継戦は不可能と判断したのか、敵も追撃はしてこない。


漣はランディングギアを降ろそうとレバーを下げる。


「あれ?ギアが降りない」


故障したようだ。


このままギアを降ろさないで行くと地面に墜落。


「胴体着陸か?」


今なら、少し行ったところに仲間の塹壕がある。


後方の男と少し話し合い、何かを決めたようだ。


「胴体着陸をしよう」


操縦桿を引き地面と水平にする。


「衝撃に備えろ!!」


幸い地面は柔らかそうな土だから、大きな衝撃はなかったものの、やはり衝撃はある。


土山に乗り上げたところで機体は止まった。


「俺たち生きているよな?」


「ああ、もちろんだとも、ばっちり生きているぞ」


そして、直ぐに機体を降りて離れた。


「流石に良いよな?」


少し時間をおいて機体に近寄る。


「うひー、蜂の巣だ」


翼や胴体の弾痕を見ると、弾丸が無数にめり込んでいた。


「.......!これは」


機体に着弾すると爆発するはずの弾丸が、爆発せずにのままめり込んでいた。


「不発か??」


しかしそこには、不発にしては神様のイタズラや奇跡にも等しい数の不発弾があった。


「何でこんなに.....」


二人はしばらく考えていると、歪んで中が見えそうな弾を見つけた。


「これは、紙だ!」


小さく折った紙が複数枚あり、それらを広げると拙ながらも小さい文字が書いてあった。


『きっと無事に生還できたことで戸惑っているでしょう。これは偶然ではありません、私達からのささやかな希望です』


その下は別の人が書いたのか筆跡が変わる。


『これが今の私達にできる精保ちません、こんなことが秘密警察に見つかれば処刑されてしまいます、どうか私たちの分も生き延びてください』


「海、これは偶然なんかじゃ無い......」


目元には涙が止まらない。


「行こう.....」


その紙を大切にしまうと、味方の塹壕に向けて二人は歩き出した。


「あの機体、試作にしてはなかなかに良かったぞ」


「そうか、結局落ちたけどな」


「空中分解しなかっただけマシだ」

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