エド

「師匠......死なないでくださいね...」


「う......ん......陸...早く...」


「今急いでますから!!死なないでください!!」


「.........」


屠龍を全速力でぶっ飛ばして次の国までのルートを最短で飛ぶ。


事の発端は、さっきの国での出来事。




「陸、今日は飛行場で野営しよう」


今回の国は、入国ができなかったため、唯一許された飛行場で野営することにした。


その日は何事もなく床に付いた。


陸と師匠が見張り番を交代した頃、一人の青年がこちらに近づいてきた。


「君、どうしたのかな?」


師匠が青年に問う。


「その飛行機、随分とぼろぼろだな、金さえ払えば、俺が明日には新品同様にしてやる」


「ごめんね、あいにく金は持ってないんだよ」


「.........ならいいや」


多少含みがあったものの、師匠には関係のない事なので、無視する。


「............」


その夜は何事もなく過ぎた。


しかし、師匠達が離陸の準備をしている頃にそれは起こった。


いつものように、離陸の用意を済ませて、少し休憩していた。


その時、男がゾロゾロとこちらにやってくる。


「おい!旅人!出てこい!」


そこには、恰幅の良い男と、布切れのようになった青年に多数の筋肉ゴリラがいた。


「はい?旅人ですけど、あなたは?」


「昨日こいつが、お前らに物乞いをしたら、暴力を振るわれたと言っているんだ!」


「はて、そんな覚えはありませんが?」


「嘘をつくな!!」


そして、男は師匠に殴りかかった。


「遅い」


師匠はいとも簡単にかわして、男に一撃与える。


その勢いを殺さずに、奥にいた男にも一撃プレゼントする。


「ぐう、野郎共ぉ!やっちまえ!!」


やられた男が指示した。


「陸、青年を守ってどこかに隠れてくれ」


「師匠は...どうするんです!?」


「こいつらに引導を渡してやる」


「エンジン回してます、早く来てくださいね!」


「数分して戻らなかったらまた戻ってきてくれ」


「......ああ」


師匠が返事する。


そうして陸は、青年を引っ掴むとささっと逃げてしまった。


「野郎ぉ!あれ使っていいからこいつを殺せ!!」


そうして、背中に背負っていたMP5に、弾の少ない弾倉を叩き込んで装填した。


「流石に、銃器はねえ.........陸来てくれるかな、拳銃持って来ればよかった」


タララララ......


小太鼓を叩いたような音が連続して響く。


「よし、撤退だ!!」


「でも、死んだか確認しなくていいのか?」


「銃声を聞いて、治安隊が来るだろ!!逃げるんだよ!!」


「へいっ」


その場から消えるように散っていった。


そこへ陸が走ってきた。


「師匠!!師匠!!生きてるか!!??」


「うん......なんとかだけどね......」


そうして、陸は師匠の服を脱がした。


すると所々、穴の空いた防弾プレートが仕込まれていた。


「弾は当たったが.........全部じゃない.........早く次の国で治療を.........ここは......危ない...」


「師匠!もう喋らないでください!!」


そして、師匠を抱いて、一生懸命滑走路に向かい走る。


「青年!後ろに乗ってくれ!」


「は、はい!」


そして、滑走路も無視して草の上を走る。


「師匠......死なないでくださいね...」


「う......ん......陸...早く...」


「今急いでますから!!死なないでください!!」


「.........」


屠龍を全速力でぶっ飛ばして次の国までのルートを最短で飛ぶ。


「あと、5分で着きますから!!」


機内に少量だけあった、鎮痛剤と傷口を塞ぐ針に糸の空容器が転がる。


「陸、もし私が死んだら.........屠龍をよろしく頼むよ.........」


「師匠?師匠!!死なないでください!!」


「陸、聞いてくれるよね?」


「師匠......」


「私の......最後の...願い...」


「............」


「屠龍....を....よろしく」


「師匠............わかりました、師匠」


「うん...............あとは次の国までの.........辛抱......だ」


気を失って、全身から力が抜ける。


「.......必ず助けてみせる.......」


それからは、重く速い機体を少しだけ遅くして着陸の準備に入る。


「青年、衝撃に備えろ!ギアを降ろしてる時間はない!このまま胴体で着陸する!」


一か八かの作戦だった。


機体の速度や角度が少しでも狂うと、一気に横転し、爆発、炎上。


じわじわと地面が迫り、陸の額にも脂汗が流れる。


「着陸するぞ!衝撃に備え!!!」


金属が歪んで、軋むような音と共に、機体が横滑りする。


「師匠!耐えてください!!」


幸い師匠に大事はなかったようだ。


飛行場の警備隊と消化隊が駆けつけて、屠龍に消火剤を撒く。


「要救助者が機内にいる!早く搬送してくれ!一刻を争う!」


すぐに担架が運ばれて師匠は、飛行場に併設された治療室に運ばれた。


オペの電灯が光り、青年と陸二人だけになる。


「青年、なんで、あいつらといたんだ?」


「僕は、ただ.......」


青年は黙ってしまった


「辛いなら無理に話さなくていいけどな」


「..................」


それから永遠とも思える沈黙が流れる。


5時間が経った頃、突如手術室の扉が開く。


「師匠は!師匠は!!」


そうして、医師はペンと紙を差し出し、冷静を装って陸に言った。


「あなたの、師匠、漣さんは.........」


「師匠が!!どうしたんですか!!」


「残念ながら.......お亡くなりに.......なられました」


世界が、一気に歪んだ。


「師匠、そんな、師匠」


「ここの用紙に.......サインをして、遺体の......埋葬を........」


陸は、紙にサインしようとしたが、うまく力が入らない。


「.........」


誰もが、悲痛な顔をして黙りこくる。


陸が持っていたペンを落とした。


「..........」


執刀医が無言でペンを拾い上げ陸の手に乗せる。


陸はしっかり、ペンを握った。


ガリガリと、木を削るような音と共にゆっくりサインしていく。


「師匠.....」


手術準備室に踏み込み、看護師の制止も虚しく手術室に入る。


そこには、師匠の整った顔があった。


今にも、師匠が語りかけてきそうに見えるほど整っている。


「師匠、起きてください」


しかし、反応はない。


「師匠、師匠」


そして執刀医が近づいてくる。


「漣さんは、最後にこう言ってました『陸、屠龍と青年をよろしく、君は立派だ、このまま旅を続けてくれ』と」


「師匠、わかりました」


一礼し部屋を出ていく。


廊下に出ると、廊下が長く、果てしなく続くように見えたが、自分の心に叱咤激励し葬式に


向けて歩く。


「青年、名前は?」


「.....私はエド、ウィル • ロー • エド、だ」


「エド、よろしく」


二人は師匠の埋葬を終えて旅立った。

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