第26話 騎士団
ガチャガチャと鎧の擦れる音が周囲に響く。
「だめです!やめてください!これ以上は勝手に奥に進まないでください!」
一人の年若い修道女が10名程度の騎士鎧姿の者達を制止しようと必死で声を張り上げるが、騎士達はそれを完全に無視して修道院の廊下を進む。
途中途中の扉も全て無理やりに開き中を確認し、悲鳴を上げる修道女たちの顔を一人一人確認しては押し倒して放置して進む。
「どうだ?」
「今のところは一人も居ません」
「そうか」
そう言って、部屋を調べた騎士が先頭を行く騎士に一言二言伝え、次の部屋を調べに行く。
騎士達が進むなか、少し先の扉が開き中から出てきた修道女と先頭の騎士と目があって騎士はニヤリと厭らしい笑みを兜の中で浮かべる。
「これはこれはブリュンヒルデ様、こちらにおられましたか!探しましたぞ!」
その声と兜でも見えなくても分かるほどにニヤついた顔に顰めた表情で言葉を返すブリュンヒルデ。
「お早いお着きですね、カドマンズ殿」
カドマンズとよばれた騎士は面頬を上げると、そこには金髪でブリュンヒルデ達と同年代らしい青年の顔が現れた。顔のパーツやバランスだけで言うと美形と言えるのだろうが、そのニヤついた表情が全てを台無しにしていた。
「おお、相変わらずお美しい姿ですな!こんな所で会えてこのカドマンズ感激いたしましたぞ」
大仰に両手を開いて感激の挨拶を返し、そのまま抱き着こうとでも言わんばかりに近寄って来るカドマンズにスクルドが短剣を向ける。
「おやおや、これはスクルド様では御座いませんか、おられたのですね。それにしても、そのような怖い顔をなさってどうされましたかな?」
カドマンズの視線にはスクルドは入っていなかったのか、切っ先を向けられて初めて存在に気が付きましたと言わんばかりの惚けた顔でそう言う。
「貴殿はいつ騎士団に入ったのだ?いやよくお前のような奴が入れた物だ」
スクルドは短剣の切っ先をカドマンズに向けたまま、苦い顔でそう問いただす。
「おおっと、怖いですな。そのような表情をなされてば折角の美貌が台無しですぞ?」
「そんな見え透いたお世辞はいい、ここは修道女の為の寮なような物だ、殿方が鎧姿で無遠慮に入って来ていい場所ではない」
そんなスクルドの問に、カドマンズは両手を上げたまま肩を竦めて、馬鹿にしたような表情のままスクルドを見下ろして笑う。
「とは申しましても、国王陛下からの勅命ですからな」
「国王陛下だと……良く言うな、陛下は今幽閉されているだろうが!」
スクルドはさらに一歩進んで切っ先をカドマンズの首元に近づける。
周囲の見守っていた他の騎士達も柄に手をやり、緊張感が増す。
そんな周囲の騎士を手で制し、柄から手を離させてカドマンズは言葉を続ける。
「これは異なこと仰られますな、陛下は玉座にて指揮をちゃんと取られておりますぞ?」
「なにを!」
「やめなさいスクルド」
今にも切りつけんとしたスクルドを声一つで押しとどめると、ブリュンヒルデは前に一歩でる。
「カドマンズ殿、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
そう声を掛けられたカドマンズは急に真面目な表情を浮かべてブリュンヒルデの正面へ相対して騎士の敬礼、胸の中心に右手の拳をつける。
「ブリュンヒルデ様、王都へお戻りになられる気は御座いませんか?」
「……無いですね、それで他の子達を見逃す……と言うのであれば話しは違いますが」
一瞬の逡巡の後にブリュンヒルデはカドマンズを睨みつけるとそう回答する。
「申し訳ございませんが、その提案を受ける事は出来ません。陛下の指示は全て連れ戻せとの事でございます。」
「なにが陛下か!あの男は戴冠を受けてはいない!単なる簒奪ではないか!」
「やめろ!」
普段の姿では想像できない程に激高したスクルドがブリュンヒルデの前に飛び出そうとするのを、ブリュンヒルデはそれを大きな声で制する。
「やめるのだスクルド……今はそれを言っても意味はない」
「相変わらずの狂犬ぶりですな、スクルド殿」
哀れな視線をスクルドに向けながらカドマンズは鼻で笑う。
「テムズ陛下は前王より、正しく譲位された正当な皇帝ですぞ」
そういって腰の剣を抜き、スクルドに向ける。
「きさま!」
「やめろというておる!」
カドマンズの物言いにスクルドは噛みつかんとするほどの勢いで飛び掛かろうとするが、ブリュンヒルデが再び大声で止める。
「まったくもって理解できませんな?テムズ陛下に付き従うのが家臣の役目、スクルド殿も以前は近衛騎士のおひとりではありませんか……いや、だからこそ出奔されたと言う所か」
ギリギリと音がしそうな程歯を食いしばるスクルドを横目で見てブリュンヒルデは一つ溜息をついてカドマンズを見る。
「カドマンズ殿……いや、カドマンズよ今すぐこの場所から去れ、お前の言葉には一切の正当性は無い!」
それに対して無言でブリュンヒルデを見つめるカドマンズは、やがて手にした剣を高く上げて配下の騎士達に向けて命令する。
「ブリュンヒルデとスクルドの両名を王命に逆らう反逆の徒として捉えよ。そののちにこの建物の全てを捜索し、王都より脱走した女達全ても同様に捉えよ!邪魔する者は全て王命に逆らう意思有りとして切り捨てて構わん!」
今まさに、その命を実行すべく騎士達が動き出そうとした瞬間、それを弛緩させるような声が響く。
「なぁ、何を大声で騒いでるんだよ……女の子には優しくするって習わなかったのか?」
ブリュンヒルデ達が出てきた部屋から、もう一人男性が出てきて場違いなのんびりした声でそう言う。
「男?、何者だ?」
怪訝な表情でそう問いただすのはカドマンズ。
「グレン様、部屋で隠れていて下さいと申し上げましたのに……」
困った表情を浮かべてブリュンヒルデは言う。
「それでも構わなかったんですがね……、こちらにも色々都合がございまして」
そう言ってブリュンヒルデとスクルドの前まで歩いて出るグレン。
「私は何者だと問うているのだがな?そもそも何故ここに男が居る?」
剣を振り上げた姿勢のままカドマンズはグレンに問う。
「グレンと言う名前のしがない旅商人ですよ、カドマンズ様、男云々を言うならカドマンズ様も男ですが?」
そう言って大仰に腰を曲げて右手を振り上げ腰まで下ろす挨拶をするグレン。
「だめです!グレン様!カドマンズは平民には容赦の無い男です!」
急な出来事に呆けてしまい、グレンが前に出るのを止められなかったブリュンヒルデは、慌ててグレンの腰辺りの服を掴んで後ろへ下がるように言う。
その手をグレンは優しく押しとどめて離させてから、あらためてカドマンズへ視線を移した。
「カドマンズ様が何を求めているのかは私は知りませんが、何人もの男がよってかかって、かよわい女性に剣を向けるのはどうかと思いますが?」
グレンの堂々とした物言いに気後れして一歩後ろに下がったカドマンズは、グレンが丸腰である事に気が付いて、気後れした自分に自嘲気味笑うとグレンに顔を近づけて言う。
「グレン殿と申されましたか?、悪いですがこれも仕事です故、無関係な者は横にどいて頂けますかな?」
そう言って、剣を持たない左手を横に振りぬく形でグレンに叩きつけようとした。
「これはまた……スクルド殿は正義感がお強いようで」
その振りぬこうとした腕にしがみ付き、不格好ながらグレンを庇ったスクルドに呆れた顔をするカドマンズ。
「グレン殿は無関係です!」
力を入れ過ぎてか途切れがちな声でそう言うスクルドに、視線を向けたグレンは優しい笑顔で手を差し伸べる。
「スクルド様も無茶はなさらないで下さい、後は私に任せて後ろに下がっててください。」
「グレン殿……ですが!」
「こちらにおいで!スクルド!」
尚も言い張るスクルドにブリュンヒルデが下がるよう声を掛ける。
「ふむ、女に守られるのは商人であっても男である以上はプライドが許しませんか?」
ニヤニヤ顔をこちらに向けるカドマンズにグレンは見返して睨み付ける。
「悪いが長く相手するほどの余力は無いので寝ていてくれ」
グレンがそう言った瞬間、その場にいた騎士達は全員意識を失って倒れこんだ。
「な!?、いったい何が!」
一瞬の出来事にスクルドは声を出して驚き、ブリュンヒルデは口を押えて目を見開いて驚いている。
「すみません、状況が見えませんでしたのでクスリで眠らせました。」
そう言って二人に見えるように壺のような物を手に取って掲げると、グレンはそれを放り投げて向き直る。
建物の外からも新たな騒ぎ声が聞こえてきている。
「騎士の方々から逃げられるのですよね?詳しい話しは逃げながら聞きますので、まずは抜け道とやらに行きましょう?」
茫然とする二人にそう告げ、グレンは奥に向かって歩き出す。
「そうですね!カレンさん!私達は行きます!あなた方はこれ以上私達を庇う必要は御座いません!他の修道女の方々も連れて直ぐに父の館に避難していてください!」
腰を抜かして座り込んでいた、カドマンズ達を制止ようとしていた修道女に向かってそういうとブリュンヒルデはスクルドに視線を一瞬だけ向けてグレンの後を追う。
「グレン様!抜け道が何処にあるか分かられていますか?」
そのブリュンヒルデの声にグレンは立ち止まり、頭を掻いて振り返る。
「案内してくれますか?」
――――――――――
こんばんわ
本当は昼間書いて公開しようと思ってたんですが目が覚めたら22時!
慌てて机に向かうものの、全く続きを考えきれてませんでしたので暫く白い画面を眺めて、気分転換に「MMORPG黎明期」を開いてそちらを書きだすも……そちらも書いててしっくりく行かずに書いては消し書いては消し……、これじゃ気分転換にならないと、再びこちらの画面に戻って無理やり書き出したらカドマンズとか言う名前の騎士が勝手に出てきて勝手に動き出しました。誰お前?
まぁおかげで一通り書けたので許そう!
◇次回 第27話 レスティの願い
グレンが廊下に顔を出す迄のお話です。
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