第22話 相談1

『どうします?』


 建物を出て直ぐに気になっていた修道院の件、グランはどう思ってるか聞きた過ぎて何の説明も無しにストレートに聞いてしまった。


『どうって……もうそろそろ日も落ちそうだし、宿で部屋を取ろうと思ってるが?』


 ストレート過ぎて言葉が足らなかったようです。

 求めた答えは返って来なくて、自分が悪いってのは分かってるんだけど、ちょとだけむうって思ってしまう。


『ちがいます!、あ、いえそれも必要ですが修道院には行ってみないんですか?』


 グレンは既に歩きだしていて、多分例の豊穣の宿に向かってる所をみると、そこで部屋を取るつもりなのでしょう。

 まぁ他の宿を今から探すのは無理があるので当然なんですが。


『ああ、それねぇ……気になるのか?』

『そうですね、少し気になってます。』

『何か関連するような事でも思い出した?』

『いえ、そう言うわけでは無いんですが、なぜあそこまで修道院に行くようにと言われたのかが気になりまして……』

『そうだよな……なんか俺達の事を別の誰かと勘違いしてるようだったし』

『ああ!それは私も思いました!』

『なら、恐らく間違いないだろうな。その誰かに修道院に行ってもらう必要が有った。とかなのだろうが……まぁ、その話は取り敢えず部屋を取って落ち着いてからにしないか?』


 そうこう話してる間に目的の宿屋の前に到着していた。

 カランカラン

 この宿も扉に吊り下げベルが付いているらしい音が鳴る。

 この街特有なのか、それとも他の街でもそうなのかは分からないが来客を知らせる為の仕掛けとして普及しているのかもしれない。


「はーい!いらっしゃいませ!、ちょっーと待ってくださいねー!」


 真正面の布がぶら下げられ奥が見えないようなっている開けっ放しの扉の奥から女性の大きな声が聞こえる。

 入り口を入って直ぐは広めのエントランスで、右手にカウンターらしき台があり左手を見ると結構な数の椅子とテーブルが並んでいる。

 その席は3名程の旅装束の服装の者達が何かを飲みながら一つのテーブルを囲んで話しをしている。

 他の席は全て空いている。

 おそらくこの宿の食堂なんだろうが、まだ少し時間が早いのか食事をしている者は居ないみたいだ。


「おまたせしました!」


 元気な声でそう言いながらパタパタと足音をさせながら、すこしふっくらとした妙齢の女性が奥から出て来る。


「ごめんなさい!本日受付の子が休んでてお待たせ致しました。」


 女性はカウンターの向こう側に入ってカウンター下から紙束のような物を取り出しす。

 その紙束をカウンターに置いてからぱらぱらとめくり、何も書かれていない紙の所で手を止めて、紙とは別に鳥の羽で出来たペンが刺さったインク壺もカウンター下から取り出して、ペンを壺から抜いて左上辺りに何か文字を書いてからこちらに向けて差し出してくる。


「この日付の横辺りに名前を書いて頂けますか?」


 そう言ってグレンに羽ペンを差し出した。


「もし字が書けないようでしたらこちらで代筆致します。その場合は拇印を押して頂ければ大丈夫です。」


 そう言ってにっこりと笑いかけてくれる。


『そう言えば俺の知ってる字って……、なぁレスティ悪いけど俺の名前を代わりに書いてもらう事は出来るか?』

『グレンの知ってる字ってどんなのか気になりますが、そうですね大丈夫です。右手を私に動かさせて下さい!』


 グレンの知ってる文字っていうのがすごく気になったけれども、それは後で時間のある時にでも聞けばいいですし、右手の主導権を渡してもらって私はグレンの名を書く。


「あら、きれいな字を書かれるのですね!、はい!大丈夫です。」


 そう言って女性はグランからペンを受け取り、紙束を自分の目の前に持って行った。


「それでは何泊程予定されておりますか?」


 紙に書き込むべくペンを持って紙の上でとめてからこちらに泊まる期間の予定を聞いて来る。


「いや、その前に値段とかの条件を先に聞いていいか?」

「え?、あ!嫌だ私ったら!」


 女性は驚いたように目を大きく広げてから、直ぐに恥ずかしそうにペンを握っていない方の手を頬に当てて恥ずかしそうに言う。


「申し訳ありません、普段受付はいつもの子にまかせっきりだった物で、大事な事を伝えるのを忘れてましたわ」


 そう言って少し顔を赤くしながら、簡単に説明してくれた。

 個室なら一泊銅貨2枚、夜の食事を付ける場合はそれに銅貨をもう一枚。

 食事付きで前日迄に伝えてくれるなら、朝の簡単な食事も付けてくれるそうだ。

 もしも当日急に食事を取りたいとなった場合も銅貨1枚で出してくれる。

 もちろん朝食は急に言われても出せないので夜の食事のみで銅貨1枚だ。

 また、10日以上泊まる場合は部屋代は10日毎に銅貨18枚にで良いとの事。


「夜の食事は後で頼んでも大丈夫?」

「ええ、宿泊料とは分けて考えて頂いて大丈夫です。前日迄に言って下されば翌日の朝食も用意いたします」

「それじゃ、10泊と今日と明日の夜の食事を頼むよ」

「はい!ありがとうございます!それでしたら銅貨20枚になります」

「銀を混ぜても?」

「でしたら、銀貨1枚と銅貨9枚でいかがですか?」

「じゃ、それで」


 グランは銀貨1枚と銅貨9枚をカウンターの上に出す。


「銀貨1枚と銅貨9枚、確かに頂きました。少々お待ちください」


 女性は今話した宿泊予定を名前の下に書き込んでから紙束を閉じてカウンターの下に仕舞い込んでから、同じようにカウンター下から鍵を一つ取り出して私達の前に置いた。


「お部屋は三階の右手三つ目の5号室です。」


 そう言ってカウンターのカウンターの奥、女性が出てきた扉の手前にある階段を指さしてくれる。

 グレンは鍵をカウンターから取りポケットに仕舞うように魔力体のなかに入れた。

 本当に便利なからだです。


「一旦はお部屋で休んで下さい、本日の食事の用意はあと少しかかりますので、出来ましたら部屋までお声掛けに行きます。」


 グレンは振り向いてテーブルを囲んでる三人に視線を向けてから女性に質問する。


「彼らは?」


 ようするに、夕食以外で何か出せるのか?と聞いてるみたい。


「ああ、お飲み物なら出せますよ?いかがいたします?」


 夕食前でも飲み物を頼むなら自由に使って良いって事なんでしょうね。


「そうだな、一度部屋に行ってから何か頼むとしよう。その時は声を掛ければよいか?、ええと……」

「あ!すみません!本当におっちょこちょいで!私はルバタと言いますけども」

「おかみさーん!これと同じのもう一杯たのむ!」


 私達が話してる最中に遠慮なく、テーブルの三名の内一人がコップを掲げて大きい声で此方に声を掛けてきた。


「って呼んで頂いて大丈夫です、ふふっ」


 そう言って笑顔で挨拶をして、三人の所へパタパタと足音をさせながら向かっていった。



 私達は特に置いておく荷物も無いですが、一旦部屋へ入る事にした。

 三階に上がって5号室と書かれた扉を開けて部屋に入って驚いた。

 と言うか安心?した。


「流石にしっかりした部屋なんだな」

『そうですね!』


 部屋にはしっかりとしたベットが一つ、作業用の椅子と机も1セット置かれて居て、ベットの横にもう一人横になれそうな広さはあった。


「このベットもシーツ下は藁ではないようだな」

『そうなんですか?では固いのでしょうか』


 流石に虫が居たり臭いよりはいいけども、固いのは身体が疲れそうで……いえグレンが柔らかく支えてくれるので関係ないですね。


「いや、固くは無いな」


 そういってグレンはベットに掛かったシーツの一部をめくる。

 めくったシーツの下には格子状に幅の広い布状の何かが巻かれていて、触ると伸縮性が有る事が分かった。


『すごいですね!』

「座ってみるといい」


 そう言って急に身体の制御を渡されてあたふたとして、ゆっくりとベットに腰を下ろすと、気持ちの良い反発が返ってきた。


『うわー、身体が沈み込みます!』

「それだけじゃないみたいだよ」


 そう言われてベットの端を見ると、とても柔らかそうな塊が置いてあるのが見えた。


「多分この上に敷いて、さらに身体の上に掛ける分もあるよ」

『ええ、すごく温かそうです!』


 私は我慢できなくなってそれをベットの上に広げようとしてグレンに止められた。


「お楽しみは後にとって置こう!、ちょっと下にいって何か飲みながら話しをしないか?」

『お話しですか?』

「ああ、一度落ち着いて今後の事を話して置きたいと思ってな」

『んー、そうですね!なにか甘い物が飲みたいです!』


 私はちょっと考えてから了承した。

 そのちょっとの間を不思議そうにグレンはしていたが、甘い物が飲みたいと言う私の言葉に笑みを浮かべてそれ以上はたいした事ないと流してしまったらしい。

 気が付いてないようですが、まぁ私が気を付けたら大丈夫ですね。


「それじゃぁ下に降りるか?身体はどうする」

『降りたらおかみさんとかと話す事もありますし、お願いします』

「わかった」

『あ、私の存在は気にしないようにしてくださいね?』

「え?、あ!……部屋に持ってきてもらうか?」

『いえ、食事もありますし下でゆっくりしましょう!』

「分かったよ……今度何か適当な本でも買っておくか……」



「おかみさん!、ちょっと疲れてるから何か甘い飲み物ってあるかい?」

「はーい!」


 グレンは一階に降りて直ぐの扉奥へ声を掛けて注文をしてくれ、奥からおかみさんの返事が聞こえた。

 甘い物をお願いしてましたが、そうですよね男性一人で甘い物をって頼み難いですよね……反省します。

 今も何か喋ってる三人組から少し離れたテーブルの席についた。


『それで話しって何ですか?』

「修道院の件さ」

「修道院がどうされたんですか?」


 不意に後ろから声を掛けられてびっくりして振り向くとおかみさんが、コップを乗せたトレイを持って立っていた。


「あ、いや、知り合いがここの修道院に居るかもしれないって聞いて、顔出すべきかなやんでたんだが声にでちまったようだ」

「へぇそんなんですか?うちの受付の子もそこから通ってるんですよ?奇遇ですね」

「修道院の人がここの受付?」


 え?って顔をして聞き返すグレン。


「ああ、別に修道女シスターじゃないですよ、あそこは色々有って困ってる娘達を保護してるので、そう言った子が街に働きに出て居たりしますから。あなたのお知り合いもそうでは無いのですか?」

「そうなのか?いや、そういう事なのかもしれないですね。そこに居るって聞いて不思議に思っていたが、それなら納得です」


 ニコリと笑顔をおかみさんへ向けて、堂々と作り話をスラスラ語るグレンに驚きと一緒に頼もしさを感じて、私は無言で成り行きを見守る事にした。


「だったら心配ですね?うちに来てる子も少し熱が出てしまって今日休んでるのですから」

「熱?」

「ええ、なんでも詳しい事は分かりませんが、保護されてる修道女シスターが何人か熱を出して寝込んでるって聞いてますよ?」

「それは知らなかったな……情報助かったよ」

「いえいえ、それじゃ飲み物はこちらに。食事まではもう少しお時間下さいね?」


 そういってテーブルにコップを置いておかみさんは奥へ戻っていった。


『グレン……魔力欠乏症でしょうか?』

『多分そう言う事なんだろうな』


 シラネイロが効いてくれれば良いのですが。



――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

今回は予想外に長くなりましたので二回に分ける事にしました。

まぁ次回分はまだ完成してないのですけども(´;ω;`)

前回のあとがきにも書かせて頂きましたが、次回以降は不定期公開に変更致します。偉そうな事を言える身では御座いませんが、お待たせする事になり申し訳ございません。


◇次回 第23話 相談2


 少しづつ本筋が動きだして行きます!

 これからもよろしくお願いします。

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