第12話 ファッションショー

『それじゃ!やってみてくれ!』


 翌日、再び拠点から少し離れた場所に向かった。

 少しだけ開けたその場所で肩に乗るトリに声をかける。


「にゃぁ!」


 トリはそう一声鳴くと、その広間ギリギリの大きさに魔力の枠を広めて術式を起動させる。

 やがて術式に魔力が呼応してその性質を変質させて行くのが分かった。


『ここからだと良く分からんが、これで魔法は完成してるのか?』

「「ニャ!」グォォォォォォ」

「きゃ!」


 レスティがを押えて蹲る。

 トリの返事に重なるように最初に合った時の巨鳥の叫びと同じ声が重なる。

 声も魔法で構築してたのか、いやまそりゃそうだろうがで聞くと耳が痛い。

 マジやめろ。


『声まで出さなくていい!耳が痛い!』


 レスティの魔力制御がだいぶん上手くなって来たので今日は完全に制御を任せてたのはまずかった。

 レスティは大きすぎる声に驚き、耳が相当痛かったのか暫く蹲った体制から立ち上がれないでいた。


「にゃぁ……」


 なんとか立ち上がって耳を痛そうにしながらも、申し訳無さそうに覗き込むトリを優しく撫でる。


「大丈夫、少し驚いただけだから」


 取り敢えず、身体全体の制御は任せていても大丈夫そうだったので、俺は術式を解析する事に集中する事にした。


『レスティ、魔法発動してる外側に出てみてくれないか?』

「あ、そうですね!ここだと発動してるのか良く分からないですね。でも、だとしたら内と外で見え方が違うのは凄いですね」


 魔法発動の外側に向かって歩きながらレスティは感心したようにそう呟く。


『そうだな、俺達が知ってる幻術じゃ内側も外も同じに見えるし視界が遮られる、逆に魔力を見る事が出来ない者には幻術その物が見えないのも欠点だしな』

「あ、それですけど魔力が見えない方へは直接頭の中に幻を見せる方法も有ります。もっともその場合は人によって見え方が違ったり、ちゃんと効いてるのか魔法を掛けた側には分りづらい欠点は有りますが」


 ふと立ち止まって、思い出したように饒舌に語るレスティに少し驚いたが、以前記憶を見た時の姿を思い出す限り魔法に関しては並々ならぬ思い入れが有るんだろうな、とは思っていたから、そういう拘りの部分が出てしまったのだろうと苦笑いを心の中でしておいた。


『そうだな、まぁ目的考えたら人によって見え方が違う様な幻術じゃトラブルの元だし、こいつの魔法は本当に有用だと思うよ』

「ええ!本当にそう思います!光魔法の応用ですよね?先ほど発動の際に見えた魔術式、凄く繊細で高度に組まれた美しい術式でした!多分国のどんな高位の魔術師でもあそこ迄の術式構築を出来る方は居ないと思います!多分私でも使えるようになる迄には相当練習が必要だと思いますし!」


 え?なんかえ?饒舌なんてもんじゃなくね?

 俺がびっくりして固まってしまったのが伝わったのかレスティは慌てて言い訳を始めた。


「ご、ごめんなさい!私って昔から魔法の事になると興奮しちゃ……あれ?昔から?」

『大丈夫だよ、でもなんか少し思い出せそうになってる?もしかしたら魔法に関して色々やってれば、もっと思い出せるようになるかもしれないね。とは言え、今はまず外側からどう見えるのかを確認しよう!』


 レスティは興奮して話し出したものの、急に冷静になった事で恥ずかしさに落ち込む。

 それを落ち着かせる為に話をそらした。

 まぁ、実際の所は高位の魔術師がどうのとか、ついこの前までは憶えて無さそうだった記憶部分がスラスラと出てきたのは良い傾向だろう。


「そ、そうですね!行きましょう」


 俺達はトリを置いて少しづつ外側へ向かって歩く。


『で、これか……分かっていたけど凄いな』

「はい……分かってても怖い位です」


 目の前にはこちらを見下ろす巨鳥の姿が有った。

 本当に内側からは幻影が見えないけど、外からははっきりと見える。


『よし!解析終わったぞ!』


 術式の何処がどのような方法で、幻影の形を形成しているのか、トリの幻術を完全に解析しきった。

 やっぱり、光魔法の応用のようで、入り込む光を反射させてそう見えるようにしている。

 このままちょっと応用するだけで目的のレスティの姿を誤魔化すのに使えそうだ。


「凄く楽しみです!」

『そうだな、ずーとボロボロの服にカーテンを破けた部分に当ててるだけだったからね、まぁ幻を纏うだけなんだけどね……』

「そ、それでも、うれしいんです!」



「うわぁ!本当に服になってます!」


 寝床に戻って前に覗いた記憶を元にしてレスティを纏う魔力の形を裾の長いチュニック風のワンピースにしてトリの光魔法応用で魔力全体の表面に光反射の術式を展開する。

 質感は光沢のある柔らかい感じにしてみる。


「きゃー!キレイな白色ですね!それに光沢が綺麗です!」


 次に羽織るように胸の上丈で裾がフリルになった黒く染めた肩掛けを出す。


「えぇ!すごいです!可愛いですコレ!」


 最後に腰当たりを紺色の紐で縛ったような形にする。


「かわいいです!すごいです!」


 クルクルと回ったり自分の装いの変化に喜んで居たそんなレスティは、その笑顔がピークに達した瞬間、突然動きを止めて視線を落とした。


『どうした?』


 あまりにも唐突過ぎる変化にグランは困惑と心配を足して二で割ったような声で尋ねる。


「いえ、大丈夫です。とても嬉しいのですが自分で見れないのは残念だなぁと思ってしまったもので」


 にっこりと笑って答えるレスティのそれは誰がどう見ても心配させまいと気を使ってる事が分かる笑顔だったので、俺は何か無いかと考えて、ふとトリを見た。


『なぁ、例の光魔法の幻術で板状の全部の光を反射する形状の幻術を出してくれないか?出来るだろ?』


「ニャ!」


 嫌そうにそっぽを向くトリにイラっとした所にレスティが手を組み合わせるようにして祈るようにお願いの追撃する。


ネコさん!お願いできませんか?」


「にゃぁ……」


 しかたないと言いたげな鳴き声をもらし、肩から目の前の小枝に飛び移りこちらに向けて、先ほど頼んだ幻術を構築する。


『俺が頼んだ時とはえらい態度違うな……』


「うわぁ!有難うネコさん!」


 そう言ってレスティは出来上がったの前で、再び嬉しそうにクルクルと回ったりと、自分の姿を楽しそうしていたが、また止まってじっと自分の姿を眺めてから今度はグランにお願いをする。


「ねぇグラン?今私の右半身を補ってくれてる黒い姿って左半身の私の姿を真似て、服装と同じように顔とか再現できないです?」


 言われるまで気が付かなかった事を俺は恥じた。

 考えてみれば誰だっていつまでも欠けた半身の姿のままで居たいなどと思う訳がない。

 

『すまない、すぐにやろう』


「ほんとう!うれしい!流石にこの姿じゃ服着てても町に入れないですしね!」


 嫌味を言ったわけじゃ無いだろうが、うぐっと無い心臓を突き刺すようなショックを受けて慌てて取り繕うように左半身の姿に右半身を映し出す。


『こ、こんな感じか?』

「鏡見せて!えーと、少し右が小さくてバランスが悪いかなぁ?」

『じゃ、こうか?』

「完全に左右全く同じだと何か気持ちわるい?気がしますね……」

『うーん、じゃぁ少しいじって……』

「まって!ねぇ前私の記憶を見てくれた事あったでしょ?あの時私の顔見て無いかな?それで姿思い出せないかな?」

『なるほど……』


 あの時か、そうだな確かに見たし覚えてる。

 よし!


『じゃぁ、こんな感じか?』

「うわぁ!うんうん!ちゃんと私だ!」


 満面の笑みを浮かべて踊るように身体を揺らしながら鏡に映る自分を見るレスティと同じで俺もレスティを眺めていた。


「よし!じゃね!今度はこのドレスが破ける前の姿で、裾はフリル三段重ねで……」


 レスティは俺が知る限り一番楽しそうに色々と注文を付けて夕暮れになる迄何着もの服装を楽しんだ。

 その夜、レスティが寝た後に俺はレスティの発音から模写した声帯で何度も調整しながら俺自身が納得できる声質で発音できるように練習をした。


 因みにレスティの服装は一番最初に俺が再現した裾の長いチュニック風ワンピースの色は薄いこげ茶色で腰にスカート部分があまり広がりすぎ無いように紐で縛っているようなデザインに落ち着いた。

 レスティとしてはもう少しかわいい服が良かったのだろうが、一般庶民に紛れるには可愛すぎる服はあまり良くないし、色も発色が良かったり綺麗な白色では目立ってしまうから仕方ないと諦めてくれた。

 まぁ、人の目の無い所ではこれからもちょくちょく色んな服に変えさせて楽しませてやろう。

 それぐらいならお安いものだ。


 ああ、もう一つ俺用の服装も決めて置いた。

 草臥くたびれた旅装束として薄汚れたチュニックに腰ひもと裾紐を縛るタイプの同じように草臥くたびれた感じのズボン、ターバンのように長い布紐を頭に巻き裾が擦り切れた長めの外套を羽織った姿だが、レスティは何故かその姿を鏡で見て、暫く笑いが止まらなかった。


――――――――――

こんばんわ猫電話ねこてるです!

今回から私の名前呼び方変えて居ますので宜しくお願いします!


◇次回 出立

もう少しで人里に出れそうです!

私はキャラ管理が苦手なので複数人のキャラをきちんと書き分けられるか不安ですが、頑張ります!


 

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