不義の子と家門からの追放

第23話 

 万里と部屋で話した翌日、万里の言った通りに呉寛という人物から研磨依頼の原石が持ち込まれた。

 その数は二百以上あり、納期は二十日後。

 既に依頼を受けている研磨もある中、忙殺される勢いで六人の職人達と手分けをして研磨を行っていた。


 依頼人の呉寛という人物も気になるが、それどころではない。

 寝る間も惜しんで仕事に取り組まなければ納期に間に合わないのだ。


 以前から桜家を贔屓にしてくれている取引先の信用は裏切りたくない。

 かと言って新規の依頼人も無下に扱うことはできない。

 正直、一度に百単位での研磨を立て続けに依頼されるのは不自然だが、もしも正当な目的や用途があっての研磨依頼であれば大口注文を失うことになりかねない。


「三十個以上の研磨依頼は必ず工場を通してくれとあれほど言ったのに」


 工場に詰めてから五日目の朝、太陽が最も高い位置に昇る頃。

 詩兎は恨み言を呟くような声音で言う。

 もちろん手はしっかり動かしている。


「俺達に死ねって言ってるんですかね……」


 天音が力のない声で言うと目が死にかけている職人達が次々と頷く。


「お嬢様、もう限界です……」


 職人最年少の少女である明々が目元を擦りながら詩兎に訴える。


「明々は仮眠室で寝てきなさい。仕上げは私がしておくわ」


 明々の手元にある青い石の研磨はほぼ終わっている。

 まだ十五歳の明々だが、研磨の腕は玄人の六孫に並ぶ腕前だと詩兎は思っている。


 明々はどこかの貴族の婚外子で母を病でなくし、一人で生きていくために研磨師になった。


「六孫、あなたは今日は泊まらないで家に帰ってしっかり休んで頂戴。天音、あなたもよ」


 職人最年長の六孫も四日前から研磨作業だけでなく工場の見張りも頼まれてくれた天音も体力の限界がきている。


「雄心、永心、あなた達も一度家に帰ってお母様を安心させてあげて」 


 詩兎より少し年上のこの兄弟達は足の悪い母親のために一生懸命働いてくれている。


 こんなに一生懸命働いてくれているというのに、給金は安いし、休みも上げられないことが不甲斐ない。


「お嬢様も無理はしないで下さい」


「そうですよ、お嬢様こそ休息が必要です」


 職人達から声が上がるが詩兎は笑って答える。


「もちろんよ。倒れたらそれこそ馬鹿らしいわ」

 

 詩兎も今手元にある分を仕上げたら少し休憩するつもりだ。

 しかし、この量をこなすには今日は寝ずの作業になるだろう。


 絶対にお父様が帰ってきたら抗議してやるんだからっ!


 六人では到底無理な依頼品の量だ。

 絶対に文句言ってやる。


 詩兎は鼻息荒く、意気込む。


 私は今いる職人達と、おじい様が大切にしていたこの家を守らなきゃならないのよ。

 泣き言なんて言ってられないわ。


「よしっ! やるわよ!」


 詩兎は改めて気合を入れ直し、机に向かう。


 もとより、身体は丈夫だし、研磨以外に取り柄はない。

 まだまだ日が高いというのに、人が掃けた工場で詩兎は黙々と作業を続けた。


「おや、お一人ですか?」


 静まり返った建物の中に聞き覚えのある声が響いた。

 

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