第18話
「華陽!! 良くやった!」
嬉々とした表情で陶辰は言った。
二人だけの謁見の間に陶辰の高揚した声が響き渡る。
「美しく優秀な私の娘なら必ず竜王の心を掴めると思っていた! 流石は我が娘」
「お父様、大袈裟よ」
華陽は謙遜しているかのように見せて心の中でほくそ笑んだ。
当然よ!
さっき庭にいた時だって目が合ったもの!
露火様もあの瞬間に私に惚れたに違いないわ。
でなければこんなに急に話が進む訳がないもの。
「皇帝陛下にお目通りが叶わなかったのは残念だが、竜王に見初められたことは幸運だ。これから忙がしくなるぞ。可愛いお前と皇家の婚姻だ。桜家の名に恥じぬようにしっかり準備をしなければ」
「もうっ、お父様ったら。気が早いのではなくて?」
「竜王は私に直接お前を呼ぶことを了承させたのだぞ? 本来なら文でやり取りをして家長と対面し、了承を得るのが通例。だが、竜王はそのやり取りを省いた。これはお前の噂を聞きつけ、実際にお前に会ったことで他の男にお前を奪われたくないと思ったのだろう。そうに違いない」
男とはそういうせっかちな面があるのだと陶辰は語る。
「皇家の婚姻となれば式は盛大。国中の貴族、要人が集まる。花嫁の父として恥じぬ格好をせねばならんな」
「お父様はどんな装いでも素敵だもの。大丈夫よ。問題は…………」
華陽が意味ありげに言葉を切ると陶辰は大きく頷いた。
「問題はあの足手まといをどうするかだな」
もちろん、詩兎のことだ。
腕を組み、苦虫を噛み潰したような顔をする陶辰を見て、華陽は歪んだ笑みを浮かべる。
お父様はお姉様を娘だと思っていないもの。
調度良いわ。
「お父様、実は今まで言えなかったのですけれど……私、見てしまったの」
俯いて小さくなり、震えて見せた。
「一体、何を見たというのだ? 話してみろ」
華陽の背中を優しく擦り、陶辰は言った。
これから起こることを想像して華陽は顔を伏せた状態でほくそ笑む。
「お姉様が、男性と逢引きしているところを見てしまったんです」
「何だと⁉」
華陽の発言に陶辰は華陽が予想した通りの反応をしてくれた。
そして顔を真っ赤にして憤り、目を吊り上げた。
「それは本当なのか⁉」
「はい……お相手の男性もいつも違うのです。私は止めたのですが……『余計なことを言ったらただじゃおかない』と脅されて……私、怖くって……!」
震えながら両手で顔を覆う。
うふふっ、笑い出しそうになるのを必死に堪えながら、恐怖に震える演技をするのって難しいのね。
「お前を脅しただと!? あの恩知らずめがっ!!」
あまりにも予想通りの反応をする父親に華陽はおかしくなってしまう。
「夜遅くに遊び歩いて、最近では仕事も怠けているようです。職人達を労るフリをして本当は自分が怠けたいの。お姉様の怠慢を諌めることができる職人や使用人はいないわ。お姉様がいるから仕事 が滞るのよ」
「能無しというだけで家門の恥だというのにっ! その上、男遊びだとっ……! 育ててやった恩を忘れて家門に泥を塗り、足を引っ張るとは!!」
怒りで震える陶辰は意を決したような表情で言う。
「詩兎をこのままにはしておけん。華陽、心配するな。この父が手を打とう。もう何も恐れることはない」
陶辰はそう言って華陽に寄り添う。
「ありがとうございます、お父様」
華陽は目を潤ませて陶辰は感謝の言葉を伝える。
「父として当然のことだ。私の娘は華陽、お前だけだ」
その言葉から父は姉のことを何とも思っていないことがよく分かった。
以前から、父が姉を見る目は父が娘を見る目ではないことは知っていた。
けれど、今日ほど姉を嫌悪した日はない。
能無しの役立たずな不義の子が可愛い娘の婚姻の障害になり得るとなれば当然だろう。
姉に向けられた底冷えするような冷たい視線と言葉に華陽は歪んだ笑みを浮かべる。
『さよなら』とする日も近いわね、お姉様。
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