第32話 原生林へ
「うぐ、ひっく、実家でもお……皆、最低でも3つの属性が扱えるんですけど、私だけ、燃焼系しか使えなくてえ……」
「きゅきゅ~」
「キュイ~」
「待て待て、イルカさん達、違う違う、泣かした訳じゃないから、ほんと」
「きゅいきゅいきゅい、ほんとでござるかァ~」
「え?」
「きゅ?」
今、あの青色のイルカ、明らかに……。
いや、そういえば割となんかしゃべっていたような……。
「……すまん、クリム君。責めるつもりはないんだ。ただ、これから先の生活で互いに出来る事の確認がしたかっただけだ」
「ほ、ほんとですかあ? ま、まだ捨てられません?」
「捨てない捨てない、そもそもここは社会とは隔絶した場所だ、使える使えないだけで人の価値が判断される場所ではない」
「な、なんて素敵な場所でしょう……あの、有機物を燃やすしか能がない私ですけど、本気で頑張るので……」
「ああ、だが、一点特化型の人材は逆にありがたいよ」
「ほへ?」
「君は偽る事なく、私に自分の能力を教えてくれた。虚偽や誇張なくね、それはこれから信頼関係を結ぶにあたって非常に重要な事だ。だから、ありがとう、クリム君」
前の会社でも一番厄介なのは、できるできると言ってやらない奴は出来ない奴だ。
能力の誤認、ごまかしをされて後からカバーするのはいつも私だった。
くたばれ、無能どころか、正直でもないカスども。
「……あ、う」
「む? どうかしたか?」
クリムが固まっている。
口をぽかんと開けて、私を見つめて。
「は、はじめて、言われました…そんな事、言ってくれる人、初めてで……その、私、ほんと頑張ります」
「ああ、なにしろ文明から離れた無人島での暮らしだ、せっかく同居人がいるなら仲良くしたい。いずれは家や風呂なども建てるつもりだしな」
「え。使いサマ、そんな事もできるのですか?」
「ああ、前の世界で会社――仕事がつらい時の現実逃避として、そういう勉強をしていてね。今日はとりあえず、私の知識が行動に追いつくかどうかの確認の為、簡単な工作をしてみようと思う」
「簡単な、工作、ですか?」
「君の能力が燃やす事に特化しているのが分かった。今度は私の能力が果たしてこの生活に流用できるのかを確認したい」
「それって……えっと」
「時にクリム君、君の使う魔術の中に空を飛べたり空中浮遊できるものはあるかい?」
「へ?」
「この崖の上を目指したい。ああ、あれだ。資材集めという奴だよ」
◇◇◇◇
「うひゃ、わあああああああ!? 嘘、嘘、嘘嘘嘘!? ウンディーネ!? 精霊種の限定召喚、いや、これってもしかして、完全使役じゃ――」
「ははははははは! 第一段階、成功だな」
『ちゅぷ』
ぐいーん。
私達は今、大きな手のひらの形をした水の塊の上に乗っている。
海から伸びる水の手、ウンディーネちゃんだ。
いやあ、モーセ達の船を持ち上げたりしたのを思い出してよかった。
ウンディーネに大きな水の手になってもらって、その上に乗れば別に空を飛べなくても、運んでもらえる。
さながらエレベーターのようなものだな。
一気に下になる砂浜、入江の海面ではイルカ達がヒレを叩いて見送ってくれている。
ぐんぐん伸びていくウンディーネ、それに運ばれる私達。
「わ、あ……これって」
「……おっと、凄いな」
崖よりもさらに高く、高く、ウンディーネの手は伸びていく。
島の全景が見える位置まで。
原生林。
圧倒的な光景が広がる。
南の島の森だ。
あの入江は、この島の一部、本当に隠れている場所に過ぎなかった。
「あ、あの、あっち、あれって、山ですかね?」
「ああ……すごいな、あそこまで大きいとは……だが、おかしい、海からはあんな山、見えなかったぞ……」
「あっちには、た、滝もありますよ」
「大瀑布だな……」
島の圧倒的な光景に息を呑む。
はははは、いいぞ。
夏休みには必ず必要なものがある。
それは皆が大人になっていくにつれて少しづつ失っていくものだ。
「いいね、冒険だ」
「し、仕事じゃない、調査も間引きも報告書も書かなくていいフィールドワーク……うひ、うひひひひひひ、家出して、よかった……」
久しく忘れていたそれ、心の中の小学生が目を覚ます。
冒険心がぐつぐつと沸き立って。
ウンディーネがまたゆっくり下降し、ちょうど崖の淵、森の入り口まで運んでくれた。
「す、凄い……森だ……濃い魔力……とても古い森のようですね……さ、サキシマさん、まずは、何から始めますか?」
「そうだな、まずは――A型フレームの作成から始めてみようと思う」
「……えーがたふれーむ?」
『ちゅぷ?』
クリム君と小型化したウンディーネが首を傾げるのは同時だった。
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