第15話
午後三時十分。北区の港。工場や倉庫が所狭しに建っている。ここで、仕事をしている人以外は立ち寄らない区だ。聖飛と賢斗は動画の男を捜していた。
全くと言っていいほどにひとけがない。小さい物音が響き渡るぐらいの静寂。
「本当に居るんですかね」
「居てくれないと困る」
「ですよね」
「おい。あの人じゃないか」聖飛は人影を指差す。人影は動画と同じ服装だ。
「あ、本当だ」
「行くぞ」
「了解です」
二人は走って、動画の男であろう人影に向かって走った。
男は二人の足音に気づき、振り向いた。男は正真正銘動画の男だった。
「あのー」聖飛は話しかけた。
「君達は?」男は訊ねる。
「暗号解いて来ました」
「ほ、本当かい?」
「はい」
「驚いたな。君達いくつだ」
「17と16です」聖飛は男の問いに答えた。
「……高校生か」
「貴方は一体何者何ですか?」聖飛は訊ねた。
「俺はステルス機関に所属する者だ」
「……ステルス機関。本当に存在したんだ」賢斗は言った。
「有名なのか?」
「知る人ぞ知る存在です」
「そうなのか」
車の排気音が遠くから聞こえてくる。排気音の音量がどんどん大きくなっていく。どうやら、車が聖飛達が居るこの場所に向かって来ているようだ。
「排気音?」
「やはりばれたか。時間がない」
「時間がない?どう言う事ですか?」
「君達にこれを託す」男はズボンのポケットからジッポと小型カメラを取り出し、聖飛に手渡した。
「ジッポとカメラ?」
「ジッポの中には仙石の計画が記されたオリジナルデータが入ったマイクロチップと他のデータが保管されている部屋のパスワードを書いた紙が入ってある」
「え?」聖飛は驚き慌てている。
「そして、そのカメラで今から起こる事を撮ってほしいんだ」
「今から起こる事?」
「あぁ、今から起こる事だ」
「どう言う事が説明してください」聖飛は突然の事で混乱している。
「説明している暇はない。いいから早く物影に隠れろ」男は物陰を指差して、催促する。
「ちょっと」
「早く」男は聖飛を押した。
「言う事を聞きましょう。聖飛さん」賢斗は聖飛の腕を掴み、必死に物陰に連れて行こうとする。
「……頼んだぞ」男は言った。
「意味が分からねぇ」
「しっかりしてください」賢斗は怒鳴った。
「……賢斗」聖飛は賢斗の怒鳴り声で我に戻った。自分は全然状況を把握出来ていなかった。
「最優先事項はなんですか?」賢斗は訊ねる。
「今から起こる事を撮影する事」
「そうです。カメラを回しましょう」
「……ありがとう。賢斗」聖飛は自分の情けなさを反省した。
「大丈夫です。僕もパニック寸前ですから」賢斗の腕は震えていた。賢斗自身も訳が分からないのであろう。
二人は急いで、物陰に隠れた。そして、賢斗が男に渡されたカメラの撮影ボタンを押した。
車の排気音が止まった。ドアが開く音が聞こえる。革靴が地面に当たる音が近づいて来る。
スーツを着た男が動画の男の前に現れた。聖飛達は物陰の隙間から、息を殺して見ている。
「梨本」
「捜しましたよ。早くデータを返しなさい」
「渡すはずがないだろ」
「なぜですか?」
「簡単の事だ。お前達のしようとしている事は間違っているからだ」男は言った。
「間違えている?そんなはずない。これからの時代を作る為の正しいおこないです」梨本は自信を持って語った。
「……正気で言ってるのか?人間が人間じゃなくなるんだそ」男は梨本に必死に訴えかける。
「至って正常ですよ。それに貴方は勘違いをしている。人間が人間じゃなくなるではなく神に近づくんです」
「ふざけるな」男は声を荒げた。
「うるさい人だ。静かにしていただきましょう」梨本はズボンの後ろポケットから拳銃を取り出し、男に向けた。
「どうしますか?データを渡しますか?」
「渡すか」
「……残念です」梨本は拳銃で男の額を撃ち抜いた。男は倒れ、額からは大量の血が溢れ出ている。
「……黙って渡しておけば命は奪わないであげたのに」梨本はズボンの後ろに拳銃を戻し、男に歩み寄り、男の着ている服を漁って、マイクロチップを手に取り、スーツの胸ポケットに入れた。その後、男を引きずり海に落として、何食わぬ顔で、車に乗って、どこかへ去って行った。
「……マ、マジかよ」聖飛は目の前で起こった惨劇で開いた口が閉じないでいる。
賢斗が嘔吐をした。目の前で起こった事に身体が耐え切れなくなったのであろう。
「大丈夫か。賢斗」聖飛は賢斗の背中を擦る。
「……は、はい」賢斗は平然を装うとした。だが、顔は青ざめている。それが彼の現在の精神状態を物語っていた。
「逃げるぞ」
「…………」賢斗は頷いた。
「立てるか」
「…………はい」
聖飛は賢斗に肩を貸した。そして、二人は立ち上がり、歩き出した。
「賢斗、カメラ」
「は、はい」賢斗は手にしているカメラを聖飛に手渡した。
聖飛はカメラを操作して、撮影を止めた。
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