#13
白に見惚れて目が離せないままでいると、さっきまで怖がってくっついていた柳田君がニヤニヤと笑いながら小声で「初恋ニキに進化しましたねー」と僕を揶揄する。
「煩い」
「否定はしないんですかー?」
「……煩い」
不毛な会話を繰り返す中、白は「螢」と唐突に僕を呼びつけた。
「なんだよ?」
「……さっき、『曲ができた』と申しておったな?」
「まぁ……そうだね」
僕の言葉を口の中で繰り返した彼女は、ふふふっ……と上品で繊細な笑みを僕にして寄越すと、愛おしそうに枯れ木を眺める。
「春まで……待ってくれないか?」
「えっ……?僕は良いけど、白は……」
「この枝は彼女の一部だ。……彼女は不老長寿の縁起物、可憐な桃の花が好きだった……この森に植えられた桃を、最期に見せてやりたいのだよ」
泣き出しそうな白の表情に胸を締め上げられた僕は、白が今までどんな気持ちでこの日を待っていたかを少しは理解しているつもりだ。
「……分かった」
僕が静かに答えると、白は悪戯っぽい表情で「アレが効いたな」と僕に駆け寄って抱き付く。
「うわ……っ!な、何すんだよ!!それに、アレって……」
「接吻」
「ぬぁっ?!」
僕を抱きしめたまま頬擦りをする白に抵抗するも、驚くほどサラリと闇歴史を掘り起こした彼女は事もなさげに話を続けようとする。
「ちょ、ちょっと待って!今、『接吻』つったよね?!」
何故か慌てふためいている昴は僕と白の顔を交互に見ると、騒がしく頭を掻いた。
「へー……事後関係じゃん」
「そういう事か」
勝手に納得する色々と物分かりの良さ過ぎる先輩と後輩は、生暖かい目で僕を見つめてる。
「いや、違うって……それには深い訳が……っ!」
「むむ……訳なんかないぞ?」
「訳もないのにキスしたのかよーーッ!!」
どうしよう……さっきの神妙さを失った面々は、見事に全ての話を捻じ曲げ出す。
「ふん……あれは担保であり、我に縛り付ける呪い……そうだろう、螢?」
「……物騒だな」
──何だよ……ちょっとでも期待した自分が馬鹿みたい。
もしかして白も……なんていう一握りの希望を見事に打ち砕かれた僕は、拗ねたように悪態をつく。
「じゃあ俺もー!」
昴が待ってましたとばかりに目の色を変えて手を上げて主張すると、白は僕と目を合わせてバツの悪そうに睫毛を伏せるて絹のように滑らかな髪を手で靡かせる。
「我は神だ……人の子の願いは聞かん」
「えぇー……そんなの酷だよぉ」
心底残念そうな昴と、白く透き通る頬に赤みを帯びた彼女が僕に振り返ると、益々僕は居心地が悪く咳払いをして目を逸らす。
気まずさのあまり白の顔を横目で盗み見ると、彼女は枯れ木を見ている時のような視線で僕を見つめていた。
「ほら、空が泣き止んだぞ……また、春に会おう」
空気に溶け入りそうな彼女の可憐な声が、静かな社に響いた。
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