#3
「……という事があって、取引をする事になったんです……」
長い長い螢の話を要約すると、偶然迷い込んだ杜の主、狐神の白に呪いから命を助けてもらう代わりに、彼女が望む『雅楽』を作る契約を結んだので否が応でも作曲する事になった……らしい。
色々と言い訳の入った螢の説明だが、俺には螢が白に好意を頂いているのは丸わかりだった。
「つまり、曲を作れば螢は助かると?」
「……そうですね、一応助かってるみたいです……」
なぜか赤面する螢はさておき、隣で退屈そうに話を聞いていた白は大きな欠伸をして「あぁ……」と大笑いする。
「別にあの『妖呪の契り』に、縛りなどはないぞ?」
「えっ?!」
「あれは冗談のつもりだったが、まさか本気にしていたとは……」
楽しそうにケタケタと笑う白を睨んだ螢は、赤い顔をさらに赤くして「なッ……えっ……ちょッ……待って!!」と言葉を詰まらせながら狼狽える。
──この2人、一体何があったんだ?
少しの疎外感を感じながらも、微笑ましい光景に自然と目尻が下がる俺は、螢の成長をしみじみと感じた。
「おい岡部とやら……人相が酷いぞ?」
急に真顔になった白は耳をピンと伸ばして俺に言い放つと、俺は溜め息混じりに「余計なお世話だ」と返す。
この光景の既視感に苦笑いした俺は、最近になってやっと少し可愛げの出て来た柳田を思い出した。
「おい……先輩に失礼だぞ!」
いまだに顔の火照りが治らない様子の螢は、慌てた様子で白に注意すると、俺に「本当にすみません」と頭を下げる。
──この様子を昴が見たら、驚くだろうな。
いつも遠慮がちで飄々としている螢とは真逆の、感情豊かで楽しそうな彼の様子に俺は吹き出した。
「別に柳田で慣れてる」
「確かに……」
螢も釣られて吹き出すと、螢に怒られてしょげていた白が身を乗り出してと目を輝かせ、興味深そうに俺と螢の顔を交互に見ながら、ふわふわの尻尾をピンと立てる。
「柳田……?何だソレは」
「バンドのメンバー、仲間だよ。岡部先輩と、後輩の柳田君、それから兄の昴」
「うーむ……螢には兄がいるのか!それも昴とは、実にややこしい」
「まぁ、双子だからね」
あくまで『神と話している』と言うよりも、世間知らずな友達と語り合っているような口調の螢は、昴について口を開いた。
「昴は、子供の頃から愛想が良くて、なんでもできる人気者で……いつも人に囲まれててさ」
昔を思い出す様に遠くを見つめる螢は、少し悲しげにも思える。
「双子なのにいつも遠くって、正直、小さい頃から嫌だった。……小学校でもクラスの委員長や野球部の部長やってたし、何の取り柄もない帰宅部の僕は、比べられるのが辛かった」
話せば話すほど声が小さくなる螢は、さっきとは打って変わって態とらしい作り笑いを顔に貼り付けて、静かに拳を握った。
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