第9話
アニマのアラームで目が覚めた。時間は7時20分。
疲れは残っているがちゃんと寝れたようだ。寝る前は寝れるか不安でしかなかったが。あの予言が現実で起こっているならもうニュースに流れているはず。
上体を起こして、アニマでニュースを調べる。
空気中にアニマの画面が現れた。画面には「半分の国が消滅」と言うにタイトルのニュースが一番上に表示された。
俺はそのニュースをタッチした。すると、ニュースの動画が始まる。
「現在分かっているだけで半分の国が消滅しました。原因は分かっていません。詳細が分かり次第随時お伝えします」
画面に映っているニュースキャスターが言った。その後、消滅した国が画面に表示されていく。アメリカ合衆国、アルゼンチン、カナダ……
消滅した国全て、予言通りだった。これで俺は確信した。本当に世界は終わる。もうそれは
揺るがない事実だ。
自分が怖くなってきた。昨日、行ったアメリカが消滅したのに何も思わない。少しは何か考える事があるはずなのに。まったく気にならない。
気を紛らせる為に違うニュースを検索する。
画面には「失踪事件多発」と「廃人化事件多発」が表示された。
「失踪事件」をタッチする。
「今月に入って、東京都内で失踪事件が多発しています。失踪した多くの者達が十代。全ての事件が繋がっているか警察は捜索中です」と画面に表示された。
十代って所が気になるな。なぜ、その世代だけなんだ。理由が何かあるのか。それともたまたまか。
「廃人事件」をタッチする。
「この2週間の内に100件もの廃人化現象が起こっています。全員にソスラクトされた形跡があるもよう。ネットマフィア・テバルドが関与しているものと思われます」と画面に表示された。
ネットマフィア・テバルド。アクティメントで犯罪を起こしている極悪集団。イリーガルエリアにアジトがあるらしいが誰も見たことはない。起こしている事件も多岐に渡り、目的が不透明。構成員の素性も全く分からない。謎ばかりの奴らだ。
失踪事件と廃人事件は繋がっているような気がする。テバルトが関与しているに違いない。ただの直感だが。
こんな状況だ。あと4日間のうちにこれ以上に恐ろしい事件が起こりそうだ。確証は全くないけど。
朱里と一緒に学校に向かっていた。何も変わらない。びっくりするぐらいに変わらない。天気も荒れてない。道を歩いている人達も怯えている様子もない。
「本当に体調大丈夫そうだね」
「まぁな」
「よかった」
「……心配してくれてありがとうな」
「うん。どう致しまして。そのお礼に今日クレープ奢ってね」
「はぁ?」
「だって、この前奢ってくれるって約束したじゃん」
「……そうだったな。分かったよ。放課後な」
約束したのは事実だし仕方が無いか。零無愛達が現れない限り、俺には何も出来る事はないし。それにあと4日で世界が終わるなら出来るだけ朱里と時間を過ごしたい。
「うん。絶対だよ」
「おう。絶対な」
こんな他愛もない会話ももうすぐ出来なくなる。それに人類、いや、世界が終焉するまでのタイムリミットは100時間もない。無駄に気持ちを上げないとやってられない。
2年三組の教室に着いた。クラスメイトは当たり前のように談笑したり、ふざけたり、勉強していたりしている。
誰も世界の終焉に怯えていない。知らないから怯える事も出来ないのか。でも、ちょっと考えれば日本も消滅するのではないかと思うはず。
自分の席に座る。
「おう、絽充。調子はどうだ?」
真喜雄が話しかけてきた。
「大丈夫だよ。昨日はごめんな。急に倒れて」
「謝るんなよ。お前は悪い事してねぇんだから。驚いたのは事実だけどな」
「衝撃的だったろ」
「調子乗んなよ。コノヤロー」
真喜雄は肩を軽く叩いてきた。
「ハハハ、冗談、冗談」
こんな冗談を言い合えるのが楽しいと感じる。それは普段の日々で生まれるささやかな幸せを気にも留めずにいた証拠だと思える。
「うるせぇよ」
「じゃあ、黙ろうか」
「いや、それは止めてくれ。寂しくなる」
「なんだよ、そんな奴だったか。お前は」
「いや、最近変わったんだよ」
「イメチェンか?」
「違うわ。なんだかさ、こんなご時勢じゃん。色々と考えるんだよ」
真喜雄のおちゃらけていた表情が悲しそうな表情に変わった。それに声のトーンも低くなった。これはふざけて表情を変えたわけではない。感情が動いてかわったのだ。長年親友をしている俺だけ分かる違いだ。
「……色々って?」
「言っても笑うなよ」
「笑わないよ。だから、言えよ」
「……怖いんだよ。もし、明日になったら自分がいなくなる事が。だってさ。他の国が消滅してるんだぜ。日本だっていつ消滅するか分からないじゃん。それに対して何も出来る事はないし。ただ消えるのを待っている。それが嫌なんだよ」
「……真喜雄」
自分だけではなかった。この世の終焉に対して絶望している人間が。もしかしたら、他の奴も考えているのかもしれない。平然を装っているだけなのかもしれない。みんな怖いんだ。俺だけじゃないんだ。なんだか、それを知れて、心の中でモヤモヤしていたものが少し軽くなった気がする。
「辛気臭い話したな。エロい話でもするか」
真喜雄は鼻を伸ばしながら言った。
「アホか。色々と台無しだわ」
「アホな事は自負しております。だから、エロい話をしようぜ」
「認めるな。それに朝からエロい話はきつい」
「冗談だよ。エロい話して、木場に文句言われるの面倒だしな」
「……なんだよ、それ」
「まぁ、楽しもうぜ。死ぬまで。死んだら何も考えらないんだしな」
「……だな。お前の言うとおりだ」
真喜雄は俺に気を遣ってくれているようだ。自分自身も怖いはずなのに。本当に優しいやつだ。だから、ずっと親友で居られるんだろう。
……悲観的になったらだめだ。少しでも明るくいかないと。発想の転換だ。終わりが決まってるなら、それまでを楽しめばいい。今まで気づかなかったものにも気づけるはずだし。
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