26話 きっと謝罪より反省が大事

 グループ名が郵送先となった俺たち3人は、早速当の本人であるアイラとの接触に成功した。


「ソウ、サキ……ユウセンパイ……謝るの手伝ってくれるノ?」


「まぁ、大したことができるかは分からないけど」


「大丈夫ですよ。奏くんがなんとかしてくれます」


「咲希さん、勝手にハードル上げるのやめてね?」


 一ボケ捩じ込んでみても、アイラの顔色は変わらない。銀色の混ざった髪がいつもより黒く見える。


 薄ピンクの唇はガッチリと縛られていて、表情を解かせることはできなかった。


「でも、アイラはなんであんなことしちゃったの?」


「みんなの空気が暗かったから、ちょっとでも明るくしたいなって思ったんだケド……失敗しちゃったヨ」


 視線は真下。長いまつ毛も、今回ばかりは下を向いている。


 アイラの言い分はわからなくもない。俺だって、葵先輩とのサウナはちょっとばかし居心地が悪かった。


 それに、きっとアイラは周りに元気がないと、空気を変えようと頑張る子なんだろう。俺の母親が他界した時だって一年生組でのボーリングを提案してくれた。


 ただ少しフレンドリーって彼女の武器が悪い形で人を攻撃してしまっただけ。


「悪いとは思ってるノ。でも、なんて謝ったらいいかわかんない。ワタシのこと嫌いになっちゃったカナ?」


「麻耶さんはそんな人じゃないよ。きっとアイラの言い分も聞いてくれるし、気持ちだってわかってくれる」


 そうだ。恋のトライアングル事件と違って、狐の仮面事件は二律背反じゃない。仲直りすればハッピーエンド。これなら俺の力でもなんとかできるかもしれない。


「でも居場所が分からないんじゃ、どうしようもなくないですか?」


 咲希さんの疑問はごもっともだ。連絡が取れる結衣先輩かつばき先輩の助力が必要不可欠だ。


「つばき先輩なら……」


 そう呟くと、優先輩が待ったをかけてきた。


「部長の方がいいんじゃねーの? お姉ちゃんの方は元々現場見てねーし。色々ナーバスだろ」


 デカパイ先輩かー。あの威圧感が実はあまり得意じゃなかったりする。かっこいいんだけど、ダメなものはダメと言ってきそうだし。


「あの…………私が結衣先輩に話してみます。郵送先のメンバーですし、多分1番喋ってますから」


「じゃあ、お願いしようかな」


「みんなアリガトウ」


「まだ感謝は早いですよ」


 と、なんとか一人旅していた結衣先輩を見つけ出し、話をすることができた。


「また顔を突っ込むのか君は……」


 結衣先輩は呆れ顔にため息までデコレーションしながら俺を見てくる。なんだか、厄介ごとには手を出さなきゃいられないタチだとか思われてそうだ。


「謝罪はアイラ1人でするべきだ」


 当たり前のように叩きつけられる正論にアイラはよろめく。攻撃を喰らっていないはずの俺もよろめくんだから、そのタワワな胸の爆弾は半端なものじゃない。


「せめて居場所だけでも教えてあげてほしいです……」


「咲希の言いたいことは分かる。謝る手段をくれって話だろ? けど、謝罪したいだけのやつに手を貸す気は無いね」


 その視線はアイラを向いていた。貫くほどの目力。結衣先輩も怒っているのが分かる。昨日の今日でまだはらわたも収まってないみたいだ。


 が、こちらも言われっぱなしじゃない。切込隊長のヤンキーが前にでる。


「待てよ。狐面きつねめんを庇うのはおかしくねーか? 私はそもそも謝る必要ないと思ってる。でもコイツは謝りたいって言ってんだ。なら、2人の問題だろ?」


「2人の問題というなら私を巻き込むな。連絡したいならアイラだってできないわけじゃない。麻耶を庇ってるつもりはないし、庇うって話なら、君たちの方がアイラを庇っているんじゃないのか?」


 結衣先輩は何も間違ったことを言っていない。けれど、その正しさはとても冷たくて、おそらく厳しい優しさなんだと思う。


「別にアイラが悪くないって言ってるつもりはねーよ。でも、対話じゃなくて謝罪って下手に出てんだ。その機会ぐらいやってもいいだろ」


「違うな。なぜ私がその機会とやらを作らなきゃならない。私はもうヒントを出したつもりだよ」


 また、結衣さんはアイラに視線を向ける。


 あー、そういうことか。本当に結衣先輩は友達思いだ。アイラは1人で謝罪すべき、謝罪したいだけ、2人の問題。全部彼女なりの筋の通し方の話だ。


 俺は隣にいたアイラの背中を少し強めて押す。結衣先輩の気迫に負けて、俺たちより一歩後ろだったのを、もう二歩前に。


 アイラが一瞬こっちを見て、すぐに俺の意図を理解してくれた。


「ワタシが頼まなきゃでした。麻耶センパイに謝りたいデス。居場所だけでも教えてクダサイ」


 結衣先輩は頭を下げたアイラを見た後、俺と視線を交わした。なんとも言えなくなって、ちょっと下に目を逸らす。胸があってさらに逸らす。


「いいよ。奏が声に出してたら手は貸さなかったけど、背中押すぐらいなら合格にしてやる」


 きっと結衣先輩はアイラに反省してほしかったんだ。謝罪してほしかったわけじゃない。似てるようできっと違って、きっとどっちも大切で。


 反省の色を見たかった。でも、そんな色見えない。だから、彼女と会う機会を己の手で掴んで初めて、反省とみなした。


 短編ミステリーが解けたみたいで、なんだかスッキリ。今日はよく寝れそうだ。


 と、結衣先輩は早速麻耶先輩と電話していた。そして、電話を切ってからアイラに一言。



「アイラ、奏を連れてすぐそこの公園に向かえ。優と咲希は行くな」




 えっ? 俺も?

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