19話 えっ? ついてるんですか?
合宿という名の学生旅行、初日の夜。もちろん男は別部屋なわけで、1人シクシクと露天風呂に向かう。
同じ部屋で寝ることができないのは分かってる。というか刺激が多すぎて寝れる気がしないし。莉里先輩とかが隣なら間違いなく社会的に死ぬ。
混浴とかあればな……なんて思いはしたけど、入る度胸も無いし、そもそもそんなものもない。脱衣所で着替えていると、聞いたことのある声が聞こえてきた。そう、男の脱衣所で。
「やっ、奏くん。僕も今から入るんだけどご一緒してもいいかい?」
「ええっ!? いやいや……ストップ! こっち男風呂ですよ!?」
「ははっ、バレてないとは思っていたけどまさかここまでとはね。僕、烏真 葵は正真正銘、男だよ」
待っ……て、待て待て待て。いやいやいや、こんな可愛い男の子存在していいわけがない。いや、いいんだけどそうじゃない。
「付いてるんですか?」
なに口走ってんだ俺は。
「見る?」
なに挑発してるんですか先輩は。
「見たいです」
なに欲出してんだ。
ズボンとパンツをシュルリって勢いよく下げると、それはそれはもうキレイな(以下略)。
こうして男2人は裸の付き合いをすることになった。
今思えば違和感もあったと言えばあった。例えば、入った当初に莉里先輩が「今は1人だけ」って言っていた。彼女なら「今は君だけ」なんて言いそうだ。
一人称が「僕」なのにも納得がいくし、すみれ先輩の恋愛がノーマルなのも解釈一致。趣味の話をした時に「男子でこれが嫌いな人はいない」なんて言っていたのも彼なりの伏線だったのかもしれない。
会って始めたの日に、俺へ強くアタックしてきたのは男子だからって理由でまちがいないだろう。
「まさか……いやー、そうなんですね」
「内容薄いね。念願の男部員だと思うんだけど」
「喜びより驚きの方が強いんですよ……全然気づかなかった」
熱すぎるぐらいの温泉に入って2人で横並び。肩から上はやっぱりどう見ても女の子。座っているのに、たちそう。
「今日の夜も、僕たち2人だよ」
「うわ……我慢できないかもです」
「はははっ! 我慢できないって、すごいこと言うね」
ちょっと待て……これが男の子とか嘘だろ。うん、絶対嘘。
いまだに俺は自分で見たことを信じられていない。
「それでね、奏くんにちょっと話したいことがあるんだ」
「なんでも聞きますよ」
この話の流れですみれ先輩が好きとか言う話が出てきたら激アツだ。
「僕ね、つばき先輩のこと好きなんだ」
激サムですね。俺は一旦口をつぐむ。どちらを応援するべきなんだろう。
ここですみれ先輩に乗って、彼女の方に逸らすことも選択肢としてはありうる。けれど、そんな勝手なことをして答えを出させてしまっていいのだろうか。
今思い出せば、咲希さんと3人でカフェに行ったときも、グループ替えで少し話した時もつばき先輩の話を出していた気がする。
「あれっ? 急に黙っちゃってどうしたの? もしかして被っちゃった?」
「いえいえ! 俺の好きな人はもう決まってるんで大丈夫ですよ」
「おっ? 誰、誰?」
白い肩を前に乗り出して、覗き込んでくる。一挙手一投足が女の子すぎでは。
「ヒバリさんです。1番辛い時に助けてもらって……」
「あー、今日話してたのはそういうことか」
「えっ?」
「んっ?」
葵先輩ってヒバリさんのこと知らないよな……。何か変な食い違いがあるような気がする。
「いや、僕なんか勘違いしてるかも。気にしないで。話を戻すね。やっぱり、僕って男らしくないかな?」
「あー、どうなんでしょう。俺には隠されてたんで分からなかったですけど、一つ自論を話すなら、男らしさだけがモテる要因ではない……って思います」
本当に当たり障りのない言葉だけを言って、俺は答えをはぐらかす。俺からこれをすみれ先輩に告げるべきか、告げぬべきか。
問題は自分の気持ちに対して俺か葵先輩、どちらから答え合わせをされるかってこと。
大きな軋轢を生まないためには俺から葵先輩の想いを伝えるべきだし、彼女の後悔云々まで話を伸ばすのなら、本人から伝えられるべきだと思う。
まぁ、なにもすみれ先輩が断られると決まったわけじゃないんだろうけど。恋愛にも妥協や打算はあると思うし。
「奏くんは優しいね。ずっと男らしくないって言われてきたから、分からないって答えだけでも嬉しい」
彼は少し上を向く。
「もともと病弱だったし、今も身体は弱いからさ。運動も最低限しかできないし、力だって弱い。肌も白いし声だって細くて。『それもいいじゃん』って手放しでそう言ってくれたのがつばき先輩だった」
葵先輩の話を聞いて、自分の驕りを知る。今の彼に逃げる道があるとは思えなかった。それはつまり、すみれ先輩に気持ちが傾くことがないように思えたってこと。
こうなるとつばき先輩の想いの方向も気になってしまう。おそらくあの人は多くの人に愛されている。そして、その分多くの愛を分け隔てなく与えてきたんだ。
なんか……恋愛って胸が痛い。
「応援……してくれる?」
「…………はい、できる限り」
「そっか、こんなこと相談できる友達初めてっ」
そう言って葵先輩は長いまつ毛を光らせて笑う。まだ、彼とは本当の友達ではいられない気がした。
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