第14話

魔王の間。

 魔王ルシファーと女王はそれぞれ玉座に座っている。僕とフギンはその二人の前で立っている。今から交渉をする為にだ。

「それで話とはなんだ?人間」

 ルシファーは偉そうに訊ねて来た。

「お願いと言うか、資金援助を頼みたくてきました」

「資金援助だと。衣装代か何かか」

「いえ。近隣の村や街を活性化する為に」

「貴様。それがキアラのライブに関係があるというのか」

 ルシファーの声には圧がある。でも、今の僕はその圧に屈する気がしない。

「あります。大有りです。貴方のおろかな政策の数々で近隣の村や街は貧困に嘆いています。そんな状況で、人々はエンターテイメントを楽しめるでしょうか。僕には楽しめるとは思いません」

「お前、誰にものを言ってる」

「貴方に言ってます。ルシファー様。アイドルで人々を元気には出来るとは思います。けれど、それはお金がある状況の場合です。お金がなければ、元気にはなりません。生きる事は精神論じゃないんです」

「貴様、どれだけ私を愚弄する気だ。人間界を消すぞ」

「それは契約違反です。いつも、そんなふうに提案をして来た者を脅していたんでしょう。ふざけるなよ。自分の愚かさに気づけ。愚王が」

 僕はルシファーに詰め寄って言った。

「……貴様」

 ルシファーからは禍々しいオーラが溢れ出している。

「その方の言うとおりだと思います。愚王と言われても仕方が無いでしょう。このような状況を生んだのは我々の愚行の数々で間違いないのですから」

 女王は口を開いた。

「アルテミア」

「私達は変わらないといけない時なのでしょう。私達の為にも、この国の領土にある街や村の為にも。そして、未来の為にも」

「……あぁ、そうかもしれないな。お前に言われたら、認めるしかないな」

 ルシファーから溢れ出していた禍々しいオーラは消えて行った。

「貴方」

「人間。いや、真音仁哉。私達は皆の為に何をすればいい。私達が出来る事は全てさせてもらう」

「……魔王。ありがとうございます。先程、愚王と侮辱した事は謝罪させてもらいます。すみませんでした」

「いや、いいんだ」

「ありがとうございます。それでは今から言う三つの政策をおこなってください。まず一つ目は魔王に納める税金を下げる事。二つ目はそれぞれの街や村を立て直す為の資金援助。三つ目は才能の発掘。そして、その才能に資金援助」

「……わかった。でも、最後の才能の発掘はどうするんだ?」

「こちらの世界にもテレビはございますよね」

「あぁ、あるが」

「それで募集するんです。アルバロールに近い者には来てもらい、遠い者には違う方法で。例えば、何かしらの通信方法を用いて」

「そうか。それなら、TVの枠を作ろう。通信の方は人間界の通信技術と魔法を融合したものが出来たと言っていたな。フギン。それは使えるか」

「はい。使えます」

「それならそれで頼む。私はお前の行動から学ばせてもらう。そして、これからどうしていけばいいかを考えさせてもらう」

「……はい。全てはキアラ様のライブ成功のためですから」

「あぁ。頼んだぞ」

「それでは失礼します」

 僕とフギンは魔王の間をあとにして、少し離れた場所に行く。

「貴方は恐ろしい人だ。あの魔王を変えるとは」

「僕は出来る事をしただけです。そう言えば、キアラの衣装はどうなっていますか。村からこっちに直行したじゃないですか」

 キアラは怒っていないだろうか。でも、こちらを先にしないと色々と面倒な事になるはずだ。だから、こちらを優先した。きっと、キアラには分かってもらえるはずだ。

「それは大丈夫です。他の者が行っています。衣装はあとで確認できるようにデータを送ってもらいます」

「そうですか。それはよかった。でも、あとでキアラには謝らないといけませんね」

「そうですね。私も謝ります。それではテレビ局に移動しましょう」

「移動魔法を使うんですか」

「はい。目を閉じてください」

「わかりました」

 目を閉じた。さすがにもう一度あの眩い光で目を痛めるのは嫌だ。


「着きましたよ」

 フギンの声が隣から聞こえる。

 僕はゆっくり目を開けた。周りを見渡すと、ニュース番組用のセット、4台のカメラ、照明機材、音響機材、他にもたくさんの物がある。スタッフも大勢居る。人間界と変わらない設備のテレビスタジオだ。

「本当にテレビ局ですね」

「はい。人間界のテレビ局を真似て作りました。機材は人間界のものを二ウムヘルデン使用に魔法などで改造しています」

「へぇーそうなんですね」

「それじゃ、早速撮りましょうか」

「え、もう許可取れたんですか?」

「はい。魔王が言えば一瞬ですから」

「……そうなんだ」

「それじゃ、撮影行きましょう。中央のカメラの前に行ってください」

「分かりました」

「確認なんですけど、さっき魔王に言った政策は三つとも言ってもいいですか?」

「はい。大丈夫です」

「分かりました」

 フギンの指示通りに中央のカメラの前に行く。地面には養生テープで×印がされている。

いわゆる、ばみりってやつだ。立ち位置はここですよと言う印。こう言うところも人間界から取り入れたんだな。

「皆さん。撮影しますので用意お願いします。キューは私が出しますので」

 フギンはスタッフに指示を出す。

「了解です。フギン様」

「わかりました」

 スタッフ達は各々返事をする。こう見たら、フギンもかなりの役職についているのだなと思う。だから、ここではフギンを立てないと。フギンのメンツが立たない。

「それじゃ、撮影行きます。3、2、1、キュー」

 フギンのキューが終わったと同時に音楽が流れ出した。

「は、はじまして、魔王の娘キアラ・リュッツイのマネージャを任されている真音仁哉です。よろしくお願いします」

 き、緊張する。普段は裏方だから表に出ない。だから、急に表に出ると、胃の中のものが全部出そうなほど辛い。でも、キアラの為。そして、あの大工の人達の為、魔王の領土内の者達の為にも頑張らないと。

「早速ですが、何故僕がテレビに出演しているかを説明します。それは皆様にお伝えしたい事があるのです。魔王は本日、三つの政策を打ち出す事を決めました。一つ目は魔王に納める税金を下げる事。二つ目はそれぞれの街や村を立て直す為の資金援助。三つ目は才能の発掘。その才能に資金援助です……」

 ……3秒ほど間を開けるぞ。もっと集中して聞いていくれるはずだ。でも、3秒でも間を取るのって結構勇気が居るんだな。心臓がバクバクしている。

「そして、明日から三つ目の政策、才能発掘を行いたいと思います。皆様が他人より秀でて居る物を教えてください。もし、自分には才能がないと思っている方は簡単でいいので、

経歴を教えてください。素晴らしいと思った才能には資金援助します。場所は……場所は……」

 やばい。場所を考えていなかった。

 フギンの方に視線を送る。フギンは「場所は1時間後に魔法通信にて、全ての方々に連絡が行くようにします」と書かれたフリップをこちらに向けている、

 ナイス。さすが魔王のしもべ。

「場所は1時間後に魔法通信にて、全ての方々に連絡が行くようにします。出来るだけ皆様の力を貸してください。これはこの国の未来の為です。みんなの力でこの国を盛り上げていきましょう。皆さんならできるはずです。よろしくお願いします」

 僕は頭を深く下げる。そして、3秒後に頭を上げた。

「これで最後になりますが一つお願いがあります。今度ライブハウス・マホロバにて、キアラ・リュッツイのライブが行われます。皆さんに来ていただけたら嬉しいです。それでは皆さんの才能を待っています。ありがとうございました」

 さっきより深く頭を下げた。その後、顔を上げて、カメラの映らない場所に向かった。

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