第16話 カイアと決闘!?
その日は急遽担任のヴァルナダが、隣国のラニスタール共和国へ出張しなければならなくなり、彼女が受け持つ剣術の授業は自習となった。
一応監督が必要なので、歴史学を担当するランドルという中年の先生が僕たちのクラスに来た。
とはいっても、特に監視する訳でもなくグラウンドの木陰でウトウトとしているだけだ。
「カイア様! どうか俺と一戦お願いできますでしょうか?」
「ちょっとまって! カイア様のお相手は私よ!」
相変わらず、カイアは人気だ。
いじめの一件から僕も逆の意味で人気にはなったが、こういう時は誰も声をかけてきてくれない。
「大変ですわねカイア様も」
気づけば当然のようにルティが僕の横に立っている。
「――大変? まぁ誘いを断るのは気がひけるが、アイツは別にそこら辺気にしないタイプなんじゃないのか」
「そういうことじゃないですわ。 あれはカイア様と友好関係を築くことによって、自分の家の力を強める事が目的なんですわ。 カイア様はドロセル様の弟子であり、有力貴族の御令嬢でもありますから」
「んじゃ、あそこにいるのはカイアではなくそのステータスを求めてる奴らってことか」
「全員が全員とは言いませんが……。 あぁいった有力貴族の方は簡単に”友達”とは言えないんですの。 その発言はその家と友好関係を築いていますって大きく捉えられてしまいますから」
「へぇ、やっぱそこら辺の事情詳しい辺り、お前もちゃんと貴族なんだな」
「ニカレツリー家は大した力は持っていませんわ。 本来なら知らなくていい情報ですの。 ただ、母がそのあたりの事情をよく知っていて……」
ルティは少しだけ浮かない表情を浮かべたが、またすぐに太陽のような明るい笑みを浮かべる。
「そんなことよりししょ……じゃなくて、ジャック様の教えのおかげでワタクシ、メキメキ成長しておりますわ!!」
「え?」
「ワタクシ師匠の教えを受けてから、いろんな知識を得ましたわ。 そのおかげで戦いの視野が広がりましたの。 自分でも戦い方が上手くなっていることが分かりますわ。 おかげで、苦手だった中距離戦闘が大分と楽になりましたわぁ!!」
「フーン」
僕からするとまだまだ下手くそなんだどな。
「あぁ、まぁそりゃよかったよ。お前はそのまま僕の教えを体になじませるように頑張れ。 僕は向こうで一眠りしてくるからさ」
「えぇ! ワタクシはジャック様と――」
「ジャック・ヤッシャー!」
人混みをかき分け、大声をあげながらカイアがこっちに向かってくる。
厄介なの来たな。
「――なんすか?」
「最近のアナタの実戦訓練を見ていたけど、最低ね」
カイアは自分の髪と同じくらい頬を紅潮させて腹を立てている。
コイツいつも何かに怒ってんな。
「クラスメイトとの戦いではテキトーな動きをしていっつも負けて、それなのに他の人の戦いを見て学ぼうともしない。 いつも戦いが終われば、先生の目を盗んで居眠りばかり……。 そんなにやる気がないならさっさとこの学院から出て行ってくれないかしら?」
カイアと話すということはクラス全員の視線を集めるということになるので、みんなカイアの意見に賛同する。
「そうだ、ここは凡人が居て良い場所じゃないんだよ! さっさとこの学院から出ていけ」
「今まで負けたことしかないのによく、ここに残れるわね」
気づけば、僕とカイアを中心にみんな円を作っている。
「いや、真面目に取り組ん出るつもりなんだけどな」
本音を言ったら、他の生徒の戦いを見たらソイツの攻略を思いついてしまうから、ネタバレくらった気になるのだ。
だから、良い感じに敗北感を味わったら早々に寝て、次に楽しみを取っていたのである。
「今まで、ドロセル様が認めた奴だから何か素質があるのだろうと思って黙っていたけど、きっとドロセル様が見誤ったのだわ。 あなたのレベルが通用する場所ではないのよ、ここは」
カイアは吐き捨てるようにそう言って、僕の前から立ち去ろうとしている。
――まてよ、これはチャンスだ。
上手くいけば、嫌われる且つみんなから戦いを挑んでもらえるのかもしれない。
「フッ、フハハハハハハハハハハハハハ!」
僕はさながら魔王の様に両手を広げ天に向かって笑い声をあげる。
カイアはギョッとしたようにこちらを振り返った。
「なによ、急に笑い出して」
「僕が今まで本気を出していたと思っているのか?」
「どういうこと?」
「手を抜いてやっていたに決まっているだろう。一方的な試合になってしまっては、君たちの学びを邪魔してしまうからな」
「はぁ?」
「その事実を知ったからと言って恥じることはない。 将来大英雄になるこの僕が、君たちよりも強いことは当たり前なのだから!」
また大英雄とか言っちまった。
「大英雄……最近あなたがそれになりたいっ噂聞いてたけど、ドロセル様も持っていないその称号を、あなたが将来獲得するっていうの」
「まぁね」
よしよし、着実に僕に対してのヘイトが溜まってきているのを感じるぞ。
予想通り、カイアは剣を抜くとその切先を僕に向けた。
「剣を抜きなさい、ジャック・ヤッシャー。 貴方がどれだけ不遜であるか、その体に刻み込んであげる」
僕達を取り囲んでいる観衆から、歓声が上がる。
キタキタキタァ!
ここで僕はどんなふうに敗北を味わえるのだろうか。
世界一の魔女の弟子ということは、当たり前だがとてつもない実力者に違いはない。
「随分と余裕そうに笑うじゃない。 気持ちの悪い……。 あなたのような愚かで、世間を知らない弱者と、一瞬でも剣を交えるのは嫌なのだからさっさとかかってきなさい」
そう言われ僕は嬉々として剣を抜いたのだが。
「お待ちになって! ジャック様に対してその言葉は頂けませんわ!」
ルティが突然割り込んできた。
おいおい、やめてくれよ!
「ルティ・ニカレツリー。 こいつの言っていることは万死に値する不遜さよ。 私は何も間違ってないわ」
カイアはルティを横目に見てニヤリと笑う。
「いいえ、ジャック様は決して愚かでも弱者でもございません! この方と戦うの前にワタクシを倒して見せて下さいまし!」
ルティは僕とカイアの間に立つと剣を抜く。
「待ってくれルティ。 僕は全然構わな……」
僕は小声でルティ囁く。
「いいえ、尊敬する師匠がこうも言いたい放題言われて、我慢できる弟子はおりませんわ」
ルティは剣を下げる気がなさそうだ。
こうなったら、弟子を守る師匠的な発言をしてルティを説得するしかない。
そう思いルティの肩を叩こうとした時、僕たちのすぐ近くに真っ赤な魔方陣が展開される。
「この自己召喚魔方陣は、まさか」
カイアが剣を下げその魔方陣をじっと見つめる。
「――面白いことになっておるの。 我も混ぜよ」
現れたのはドロセルだった。
「ドロセル様!」
カイアはすぐに剣を鞘に収め、ドロセルの前に膝をつく。
周りの生徒たちは私語をしなくなり、そして居眠りしていたランドルは魔力を察知して慌ててそこにやってくる。
「カイアよ、そこのジャックとルティが何か気にくわんことでも言ったのか?」
ドロセルは地面に膝をついいてひれ伏しているカイアに、問いかける。
「はい。 ろくに実践訓練に参加せず、参加したところで負けてばかり。 そのくせに……その、ドロセル様ですら得ていない大英雄の称号を将来自分は得る実力を持っているから、訓練では手を抜いてやっていると大口を叩いたので、身の程を弁えさせようと思っていたのです」
「なんじゃそんなこと別に…………」
ドロセルは何か言いかけると、動きを止める。
そして何かを思いつたように笑みを浮かべた。
「学院長である我に対してそのような態度は頂けぬな。 よってジャック・ヤッシャー、ルティ・ニカレツリー、貴様ら二人には我の弟子であるカイアと戦ってもらう。 もし二人とも負けたら即刻退学じゃ」
ふざけるな! この年増魔女め!
流石に退学をかけられてしまったら、負けるわけにはいかなくなる。
そして僕が勝ったりしたら、僕が強いという印象が広まってしまい、誰も僕に喧嘩を売ってこなくなることが容易に予想出来る。
――こうなったら……。
先にルティに勝ってもらうしかない。
僕はルティの方に手を乗せる。
「ルティ、今からアイツの勝つための方法を教える」
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