第5話  衛星エウロカッパ

 そうこうしているうちに、メインモニターには巨大なガス惑星へと近づく様子が映し出された。

 特徴的な大赤斑のある巨大惑星。


「木星じゃないか!」


「はい、竜宮城は木星の第二衛星 エウロカッパにあるんスよ、キュー」


 見ると今度は、ほんのり桜色をした月のようなものへとどんどん接近していく。

 これが、そのエウロカッパという衛星らしい。

 なんかこう、酔芙蓉の花を思わせる、うっとりするような淡いピンクの大気をまとっているぼやっとした星だ。


 亀型円盤は特にこれと言った降下シークエンスも無く、そのまま大気圏にぬるっと入るとどんどん高度を落としていく。


 ピンクの空と雲の合間合間には、空中を漂う水色の球体の構造物がいくつも見えた、距離感が狂うほどのデカい玉だ。小さな窓が無数に付いているので、あれは空中都市かなにかなのかな?


 やがて地上の様子が分かる高度まで降りてくると、ビルと思わしき建物がたくさん建ち並んでいるのが見えてくる。


 おお! なるほどこれは龍宮城だ。


 どの建物も、さまざまな南国のサンゴの形をしていた。

 テーブル珊瑚や、桃色珊瑚。あとはもう名前はわからないが、とにかく色々なユニークな形の建物が、磨りガラスみたいに淡く透き通った素材で出来ていて、それらが青、赤、黄、緑、紫、といった上品なパステルカラーで彩られている。


 なんてきれいなんだろう。

 これは楽園だ。


 南国の海の底にある桃源郷だと言われたら、そういう風にも見える。そんな光景だった。


〝絵にも描けない美しさ〟とは、よく言ったもんだ。


 キュー太郎の円盤は、ひときわ大きく立派な、おそらく迎賓館的な建物へと向かって行く。


 正面玄関の前は、乳白色のタイルが敷き詰められており、その両脇にはカラフルな熱帯魚が泳ぐ長方形の池が長~く続いている。


 そのまま円盤が着陸態勢に入るのかと思いきや、ツイ~っと通り過ぎてしまった。


「そうだ、旦那はドロドロでしたっスね、このまま龍宮中央パレスに下ろすのはまずいな。どうしましょう?」


「どうしましょう? って俺に聞くんじゃねえよ、そっちがなんとかしてくれんじゃないのかよ?」


「いやぁ~~~、ねぇ? もてなす分には相違無いんですけど、ドロドロの旦那をピカピカの宮殿に入れるっつーのは、いくらなんでもアレかなと……」


「そりゃそうだろうよ、そんぐらいお前が考えてなんとかするもんだろ」


「キュ~、参りましたねぇ」


「参りましたじゃねえよ馬鹿野郎」


 最悪だ、このカッパ。口ばっかりの典型的な全然使えないやつだ。

 接待の最中に顧客に仕事をぶん投げてどうする。

 コイツって嫁さんの実家のコネが無ければ、ろくな仕事にも付けないどうしようもないヤツなんじゃなかろうか。


「どうしたもんすかね? キュゥ~~」


 すっとぼけやがって、このやろう。

 そんなやつの接待でこんな遠い星まで来てしまった自分の判断の甘さを今更後悔しはじめていた。


「仕方ない、どっか河川敷で降ろしてくれよ、そこで洗う」


「そっスね。それしか無いっスよね」


 マジか、いくらなんでも止めるだろうと思って試しに言ってみたら

 ホントにその辺の川で洗濯させる気かよ!?

 

 こいつホント馬鹿だな、何がそれしか無いっスだよ。もっとマシな風呂屋か、なんかあるだろそういう施設が。こんだけの都市なんだから。服を洗う方法なんていくらでもよ。


 カッパは問題が解決したとばかりに途端に上機嫌になる有様だ。


 もう、いいや。

 なんかこいつをあてにするのはかえって事態を悪くするばかりで、不毛な気がする。


 街の外れの山裾に、森から流れ出ているきれいな河川があったので、そこに着陸をうながす。


「おい、俺が洗濯している間にオマエは着替えと、バスタオルと、あと濡れた服を入れる袋を用意してこい、分かったな?」


「旦那、お安い御用ですキュゥ~!」


「いいか? 3つだぞ。〝着替え〟と〝タオル〟と〝袋〟 だ。……分かったな?」


「楽勝ッスよ旦那ぁ~! バッチリ用意して来ますんで、旦那はゆっくりしていて下さい」


「こんな河川敷でゆっくりしたくねぇよ馬鹿野郎、おれはパンツ一丁になるんだぞ」


 そう俺が言うのもろくに聞き終わらないうちに円盤はどこかにすっ飛んでいった。

 大丈夫か? もうすでにフラグが立ってないかアイツ?


 俺はとてつもなく嫌な予感がした。


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