第59話 転生者、葉っぱひとつで説教される

 とりあえず、畑はウネに任せた俺はピエラのところへとやって来る。その手にはウネが育てたドライアドたちの主食である葉っぱを握っている。


「ピエラ、どうにかなりそうか?」


 扉を開けて、ピエラに進捗状況を問い掛ける。


「ああ、セイ。ひと通り目を通し終わったから、優先度の高い順に要望を振り分けてるところよ。何かあったのかしら」


 俺の声に気が付いたピエラは、作業の手を止めて俺の方へと顔を向ける。まあ、いきなりやって来ればそういう反応になるよな。

 俺は手に持っている葉っぱを、ピエラの目の前へと差し出す。すると、ピエラはぎょっと驚いたような表情をしていた。どうやら、これが何か分かっているような反応だった。


「うっそ……。『緑精の広葉』じゃないの。これどうしたの?」


「なんだ、その『緑精の広葉』ってのは……」


 ピエラから出てきた聞き慣れない単語に、俺はつい自然と質問をしていた。

 そしてら、ピエラはらしくない酷い顔をして俺をじっと見ていた。いや、本当に知らないんだけどな。


「ちょっと、セイ?! 本当にこの葉っぱの事を知らないわけなの?!」


 机に手を強く叩きつけて勢いよく立ち上がるピエラ。そんなに驚く事なのかよと、思わず俺は尻尾をピンと立てて一歩引いてしまった。でかい音は耳に響くんだよ。

 それにしても、俺が知らないことに対してピエラの反応が大げさすぎる。そんなにとんでもない事なのかと目を丸くしてしまう。

 そこへ席を外していたキリエがやってきた。


「魔王様、どうなさったのですか、そんなに驚いて」


 事情が分からないらしく、淡々と俺に質問を投げかけてくる。

 すると、俺が答えるよりも先に、ピエラが口を開いた。


「キリエさん、セイったら信じられないんですよ。見て下さいよ、セイが手に持っている葉っぱを」


「葉っぱ?」


 ピエラがすごい剣幕で喋るものだから、キリエはじっと俺の手を覗き込む。そして、ピエラと同じように酷く驚いた顔をしていた。


「なんでそんな葉っぱがここにあるのですかね」


「いや、ウネが勝手に育ててた葉っぱなんだけど、そんなに酷く驚くものなのか?」


「当たり前ですよ。魔法使いであるなら誰だって知ってます。『緑精の広葉』は貴重な魔力の回復薬の材料なんですから。葉っぱを持っているだけでも魔力の消耗を抑えてくれるのですよ」


「えっ、そんなとんでもない代物なのかよ……。ウネが大量に育ててたけど」


「なんですって?!」


 俺がぽろっとこぼすと、キリエはすぐさま部屋をものすごい勢いで出ていった。あのキリエが大慌てで出ていくなんて、そんな大事件なんだな。

 俺がぼんやりとキリエの姿を見送っていると、ピエラが俺の胸元をがっしりと掴んできた。


「ちょっと、近い。近いってば」


 ピエラは俺に顔を近付けている。

 男の時はかなり身長差があったのでこんなに顔が近くなることはなかったのだが、女性化したせいか俺の身長は少々縮んでいた。そのせいでちょっと引っ張られるだけでこの通り、簡単に顔が同じ高さで向き合ってしまうのだ。


「セイ、この事は絶対公にしちゃダメよ。魔法使いに錬金術師、治療師たちがこぞって欲しがるもの。そうしたらウネは過酷の労働を強いられることになるわ。分かるわよね?」


 ピエラのものすごい剣幕に、俺は無言で頷く事しかできなかった。こんな怖いピエラは、実に初めて見たかもしれない。


「それだけじゃないわ。魔力回復薬に錬金できるんですもの。そうなれば、さらに面倒なことになりかねないわ」


「な、なんだよ、面倒なことって……」


 ピエラの言い分に俺が分からないといった感じで答えると、ピエラは思い切り大きなため息をついていた。


「呆れたわ……。まあ、これはマールンがいる間は大丈夫でしょうから、杞憂で済んでくれると思いますけれどね」


 苦い表情で俺の顔を見ていたピエラは、ゆっくりと顔を背けながら話していた。

 だが、俺にはまったくどういう意味か分からなかった。


「まったく、分からないのならいいわよ。セイは魔王領の統治に集中してちょうだい。こういう事は私たちが頑張るから」


「あ、ああ。うん、頼むよ」


 結局、わけが分からないままピエラとの話が終わってしまった。

 ちなみにだが、俺が握っていた葉っぱはピエラに没収されてしまい、そのまま部屋を追い出されてしまったのだった。


「まったくなんなんだ?」


 俺はしばらくの間呆然と部屋の前で立ち尽くしていた。

 しかし、いつまでもそうしているわけにはいかないので、ウネの様子を見に戻ることにした。


(確か、キリエが向かっていったはずだからな。まったく、よく分からん反応だな……)


 俺はのんきにぽりぽりと頭を掻きながらウネのいる庭園と戻っていく。

 庭園に戻った俺が目撃したのは、キリエにたっぷりこってりと絞られているウネの姿だった。相当に長い時間説教されていたのか、ウネは半べそをかいてしょんぼりと落ち込んでしまっていた。

 最終的にウネの主食である緑精の広葉の栽培は認められたのだが、厳重に管理することを言い渡されていた。

 そして、その夜には俺までキリエに説教されることになったのだった。なんでだよ。

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