第21話





【アルヴァトロス領、新外縁部にて】



「【創造術式】発動――現れよ、御陵防壁」



 俺の指パッチンに合わせ、大量の石材が鳴動を始める。


 それらは浮かぶと重なり合い、連なり合い、成型と純化を行いながら、領地をすっぽりと囲んでしまう星型の巨大な壁となった。



「よし、第二御陵防壁の完成だ。石材集めに奔走した領民諸君には、心からの感謝を述べよう」


『うぉおおおおおおおおおおおおおアルヴァトロス様にお褒めの言葉をいただいたァアアアアーーーーーーーッ! 自分たちもう耳を洗いませんッッッ!!!』



 って耳は洗えよ! 汚いから!



「やれやれまったく……」



 領民が十万三千人になってから数日。俺は忙しい日々を送……ることになると思いきやそんなことなかった。


 というのも、『国災未亡人会』の三未亡人がめちゃ優秀なのだ。



「――閣下様、日傘を差しますわ」


「モイラか」


「あと全住民の氏名年齢性別家族持病趣味ついでに性癖を纏めたリストを未亡人会で作成しましたので、入用の際はお役立てを」


「……ご苦労。そなたは有能だな、本当に」


「ハイ……♡」



 まず、未亡人会の会長たるモイラさんである。糸目のおっとり栗毛未亡人だ。程よく垂れたMカップだ。


 この人がもう内政無双だ。現在数百人を超える秘密未亡人グループ(※布教により拡大中)の長らしく、部下たちと共に政治機構を作り上げてくれていた。



「――閣下はん、お疲れでしたら甘味の用意がありますえ?」


「フォルトナ」



 次に現れたのは、花魁おいらん風黒髪着物未亡人のフォルトナさんだ。じっとりと伸びたMカップだ。



「あと閣下謹製素材で作った鉄器や織物を商会販路で他領に持ち込んだら、そらもうみんな大絶賛でしたわぁ。天下の英雄が制作に関わってることも相まって、いくつもの領地で売れることになったから外貨がこれから流れ込みまくりますえ~?」


「……そうか。そなたもまことに素晴らしいな」


「あんがとなぁ♡」



 この人も死ぬほど有能である。


 シュレヒト領では商会を運営していたため、その人脈とツテを丸々こちらで利用して売り込み無双をしてくれていた。


 これで外貨だけでなく、ウチの領地の制作物に興味を持った民衆たちが次々に訪れてくれるだろう。



「――閣下、御命令とあらば小官がお身体をほぐします」


「ノルン……」



 次に現れたのは、茶髪軍服未亡人のノルンさんだ。乳頭の突き出たMカップだ。



「それと閣下。十二歳以上の全住民に対する射撃教練が致しました。閣下の開発せし『ボーガン』の命中率の高さに、閣下に仕えし者たちの空前絶後の士気の高さが可能と致した結果です」


「……それだけではなかろう。卿の【模倣術式】こそ最も効力を発揮したのではないか?」


「ハッ、お褒め戴き光栄の至りですッ!♡」



 この人も魔術師だったりする。


 宿した異能は【模倣術式】。他者の動きをトレースするという、少ししょっぱい能力だ。

 がしかし本命はそこじゃない。

 なんと、脱力状態にある他者に対して自分と同じ動きを強制も出来るのだ。


 それを利用すれば兵士の教練も可能となる。



「まず自分が修めた戦闘技術を自軍兵士に強要させる。すると兵士の肉体には、操られていた時の運動感覚が残るわけだ。あとは自力でそれをなぞれば、素人も高速で習熟に至るわけだな」



 要はどんな人間も自分レベルまで引き上げられる『学習装置』ってことだ。


 この人が俺の上官、つまり徴兵部隊の長になったのにはそういう由縁があるわけだな。


 

「お言葉ですが閣下、技術が身につくかはやはり本人のやる気次第ですよ。筋肉をつける必要もありますし。まぁこの地の領民たちは日々閣下との『創国』を夢見て、筋断裂するほど鍛錬しては閣下に治されてますがね」


「ほどほどにして欲しいのだがなぁ……(あと創国する気もねーよ!)」



 ともかく、この人の【模倣術式】は無駄にやる気マックスの住民たちと見事にベストマッチ。全員の戦闘力をほんの数日で底上げしたわけだな。


 あ~~どの未亡人もクッソ重たいのに、全員有能すぎて困るよぉぉお……!



◆ ◇ ◆



【領内大農園にて】



「――うむ、成功だ。先日撒いたばかりの種が、もう野菜として収穫できたぞ。畑の世話を行ってくれた領民諸君には、心からの感謝を述べよう」


『うぉおおおおおおおおおおおおおアルヴァトロス様にお褒めの言葉をいただいたァアアアアーーーーーーーッ! 自分たちもう耳を洗いませんッッッ!!!』



 ってだから耳は洗えよまったく!



「ふぅ……ともかく成功してよかったな、【創造術式】による高速栽培」



 膨れ上がった領民たちを食べさせるための策である。


 当初は【創造術式】で一か所の土地に栄養を集め、そこで普通に畑をやれば食わせていけると思っていた。

 だけどいきなり領民が十万を超えちまう大誤算が起きたんだよなぁ。なんかよくわからんけど。



「少々焦ったものだが、しかし」



 指を鳴らす。すると足元より生えた葉が鳴動し、ぽんっと見事なニンジンが浮かび上がった。



「出来るものだな。強制的な幹細胞発達」



 つまりは急成長ってわけだ。


 俺の【創造術式】は、材料とイメージさえあれば大概の素材いじりは出来る。

 土と水分から粘土を作り、脳内で形を作ったら水分を抜いて、一瞬で土器完成って感じでな。


 ただ今回は生命の根幹を改竄する事象である。ぶっちゃけ干渉するイメージは難しいかとも思ったが、



「役に立ったな、『腐胚将軍ムラマサ』との戦いが」



 かつて東方戦線にて交えた、ドワーフ族の魔術将である。

 宿した異能は【老化術式】。周囲一帯の有機生命を動植物・種族・敵味方問わず、急速に老いさらばえせしめる最悪の魔術だった。

 あれやばかったねぇ~。少年兵のセンドリックくんが数秒で痴呆老人になっちゃったもん。


 その魔術を食らった経験と、あと対策法として必死に『自己幹細胞に干渉しての進行保持』をイメージし続けながら戦ったこと。

 それらのおかげで発達干渉もサクッと出来たよー。



「領民たちよ、第一実験は成功した! これよりこの地は二度と飢え渇くことはないだろう。楽土創造へと大きく近づいたのだッ!」


『おぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ、まさに神の領域ッ! やはり我らは創造神話ジェネシスの中にいるのだァァアアアーーーッ!』



 死んでもついていきます閣下ぁ~! とテンション大爆発なみなさん。


 うんうん、ごはんいっぱい食べれるようになるのは嬉しいもんね。俺も野菜ゴロゴロシチューとか期待してるもん。



「ふむ、他の【創造術式】使いのためにやり方を残しておこうか」



 騒ぐみんなを横目にメモを書き残しますよっと



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 ・大公開! 『食料大量生産』のやり方!


 1:まずは畑を作りましょう。指定した土地に、地底より高品質かつどうせ不要の栄養素を大量に送ります。


 地底まで術式効力が届かない?


 そういう人は、『死界僧ザババ』のような“顔と名前知ってる相手を数千キロ離れてても殺せるヤツ”みたいなのに師事するか、俺みたいにそいつと戦って覚醒してください。



 2:出来た畑に種を投下。次に発芽するまでのイメージを行います。


 幹細胞分裂の正確なイメージが出来るほど頭よくない?


 そういう人は、『酔い痴れク・バウ』のような“知能に干渉して人を大賢者にも白痴にも出来るヤツ”みたいなのに師事するか、俺みたいにそいつと戦って覚醒してください。



 3:発芽に成功したら実が発生するまでをイメージ。

 それも成功したなら、次は一週間分の成長イメージ、次に一か月分の成長イメージをしていき、完成です!

 第一実験では植物が妙な成長をしないか観察するため、都度都度時間を置きましたが、この調子なら発芽から成熟まで一気に成長させられそうですね。


 途中で魔力が切れちゃう?


 そういう人は『氷河姫ルリム・シャイコース』みたいな全熱量エネルギーを抹消してくるようなヤツと以下略。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「俺、戦って覚醒してばかりだな……」



 なんか改めて悲しくなってきたわ。


 別に漫画の主人公ってタイプじゃないんだからさぁ、強敵と戦って超進化とかしたくなかったよ……!


 普通に学校でゆっくり成長したかったよジャンヌちゃん……!(※ジャンヌちゃん:同じ村の女の子。将来の夢は教師。初陣にて俺の前で惨殺され、俺はその怒りやらで【創造術式】に覚醒した。最期の言葉は『さぁ、おきください貴方様。我が屍をいしずえに、英雄譚を幕開けるのです……!』)



「ふむ、覚醒といえば……」



 俺はちらりと畑の一角を見た。


 そこでは身長130cmバスト130cmな白犬美少女ラフムちゃんが、デカい大根を必死に抜こうとしていた。

 何やってんだラフ太郎?

 


「うわぁ~~~~んッ、閉経寸前の未亡人共が超活躍しててハラたつのだ~ッッッ!」



 何言ってんだラフ太郎?



「このままじゃラフム捨てられちゃうから、せめて働いて役立つのだぁ~~ッ! ふぎーッ!」



 と言って大根とファイトするラフ太郎。


 まぁ焦るのもわかる。その豊かな体型とショック体験から魔術に覚醒すると思いきや、全然目覚めないんだもんな。

 いや別に覚醒しなくても放り捨てはしないけどさ。



「ふぎぃいいいいいいーーーーッ! 新品卵子パワーなのだぁあああああーーーッ!」



 とアホみたいなことを叫びながら、ラフムがおもっくそ力を入れた時だ。

 握っていたダイコンの葉が千切れ、彼女はひっくり返って後頭部を強打してしまった。

 そして、



閉経へけッ!?」



 ……謎の叫びと共に、その頭上に天使の輪がごとき光の紋様が浮かび上がる。


 魔導輪ハイロゥ。体内から溢れた魔力が形となる現象であり、つまり魔術師として覚醒した証拠だった。



「んっ!? ふおーーーッ、なんか頭から出てきたのだ! 閣下見てぇっ、おしゃれで可愛いのだ~~~! これもしかして、魔術に目覚めた証なのだぁ~!?」


「ああ……そう、だが……」



 って、お前の覚醒の仕方はそれでいいのかよぉーーーー!?

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