凄まじく読み応えのある作品でした。
日本人ならば感覚的に分かる「神さま的存在」が、知らぬうちにじわじわ精神を侵食してくる恐ろしさがあります。
しかし一方で、人と人とをつなぐ想いがどうしようもなく情緒を揺さぶってくる物語でもありました。
舞台となるのは「平坂町」。
かつて確かにあったはずの神社は、今や住人たちの記憶から消えていました。
十年ぶりに平坂町へ戻ってきた主人公・美邦は、級友たちと共にその神社のことを調べ始めます。
そんなうちに、周囲で少しずつ異変が起き始め——
幻視を映す美邦の視界を通して、過去にあった事件や事故の痕跡が見える町の風景。
家々の軒先に吊るされた紅い布。
出歩くことを禁じられた夜の時間。
眠っている間に這い寄ってくる、何者かの気配。
不穏で、不気味で、不可解な秩序で守られた町。それが平坂町です。
何より恐ろしいのは人の心です。
当人の気づかぬまま、さまざまな認知が歪んでいく。
ナニカの意図も感じますが、鎖ざされた社会の中でしばしばあり得る心理の変遷は、リアリティがあってゾッとします。
一人、また一人と命を落としていく協力者たち。
十年前の平坂神社で、いったい何が起きたのか。
タイトルにもある「神送り」の意味、そして美邦が平坂町へ戻るに至った真の理由とは。
自身のルーツと、誰かの過去の哀しい記憶と、いま現在の大切な人との確かなつながり——
それら全てが収束していくクライマックスは圧巻でした。
読めば必ず、この世界観にどっぷりと浸かり込むことになるでしょう。
切なく哀しい、しかしわずかな光も見えるような読後感は、しばらく胸を離れないと思います。
素晴らしい作品でした。もっと多くの方に読まれますように。