修羅狩り刃
辻 信二朗
【第一巻】
序章 修羅狩りの少女
「いたぞ! 逃がすな!」
突然の襲撃に
馬車が逃げ場を失うと、取り囲む者の中で
男は
「この地を治める領主と見受ける! 出てこい! 恨みはないが死んでもらう!」
男が声を張り上げたことで、集団は一斉に
今日も楽な仕事であったと、男は
「――――!」
男の背後で構えていた一団が次々に倒れていく。
気が付けば、立っているのは馬車に近付いた大男のみとなっていた。
「――な、何が起きた!? お、お前ら……どうしたというのだ!?」
「…………」
「なっ……!」
少女を見た男は
「
少女が放つ深紅の
「何だ……お前は……?」
「わしは――〝
「――――!」
少女の正体を知った男は、無意識の内に
呼吸がなかなか整わない男はそのまま腰を抜かして後方へ倒れ、迷うことなく
「も、申し訳ございません! 命だけはお助けください! よもや修羅狩り様と契約をしていようとは、いざ知らず――」
「安心しろ。誰一人として殺してはおらぬ。命が惜しければ答えろ。お主、ただの野盗か? それとも殺し屋か? 目的は何だ? 誰から依頼を受けたのだ?」
土下座の姿勢で
「そ、それは……」
男は顔面蒼白になり、
「そこに転がっている者どもを殺せば
口を
「
少女は脇差を大きく振り上げ、倒れている人間の首を目掛けて力強く叩きつけた。
あまりの衝撃に
「ひいぃぃ!」
「…………」
少女は斬撃を対象から外しており、人質となった者は無事である。
しかし男は仲間の
他人を
この手の輩は鍛え抜かれた
これ以上の
「……言わぬか。真面目な奴だのう。お主は殺し屋から足を洗え。どう考えても向いておらぬわ。お仲間を連れて
「は、はいぃぃ! しっ、失礼しました!」
少女が殺気を
逃げた男の取り巻きは見捨てられ、気絶したまま放置されている。
思わぬ行動に驚かされ、流石の少女も開いた口が塞がらなかった。
「……薄情な奴だのう」
しかし事態が収束しても
その様子を見た少女は馭者を気遣い、優しく肩を貸して
「わしが付いておる。何も危険はない」
「……はい、ありがとうございます」
騒ぎが落ち着くと、馬車の中から細身の
「流石のお手並みですね」
「当然だ。それにしても、あんな素人が殺し屋をやっておるなんて世も末だのう」
背後に転がる集団を見て、少女は小さく
若君も同様に肩を落とし、憂いを帯びた目で
「幕府が滅びてからというもの、明日を生きられる保証のない世界となってしまいました。この
「天下統一……か。お主の生き様をわしに見せてみよ。契約が続く限り、お主の命を保証する。わしが
そう高らかに宣言してから、少女は馬車の荷台の上に飛び乗った。
横になって
明日の天気はどんな具合だろうか。
「明日も晴れるといいのう……」
少女はボソッと呟いた。果たすべき
だが一抹の不安もない。いつ
少女を乗せた馬車は陽光の差すほうへ、ゆっくりと進んでいった――。
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